異常すぎる近年の気候変動に、それでも「グリーンテック」がまだ有効でない“3つのワケ” 「削減できる二酸化炭素の量より排出する量のほうが多くなってしまう」
グリーンテックには多くのスペースが必要
密度の問題がある。私は田舎に住んでいるので、家はそれなりに広い。うちには10kWの太陽光発電システムを設置しており、南向きと西向きの屋根の大部分を覆うパネルが私の電力需要のほぼすべてを賄っている。 しかし、もし私が都会に住んでいたら? 屋根が小さければパネルを設置するスペースは減る。アパートに住んでいたら? 「屋根」は共有スペースであり、そこにパネルを載せるなら複数の住戸に電気を供給することになる。高層マンションに住んでいたら? 狭い屋根スペースのほんのわずかなパネルによる電力を大勢の人たちが使用することになる。 化石燃料はとても濃縮された物質で、文字どおり「エネルギー」の塊だ。対照的に、あらゆるグリーンテックは多くのスペースを必要とする。なかでも太陽光発電は最悪で、エネルギー密度は従来的な方法の発電と比べておよそ1000分の1だ。 アメリカのメガロポリスを考えてみよう。北はボストンから南はワシントンDCまで、人口の密集した大都市が並んでいる。これらの沿岸都市の狭いエリアに国の人口のおよそ3分の1が住んでいるのだ。 これらの都市があるエリアは、太陽光および風力発電のポテンシャルが非常に低く、それで地元に住む人々に十分な量の電力を提供するなどとはまず考えられない。他の土地から運んでくる必要がある。太陽光発電のポテンシャルがそれなりに高い(「高い」ではなく「それなりに高い」)地域のうち、最も近いのはバージニア州中南部だ。 でも、そこから1000㎞も離れているボストンにとっては不便な話だ。ボストンには、ワシントンDC、ボルチモア、フィラデルフィア、ニューヨーク、ハートフォード、プロビデンスのあとにようやく電力がまわってくる。 これは曇りがちで風のない都市だけの問題ではない。すべての都市にとっての問題だ。グリーンテックを機能させるためには、現在の工業化・都市化をもたらしたあらゆる技術開発を見直していかなければならない。 しかし、最も大きな課題は都市の存在そのものである。都市というものはすべて人口密度が高いが、グリーンテックはすべてエネルギー密度が低い。たとえ日当たりがよく風の強い都市でも、人口の密集と広大なスペースを必要とするグリーンテック発電とのギャップを埋める、大規模なインフラが必要になる。 そのようなインフラは、人類がまだ試みたことのないほどの規模と範囲になるだろう。代替案は、都市を空っぽにして6000年の歴史を巻き戻すことだ。私はあまり賛成しないが。
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