異常すぎる近年の気候変動に、それでも「グリーンテック」がまだ有効でない“3つのワケ” 「削減できる二酸化炭素の量より排出する量のほうが多くなってしまう」
残された2つの選択肢
現状のグリーンテックは、ほとんどの地域のほとんどの人々にとって、目立った変化をもたらすほど実用的ではないし、安価でもない。 利用できるのは、資本が豊富な先進国で、さらに偶然にも大規模な人口密集地が日当たりのいい場所や風の強い場所に近い場合に限られる。アメリカの南西部の4分の1は条件がよく、大平原地帯、さらにオーストラリア、北海沿岸部も同様だ。 その他のほぼすべての地域は、エネルギー需要の大部分を従来的な燃料に頼り続けるだろう。温室効果ガス排出の観点では、これは実際とてもまずいことだ。なぜなら、そうした地域の大半は、石油と天然ガスもグローバル市場から手に入れられなくなるのだから。 石油も天然ガスも調達できず、地理的に太陽光発電も風力発電も十分に利用できないとなれば、単純な決断を迫られる。 選択肢Aは、過去2世紀にわたって人類を進歩させてきたあらゆる製品を手放し、食料生産の壊滅的な減少に苦しみ、生活水準と人口を大幅に低下させること。電気なしの道を行くのだ。脱工業化。脱文明化である。 あるいは……選択肢Bは、ほぼすべての国の土地に埋蔵されている燃料、つまり石炭を使うことだ。多くのとりわけ運の悪い国々は、褐炭と呼ばれる、燃料としてかろうじて使える程度の石炭を使わざるをえなくなる。 通常、褐炭は重量の5分の1が水分で、現在使用されている燃料のうち飛び抜けて効率が悪く、かつ汚染の影響が最も大きい。ドイツは、現在すでに褐炭を主な発電燃料として使っている。グリーンテックはドイツの地理的条件に合わず、使いづらいからだ。それなのに、環境保護という名目で、他の燃料を用いる発電所をほとんど閉鎖してしまった。 この惑星では、大規模な経済崩壊に見舞われると同時に、二酸化炭素排出量が大幅に増加する、そんなことが十分にありえるのだ。 文/ピーター・ゼイハン
---------- ピーター・ゼイハン(ぴーたー・ぜいはん) 在オーストラリア米国務省、民間諜報会社ストラトフォーのバイス・プレジデントなどを経て、2012年に自身のコンサルティング会社ゼイハン・オン・ジオポリティックスを設立。エネルギー大手企業、金融機関から米軍まで、幅広い分野のクライアントを抱える。主な著作に『地政学で読む世界覇権2030』など。 ----------
ピーター・ゼイハン
【関連記事】
- アメリカ主導のグローバル経済は「世界の終わり」なのか? 第二次世界大戦が終わり、世界支配をせず「秩序」を作ったアメリカがもたらしたのは…
- 世界が熱狂する、日本発のベストセラー「人新世の『資本論』」。若き経済思想家・斎藤幸平が「SDGsは“大衆のアヘン”だ!」と考える理由
- 「マルクスで脱成長なんて正気か?」それでも50万部超のベストセラーとなった「人新世の『資本論』」で斎藤幸平が真に伝えたかったこと。「3.5%の人々が本気で立ち上がれば、社会は大きく変わる」
- 何故プラスチックゴミが海に流失するのか。では埋めればいいのか?焼却すればいいのか? 廃プラスチックのもっとも「サステナブル」な処分方法とは
- 維新以来、欧米に追いつけ追い越せでやってきた日本にとっての真のSDGsとは? 地球環境問題と50~60年代の日本で起きた公害問題、東大と京大の本質的な違い