異常すぎる近年の気候変動に、それでも「グリーンテック」がまだ有効でない“3つのワケ” 「削減できる二酸化炭素の量より排出する量のほうが多くなってしまう」
リチウムイオン電池は高い上に、蓄電量がわずか
その規模が、2つめの問題である。リチウムイオン電池は価格が高い。一般的なスマホの部品のなかで2番目か3番目に高価だが、それでもほんの数W・hしか蓄えられない。また、ほとんどの電気自動車においてはコストと重量の4分の3以上を占めるが、これもほんの数kW・hしか蓄電できない。 都市の発電を担う電池には、数MW・dの電力を蓄えられる容量が必要だ。意味のあるグリーンテック蓄電を実現するには、需要が高い時間帯の大部分をカバーするために最低4時間分の電力を蓄えられるバッテリーシステムを構築しなければならない。 1990年以来の電池の技術向上が2026年まで続くと仮定すると、発電した電力をリチウムイオン電池に4時間分貯めておくシステムにかかるコストは容量1MW・h当たり約240ドルで、現在アメリカで最も一般的な発電設備である天然ガス複合サイクル発電所の6倍にあたる。 ただし、重要な注意点がある。この6倍という数字には、充電するための発電設備や電池に電気を送る送電設備のコストは含まれていない。 2021年時点のアメリカには合計1100GWの発電設備があったが、蓄電されていたのはわずか23・2GWだ。この23・2GWのうちおよそ7割はいわゆる「揚水発電」、つまり余剰電力を使って水を汲み上げておき、必要なときに再びその水を流して発電に使うというものである。 残りの3割のほとんどは、各家庭での何らかの形での蓄電だ。実際に蓄電池に蓄えられているのはわずか0・73GWである。 グリーンな未来というイデオロギーを最も熱心に掲げている州はカリフォルニアだが、州全体の総蓄電容量(蓄電池の容量ではなく総蓄電量)は1分間の電力供給分しかない。 アメリカの大都市のうち電力系統用蓄電池の導入を最も大胆に計画しているロサンゼルスでさえ、2045年までは総蓄電容量が1時間分に達することを見込んでいない。 しかも思い出してほしい。これは現在のロサンゼルスの電力供給における1時間分であり、自動車や小型トラックの幅広いEV化という夢を実現するために必要な2倍量ではない。そして、その魔法のような4時間は長く険しい道のりの第一歩に過ぎないだろう。 カーボンニュートラルな発電システムへと完全に移行するためには、数時間どころか、風や日差しが強くない季節に備えて数カ月分の電力を蓄える技術が必要となる。 エネルギーについてすべてが解明されているわけではないが、アメリカのような豊かな国がそのような目標を達成できるほどのリチウム鉱石が地球上には存在しないのは確かだ。まして世界全体でその目標を実現させることなど不可能だ。
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