働きながら本を読むのは贅沢? いつから読書は「労働の邪魔」になったのか
時代とともに、人々の働き方も読書の目的も変わってきた。そして現代人は、自分を効率的に市場適合させるための情報収集に走り、「読書」はノイズとして敬遠されるものに。しかし、本当にそれで良いのか? 『THE21』2024年11月号では、文芸評論家の三宅香帆氏に、これからの時代でより良く生き、働くための「読書とのつき合い方」を聞いた。 【解説】三宅香帆さんが教える「働きながら本を読む6つのコツ」 ※本稿は、『THE21』2024年11月号特集「これから10年の生き方・働き方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
日本人の読書量が減ったのは90年代
今年4月、かねてから世に問いたいと思っていたテーマを一冊の本にまとめました。タイトルは、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。この疑問、読者の皆さんにも少なからず思い当たるところがあるのではないでしょうか。本書には、これに対する私なりの答えも記されています。 詳しくは、ぜひ本書をお読みいただくとして(笑)、ここでは主に、読者に多いと思われる40~50代の方々と読書との関係性を、時代背景とともにお話ししたいと思います。 皆さんはよく「読書離れ」という言葉を耳にされるでしょう。このワードは1970年代から連綿と言われ続けていますが、日本の書籍購入額が実際に減り始めたのは90年代後半、今50代の方々が、新入社員や若手社員だった頃です。 その背景に何があったかというと、一つは91年のバブル崩壊です。ここから日本は、長い景気後退局面に入りました。 それまでは、働けば働いただけ、研鑽を積めば積んだだけ成功できて、ひいては経済も成長し、良い世の中になるという考え方が人々の間で自然に共有されていました。しかし90年代には、頑張ったところで経済は成長しないし社会も変わらないという認識が広がり、「社会は変えられないが、『自分』は市場に適合して生き残ろう」という考え方が色濃くなっていきます。 同時期に浸透したのが、欧米から入ってきた新自由主義思想です。国や自治体による福祉やサポートを最小化し、民間や個人の頑張りを期待する、つまり個人主義と自己責任論の考え方が、社会に浸透していきます。