窮地のチームを蘇らせたのは「地獄のような3分間」を潜り抜けてきた勝負強さ!昨年度全国4強の堀越は実践学園との激闘を再逆転で制して東京連覇!:東京B
[11.16 選手権東京都予選Bブロック決勝 堀越高 3-2(延長) 実践学園高 駒沢陸上競技場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 延長前半で許した失点。だが、もっと苦しいシチュエーションは幾度となく味わってきた。ほとんど負けかけていたところから、勝利を手繰り寄せたことも一度や二度ではない。チーム全員で気持ちを一つに整えて、再び勝負のピッチを走り出す。絶対に全国へ戻るんだと、絶対に国立へ戻るんだと、この1年間必死に頑張ってきたのだから。 「あの1-2になった状況でも、みんなが下を向かずに、諦めずに点を獲りに行けるのは本当にこのチームの良いところだと思いますし、応援団も負けている状況でも最後まで声を出してくれたので、その想いが選手たちにも伝わって、最後に逆転まで行けたのかなと思います」(堀越高・森奏) 諦めない心が引き寄せた、延長での再逆転で全国切符!第103回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック決勝が16日、駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で行われ、前年度全国ベスト4の堀越高と実践学園高が対戦。激闘の末にもつれ込んだ延長では、先に実践学園が勝ち越したものの、そこから2点を奪い切った堀越が3-2で勝利を収め、2年連続6回目の全国出場を決めている。 試合はあっという前に動く。前半2分。堀越はGK佐藤晴翔(3年)のフィードを最前線でFW高橋李来(2年)が収めて右へ。MF杉村充樹(2年)のクロスを完璧なトラップで持ち出したFW三鴨奏太(2年)は、ゴール左スミへ冷静にボールを送り届ける。「得意なファーストタッチもうまく決まって、足を振り切らずにちょっとキーパーを倒しながら流し込めたと思います」という10番の一撃。電光石火。早くも堀越がリードを手にする。 ただ、実践学園もすぐさま反撃。11分には左サイドを運んだMF岩崎蒼平(3年)の折り返しに、MF山崎良輔(3年)が合わせたシュートは、堀越DF瀬下琥太郎(3年)が何とか身体でブロックしたものの、得意のサイドアタックからチャンスを創出。14分にもMF福田怜央(2年)とのワンツーから、岩崎が狙ったシュートはわずかに枠の上へ。15分にもMF吉浦晴(2年)のフィードで右サイドを抜け出したDF冨井俊翔(3年)が中央へ。ニアに潜った福田のシュートはゴール右へ外れるも、一気に攻撃のアクセルを踏み込む。 「展開的にはスタートで点を獲れたことが逆にゲームをどんどん難しくしていって、相手のチャンスが出始めてきて、一進一退の攻防に入った前半でした」と佐藤実監督も振り返った堀越は、攻勢を強める相手の勢いをなかなか押し返せない。39分にはDF竹内利樹人(3年)の右クロスから、MF小泉翔汰(3年)がダイレクトボレーを枠へ収めるも、実践学園GK樋口暖人(3年)がファインセーブで応酬。前半は1-0のままで40分間が終了した。 後半に入るとお互いの守備陣も奮闘し、チャンスを作り切れない時間が続く中で、24分には実践学園にセットプレーから好機。右からレフティのDF峰尾燎太(3年)がCKを蹴り込むと、福田が枠に飛ばしたヘディングは佐藤がビッグセーブで回避。堀越は昨年の国立のピッチにも立った森奏、DF渡辺冴空(3年)のセンターバックコンビに、ボランチのMF渡辺隼大(3年)のトライアングルを軸に、よりギアを上げた相手のアタックの芽を丁寧に潰していく。 追い込まれた実践学園に絶好の同点機が到来したのは31分。右サイドを冨井がえぐり切り、折り返しを福田がシュートまで持ち込むと、これが相手DFのハンドを誘い、PKを獲得する。