シュプリーム の栄光と挫折。ブランドにおける希少性と企業成長は相反してしまうのか?
クールなブランドとは何か
買い物客がより多くのシュプリーム製品を入手できるようになった理由のひとつは、シュプリームが現在、2023年にオープンしたロサンゼルスの新店舗を含め、世界中に17店舗を構えているからだ。シュプリームのWebサイトによると、米国、ドイツ、日本、英国、フランス、イタリア、中国、韓国に店舗がある。 デジタルクリエイティブエージェンシーのカルチャー(Qulture)のCEO兼創業者であるクイン・マイ氏は米モダンリテールに対し、「この物理的な拡大はブランドへのアクセスを増やすのには役立ったが、シュプリームを特別な存在にしていた『イット』の要素を低下させた」と述べている。「昔、シュプリームがラファイエットストリートにあった時代、そこはスケーターのたまり場であり、クラブハウスのような場所だった。規模を拡大し、何軒もの店舗をオープンしたとき、それがどんなに立派なものだったとしても、コミュニティは失われてクールなブランドではなくなってしまった」。 こうした成長はすべて、シュプリームの創業者であるジェビア氏が2017年にインスタグラムに投稿したメッセージとは正反対のようにみえる。ただしその時点でシュプリームはすでにニューヨーク以外へ拡大しており、売上が数百万ドルに達していたことは特筆に値する。 2017年8月23日のインスタグラムの投稿でジェビア氏は、「シュプリームは小さなスケートショップとしてスタートし、今でも拡大するつもりはない」と語っていた。「私たちのショップはほとんど『秘密』のような場所だ。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のような有名ブランドとのコラボレーションや独占商品がある。限られた供給が私たちの商品に対する価格と欲求を高めている」。
オルタナティブでもニッチでもなくなった
ジェビア氏がインスタグラムにその投稿をした2カ月後、シュプリームは株式の50%を、4250億ドル(約61.6兆円)の資産を運用すると称する世界的な投資会社、カーライル・グループに売却した。カーライル・グループはこの取引に5億ドル(約722.6億円)を支払い、シュプリームの評価額は10億ドル(約1450.3億円)となった。そして3年後の2020年、VFコーポレーションが21億ドル(約3035.1億円)でブランドを買収した。 どちらの動きもシュプリームの「クールな要素」を縮小させたと、情報筋は米モダンリテールに語っている。長いあいだ、アンダーグラウンドな世界の一部だったシュプリームは、今や米国企業の最前線に君臨することとなった。もはやオルタナティブでもニッチでもなくなった。結局のところ、コングロマリットと手を組むことは「異なる認識を生み出すのだ」とスノベットのサカニー氏は言う。 今、シュプリームは再び新しい所有者を迎えようとしている。7月17日、レイバン(Ray-Ban)やサングラスハット(SunglassHut)も所有するアイウェア企業エシロールルックスオティカが、シュプリームを15億ドル(約218億円)で買収すると発表した。エシロールルックスオティカのCEOであるフランチェスコ・ミレリ氏と副CEOのポール・ドゥ・サイヤン氏は共同声明のなかで、シュプリームの「独自のブランドアイデンティティ、完全直営の商業的アプローチ、顧客体験を維持するために努力する」と述べた。シュプリームの創業者ジェビア氏は同社に留まるという。