エネルギー小国日本の選択(16) ── 原発推進を求める産業界
値上げ余儀なく
業績悪化に苦しむ各社は電気代の値上げに踏み切った。2012年9月に平均8.46%の値上げをした東電に続き、北海道、中部、関西、九州など各電力がこぞって引き上げた。北海道と関西は、その後も想定通りに再稼働が進まず、再値上げをするに至った。一方、北陸、中国、沖縄の各電力は値上げをしていないが、2017年に入って北陸電が値上げすると公表し、厳しい経営状況が露呈した。 値上げには消費者や製造業をはじめとする産業界から反発も強かった。当然、電力各社は身を切る改革が迫られた。保養所や社宅の売却、スポーツなど福利厚生制度の廃止・縮小、従業員の給与削減を行い、理解を求めた。記者会見などの度に各社のトップは「徹底した経営効率化を進めている」と繰り返し強調するようになった。また「お客様にご負担を強いる」として、謝罪の言葉とともに窮状を訴えた。
・企業は急迫
こうした電力業界の動きに対し、製造業をはじめとする電力の需要家側は、節電に努めた。もっとも、2011年の震災直後は、夏を前に政府が電気事業法に基づき電力使用制限令を敷いた。契約電力500kw以上の大規模な商業施設やビルなどに対し、最大電力を2010年夏より15%削減するよう求める措置だ。1974年の第1次石油危機以来、37年ぶりに発動された。 大口でなくとも、お店の照明を減らしたり、省エネタイプの発光ダイオード(LED)に替えたり、営業時間を短くしたりといった対策のほか、在宅勤務を奨励してオフィスの光熱費を減らそうという取り組みも見られた。 こうして大震災以降、幸いにも需要過多による大規模停電は起きていない。電力の消費量は減少傾向が続いており、省エネがだいぶ定着してきたとも言える。
・再稼働~廃炉か延命か~
しかし電力供給が安定しているかという疑問は残り、議論が続いている。 毎年、夏と冬の需要期には、電力各社が事前に供給の見通し、計画を立て、「予備率」と呼ばれる供給余力を算定する。この率が高いほど供給量に余裕があるということになる。安定供給には最低3%が必要とされるが、震災直後から数年はぎりぎりの計画値を示す電力会社も多く、綱渡りの需給が続いた。電力源を石油から原子力へと着実に変えてきた変化の表れで、欠落した原発分の穴を埋める難しさを物語っていた。 泊3号機の停止の約2カ月後、2012年7月には関電の大飯原発3、4号機(福井県)が政治判断で運転を再開したが、翌年には定期検査で再び停止した。 大震災と原発事故の教訓を踏まえ、国が「世界一安全」と強調した、原子力の新規制基準が施行されたのは2013年7月だった。