高校最後の試合で40得点ノルマ達成…岡豊のエース伊藤と川井コーチが残した確かな足跡
3年間の集大成と公立校の矜持を示す
これだけのパフォーマンスを発揮する選手だ。中学時代から注目を集め、強豪校からのリクルートの対象になるのではないかと想像できる。それについて川井コートに聞くと、ドライブの鋭さは地元では知られている存在だったが、他の選手と同様に「地元の普通の中学の子たちが入部してくれた中の一人」(川井)だったという。 それでも伊藤の将来性を見込んだ川井コーチが1年からスタートに抜擢、試合経験を積ませることで成長を促した。勝負を決める大事な場面でボールを伊藤に託すこともあったが、それこそトライ&エラーで覚えていったことも多かった。 そして、3年生の夏には「第32回日・韓・中ジュニア交流競技会」U18日本代表に選出。全国レベルの選手たちに揉まれたことで、伊藤は多くのことを吸収していった。代表から帰ってきた伊藤を見て、「ポイントガードのプレーを教えていただいて、特にアシストはパスを出せば決めてくるチームメートがいるので、プレーの幅を広げて帰ってきました」と、川井コーチは振り返った。 伊藤がいることで「チーム全体のレベルが上っていった」と語った川井コーチだが、それを後押ししたのがU18日清食品ブロックリーグとも加えた。 「リーグ戦なので1回負ければ終わりではありません。次々と対戦相が組まれているので、次の対戦相手をリクルートして、それにジャストする練習を続けることで、相手への対応力が本当についていきましたし、選手たちも手応えを感じていたはず」(川井) こうして、伊藤とはじめとする岡豊の集大成がこの大会で発揮されることになる。 3回戦の昭和学院戦、前半までは互角の勝負ができたが、後半に入り伊藤を中心とする攻めにアジャストされて試合の主導権を握られていく。特に第3クォーターには伊藤のドライブが封じられ、ターンオーバーから得点を奪われることもあった。 第3クォーターを終えて、第4クォーターに入るブレイクで、川井コーチは「ドライブに固執する必要はない」と伊藤に伝えた。この言葉どおり、伊藤は最初のプレーで見事に3ポイントユートを決めてみせる。このシュートこそ、伊藤が川井コーチと築き上げたもの。伊藤は試合後のインタビューで、「入学したときから川井先生に先生に教えていただいて。自分でも大きく成長できた3年間だったと思います。川井先生には本当に感謝していますし、自分のこれからのバスケットキャリにつなげていきたいと思います」。 第4クォーターだけのスコアを見れば、16-12と岡豊が上回ったが、後半、ペースをつかんだ昭和学院の牙城を崩すことはできなかった。伊藤はノルマの40得点を達成したが、残念ながら勝利を導くことは叶わなかった。 その伊藤は岡豊での成長を糧に4月からはインカレ2連覇の白鷗大学に進むことが決まっている。 「高校生活に悔いはないです。チームの目標である2回戦突破は達成できたし、最後の最後で40点取れたし、悔しいですけど、やりきったなと思います。白鷗大では1年生から試合に出てキャリア積んで、将来代表入りを目指します」 伊藤をはじめとする選手たちとともに歩んだ川井コーチは「指導歴25年の中で今まで見たことのない景色を子どもたちに見せさせてもらいました」と言葉をつまらせた。「『公立の代表になれ』と子どもたちには言ってきましたが、私たちがこれだけやれたことで、公立校の皆さんに勇気を与えられればと思います。『自分たちも』と思ってもらえればうれしい限りです」 さらに「無名の中学の子たちが集まって、よくやってくれましたよ。ありがたいです。そして、サポートしてくれた保護者の皆さんにも感謝です」と言葉を続けた。 イエローのユニフォームは残念ながら大会3日目で去ることになった。それでも多くのファンの記憶に刻まれれている。大きな一歩を記した。 文=入江美紀雄
BASKETBALL KING