妊娠中に足が大きく変化して元に戻らない場合も、何が起きている? 予防策は
重心が変わり扁平足になりやすい
妊娠中は体の重心が変わるため、歩き方も変化する。 通常は、歩くときに体重がかかとから足の親指の付け根に移動する。しかし、妊娠中にお腹が大きくなり、おへそが徐々に体幹から離れていくと、前に倒れそうな感覚になる。 「すると、歩く際に親指の付け根に体重がかかり、体全体が前のめりになってしまいます」と話すのは、整形外科理学療法士で、足の健康改善と歩行力学の教育に焦点を置く米企業ゲイトハプンズの副社長でもあるミリカ・マクドウェル氏だ。 このアンバランスについては、例えば、リュックサックを前に抱えたときと、背中に背負ったときを比べるとわかりやすい。人間の体は、背中に重い荷物を背負いやすいようにできている。 また、妊娠で体重が10~15キロ増えると、足裏のアーチにかかる負荷が劇的に増える。ゲラー氏によると、この体重増加に加え、妊娠中は靱帯を緩める働きをする「リラキシン」というホルモンが分泌されることで、アーチが伸びて広がり、下がる。 「体に余分の負担がかかり、しかもそれがすべて前方にかかると、アーチが元に戻りにくくなり、足の裏は平たくなってしまいます」と、マクドウェル氏は指摘する。そして最終的には、歩くたびに体重が親指の付け根ではなく足の縁にかかるようになる。 複数回妊娠したことのある女性は過回内足(かかいないそく、かかとの骨が内側に倒れた状態)になりやすいことが研究で示されたと、米ニューヨーク州にある特殊外科病院(HSS)のシニアディレクターを務めるハワード・ヒルストロム氏は話す。氏がシーガル氏とともに共著者を務めたこの論文は、2020年5月11日付で医学誌「PM&R」に発表されている。
足底腱膜炎と外反母趾
もう一つ、妊娠女性の足によく起こる問題が、足底腱膜炎(そくていけんまくえん、足底筋膜炎とも)だ。 英ロンドンを拠点とする機能性足病医のリナ・ハリス氏によると、これは足の裏に沿って走る靱帯のような足底筋膜に起こる損傷で、結合組織の緩みや足の筋肉の弱まり、ふくらはぎの硬化、妊娠による体重増加によって起こる。治療すれば完全な回復が期待できるが、放置すれば症状は残り、後々悪化する恐れがある。 さらに妊娠中は、ホルモン値の急上昇で関節も緩くなるため、きつい靴を履いたときに外反母趾(がいはんぼし)になりやすくなる。 「通常なら、外反母趾になるまでに10カ月以上かかりますが、妊娠中はその進行が速まります」と、ハリス氏は言う。「症状の重さにもよりますが、治療することで改善はします。ただ、関節が完全に元の位置に戻ることはないでしょう」