体調不良の原因が不眠にあるとは…土井貴仁さん不眠症との闘いを語る
【独白 愉快な“病人”たち】 土井貴仁さん(元不眠症当事者/34歳) =不眠症 ものまね芸人の山本高広さん“結石”で命を落としかけた体験を語る ◇ ◇ ◇ 5~6歳の頃から、兄に比べて寝つきが悪いことや、幼稚園のお泊まり会で眠りづらいことで、「寝るのが苦手なんだな」という自覚はありました。そこから約20年間、不眠症でつらい思いをしたのですが、今はもう普通の生活ができ、睡眠薬も卒業しました。 今思えば、一般の人よりちょっと「夜型」の傾向があるだけなのだと思います。自分の睡眠のタイプと世の中のリズムが合わなかっただけ。 でも当時は、合わせられない自分が悪いのだと思ってさらに悪化させ、不適応感を募らせて自信をなくす……という悪循環でした。 不眠症の中にも種類があり、自分の場合はベッドに入ってから眠るまでに3~4時間もかかる入眠障害でした。寝入ってしまえばよく眠れるのに、なかなか寝つけないから朝起きられない。学校に行く日は常に寝不足だったわけです。 当然、体が弱くて休みがちな小学生時代でした。親は毎月のように病院へ連れて行ってくれましたが、体調不良の原因が「不眠」にあるとは気づいていませんでした。 中学では野球部に入り、休みづらい環境の中でがんばって通学し、夏休みも練習し続けました。でもお盆休みの後、体が動かなくなり、ズルズル学校を休むことに……。血液検査でも脳のMRI検査でも異常が見つからず、「じゃあ心の問題だろう」とカウンセリングを受けたりもしましたが、不眠症とは結び付きませんでした。 自分の中で、眠れないこととさまざまな問題が結び付いたのは高校1年生のときでした。無理に通学するのをやめて中退を選び、独学で高校卒業程度認定試験に合格しました。でも、不眠が原因で大学受験を失敗したときに「次の受験は乗り切りたい」と自ら心療内科を受診しました。睡眠薬を処方してもらい、3~4時間かかっていた入眠が2~3時間に短縮したこともあって、無事合格できました。 大学時代は、授業の時間を調整することで問題のない生活が送れましたが、問題は社会人になってからです。 入社3~4カ月ほどで周りのリズムについていけなくなりました。不安と焦りで、睡眠薬を増やしましたが眠れません。夏に睡眠時間が2時間になり、上司に相談して休職し、お盆休みを利用していったん実家へ帰りました。 ■認知行動療法で眠れる自信がついた これまでの過程で病院不信になっていた自分は、新たに別の病院を探すことはせず、不眠症の本を読み漁りました。そこで「不眠症の認知行動療法」があることを知ったのです。認知行動療法はさまざまな分野で有効であると以前から知っていたので、不眠症に対応している認知行動療法があるなら受けてもいいかもと思いました。 東京の代々木にある睡眠クリニックで、まずはこの治療法が自分に合うかどうかをチェックされたのち、2~3週間に1回のペースでカウンセリングを受けることになりました。自分の不眠症は「精神生理性不眠症」と分類されました。睡眠の妨げとなるストレスなどを取り除いても不眠が続くくらい、睡眠を悪化させる思考や習慣が体に染み付いてしまっているタイプだそうです。 不眠症の認知行動療法は、睡眠を悪化させるたくさんの考え方と行動を減らしていく心理療法です。最初の宿題は、2週間の睡眠の記録をつけることでした。ベッドに入る時間、眠るまでの時間、目覚めた時間やベッドから出た時間、さらに日中の状態や感覚、眠りや日中の満足度など、事細かに毎日記録します。 カウンセリングでは、睡眠の原理や悪化させる要因を学び、家では3つのことを徹底して実践します。それは、「眠たくなるまでベッドに入らない」「ベッドに入っても眠れなかったらベッドから出る」「睡眠以外(読書やスマホを見るなど)でベッドを使わない」ということ。昼寝はもちろんダメです。要は、眠れないつらい体験とベッドが結び付いているので、その結び付きを弱めて「ベッドに入れば眠れるんだ」という感覚を身につける訓練です。 ほかにも、朝に太陽を浴びることと食事のリズムで、朝起きて夜眠る習慣をつけることも必要でした。体の緊張をほぐす方法や、うまくいかない悩みや疑問を相談しながら、1カ月くらいで少し効果が出てきた感覚がありました。 その頃、休職期間が終わりましたが、治りかけだったのでそのまま退職し、治療を続けました。 代々木の病院への通院は半年ほどで終了し、その後も睡眠の記録を続けていくと、入眠までの時間が次第に減り、25歳の夏には1時間ぐらいで眠れるようになったのです。そこから医師に相談しながら睡眠薬の減薬を始めました。1錠から4分の3錠、2分の1錠、4分の1錠と減らし、飲まない日を少しずつ増やして、1年がかりでやめることができました。 今では入眠まで基本30分。1時間ほどかかる日もありますが、自分としては大進歩。これまでは不眠症という爆弾を抱えて、何をやるにも不安が付きまとっていましたが、眠れる自信がついたので、今は躊躇なく物事にチャレンジできるようになりました。 睡眠は大事なことです。子供のうちに睡眠の専門医につながっていたら……と思うので、教師や町医者にも睡眠についての正しい知識を持ってほしいと思っています。 (聞き手=松永詠美子) ▽土井貴仁(どい・たかひと) 1990年、京都府出身。幼少期から寝つきが悪く、中学、高校時代に不登校や中退を経験する。大学卒業後に就職するが長続きせず、24歳から「不眠症の認知行動療法」を受け、26歳でほぼ完治。現在は執筆を中心に活動している。著書に「ぼくは不眠症。」(合同出版)、「ベッドにいてはいけない」(弘文堂)がある。