「”絶対的に正しい日本語”は存在しない」「いまの生成AIに”すべての校閲”は任せられない」…出版社に新設された「デジタル校閲部」が考える未来
前編記事『なぜ愉快のルビは「ユクワイ」なのか…100年前、出版社の校閲部員が大激論していた「字音仮名遣い」と「痛恨のミス」』では、100年前の講談社校閲部員たちの苦闘ぶりを紹介しました。後編では、今年発足したデジタル校閲部の仕事と、校閲の仕事の本質について部長の大橋日登美さんに語ってもらいます。 【古写真多数】100年前の書籍…『大正大震災大火災』のすさまじい中身!
もはや人間の校閲は必要ないんじゃないか?
ここ数年、世界を席捲した新型コロナ禍は、講談社校閲部にも大きな影響を与えました。校閲部は在宅ワークを推進し、従来は紙の出力ゲラに赤字やエンピツで入れていた指摘を、iPadでも行うようになったのです。2020年春から導入したiPadの数は、校閲部だけでなんと130台! これらは、業界で最も早くPDF校閲フローを構築するのに欠かせない電子文房具となりました。 そして校閲部発足100年目の今年、校閲部門に新部署が誕生しました。それが「デジタル校閲部」です。同部署は、講談社が日々公開する膨大なウェブ記事ひとつひとつにどう校閲の手を入れるか、その仕組みづくりなども担っています。 昨年、世界的に最も注目を集めた話題のひとつに、“生成AI”があります。生成AIとは「あらかじめ学習したデータをもとに、画像・文章・音楽・デザインなどを新たに作成する人工知能(AI)の総称」(デジタル大辞泉)です。テキストの生成に長けた生成AIの代表格であるChatGPTは、2022年11月にプロトタイプが公開されるや爆発的な勢いで広まりました。いまや申請書や企画書などの作成に生成AIを活用しているビジネスマンも少なくありません。 そもそも近年の文章作成アプリの多くには「校正」機能が搭載されていますし、オンライン文章校正ツールも多数登場しています。となると、だれでもこんな疑問が頭に浮かぶのではないでしょうか。 「AIが質問に答えてくれるし、文章を作成するときに校正機能もついているんだとすると、もう人間が校閲する必要はないのでは?」 デジタル校閲部の初代部長となった大橋日登美さんに、この疑問について訊ねてみました。