異常すぎる近年の気候変動に、それでも「グリーンテック」がまだ有効でない“3つのワケ” 「削減できる二酸化炭素の量より排出する量のほうが多くなってしまう」
電池に蓄えるという代案
技術的な課題とコストの両面において、グリーンテックへの移行は現実的には至難の業どころではない。これは、4万3000TW・h(2010年から2021年までのグリーンテック総発電量の約70倍)の電力を発電するのに十分な太陽光パネルや風力タービンを設置するという、比較的単純な作業のことを言っているのではない。 現状のグリーンテックでは化石燃料の需要を10%程度しか減らせず、その「達成」さえも完璧な地理的条件がそろっている場所でのみ可能である。条件に恵まれたいくつかの地域では、従来型発電の半分をグリーンテックに置き換えようとしてきたが、発電容量、安定性、送電における問題を解消するとなると電気の価格は4倍に上がってしまう。 とはいえ、この状況を打開できるかもしれない(「かもしれない」を強調しておこう)、補完的な技術は確かにある──電池だ。グリーンテックで発電した電力を、使うときまで電池に蓄えておくというものだ。安定性? 給電調整能力? 需給のミスマッチ? すべて解決する! 場合によっては送電距離も短縮できる。 しかし、理論上では問題なく機能するのだが、残念ながら実際にはいくつかの問題が立ちはだかる。 1つめはサプライチェーンだ。石油の産地がいくつかの場所に集中しているように、現代の電池化学の主な原材料であるリチウムも特定の産地に集中している。原油を製品に使うために精製が必要なのと同様に、採掘したリチウム鉱石はまず精鉱へと加工し、製錬して金属にしてから電池に組み込まれる。 現代のリチウムのサプライチェーンは、オーストラリア、チリ、中国、日本に滞りなくアクセスできることが必須条件だ。 石油よりは少しシンプルだが、はるかに単純というわけではない。東アジアに何かが起これば(そして、東アジア全域には今後あらゆることが起こるだろう)、電池の製造チェーンの大部分を他の場所で再構築する必要がある。それには時間がかかる。お金もかかる。たくさんの。リチウムイオン電池技術の大規模な応用を目指すならなおさらだ。
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