キッカーは司令塔のMF寺田聡(3年)。右スミを狙ったキックは、読んでいた佐藤もわずかに及ばず。「この大会では試合をやるごとに、『この子たちは強くなっていくな』とワクワクして見ていました」とは内田尊久監督。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。 追い付かれた堀越は最終盤の40+4分にビッグチャンス。左から三鴨が上げたクロスに、森奏が合わせたヘディングはクロスバーにヒット。こぼれに反応した三鴨のシュートは吉浦が身体で弾き出し、再び三鴨が打ったシュートも吉浦が果敢にブロックすると、樋口が懸命にキャッチ。実践学園が打ち出した勝利への強い気迫。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦へともつれ込む。 次の1点は実践学園が奪う。延長前半7分。投入されたばかりのMF西井朝陽(3年)が正確なパスを通し、こちらも途中出場のMF岩岡向陽(3年)が右サイドをぶっちぎって中へ。FW本間貴悠(2年)がダイレクトで合わせたシュートは、ゴールネットを鮮やかに揺らす。2-1。逆転。実践学園が一歩前に出る。 延長で勝ち越しを許した堀越は、しかし冷静だった。延長前半も終了間際の10+1分。中盤のルーズボールを巧みに収めた三鴨は、「中は(森)奏も上がっていて、競り勝てるかなと思っていたので」左に流れながら柔らかいクロス。失点後は前線に上がっていた森奏のヘディングは、GKの頭上を破ってゴールへ吸い込まれる。「後半のバーに当てた時に感覚は掴んでいたので、少し工夫して打ちました」(森奏)。2-2。同点。堀越も負けじと食らい付く。 延長後半7分。試合は重要な局面を迎えていた。渡辺隼大のパスを引き出し、右サイドを切り裂いたMF岩崎晄芽(3年)のドリブルが相手DFのハンドを誘発し、堀越にPKが与えられる。キッカーは10番の三鴨。「あまり緊張しなかったですね。『決めたらパフォーマンスはどうしよう』ぐらいの感覚でした」。短い助走から右スミへ蹴り込んだボールは、確実にゴールネットを捉える。3-2。再逆転。今度は堀越が一歩前に出る。 土壇場の10+3分。実践学園は左サイドでCKを獲得すると、GKの樋口もペナルティエリア内まで駆け上がってくる。11人全員が集結したラストチャンス。左からMF本間晴人(2年)が蹴り入れたボールは、全力で飛び込んだ樋口より一瞬早く佐藤がパンチングで掻き出すと、程なくしてタイムアップのホイッスルが駒沢の上空へ吸い込まれる。 「選手たちにはここまでこれた感謝の気持ちと、180名の代表として戦う責任感を持って、勝利を獲りに行こうということで送り出しました。みんなが最後の最後まで頑張ってくれて、逆転できたシーンも素晴らしかったですし、最後は力負けでしたけど、自分たちの出せるものは全部出したのかなと思います」(内田監督)。実践学園の奮戦、及ばず。堀越が延長での再逆転で競り勝って、2年連続となる全国への出場権を手にする結果となった。 今大会の堀越が決勝まで勝ち上がってくる過程には、ほとんど敗退を覚悟した試合があった。3回戦の日大三高戦。1-1で迎えた後半のアディショナルタイムに差し掛かったタイミングで、相手に勝ち越しゴールを献上してしまう。「『もう終わった』と思いました」(三鴨)。全国に戻ると、国立に戻ると、1年間を掛けてみんなで目指してきたものがなくなってしまう恐怖が、選手たちを襲う。 しかし、堀越はそれから3分後のまさにラストプレーで、小泉が奇跡的な同点弾を叩き込むと、延長に入って三鴨が決勝点をマークして、3-2と大逆転勝利。「『もう終わるかもしれない』と思った、あの地獄のような3分間があってから、監督からもキャプテンの竹内からも『あの3分間を意識して練習しろ』みたいな話が出てくるようになりました」(森奏)。チームは『地獄のような3分間』を経て、今まで以上の勝負強さを身に付けつつあった。 この日の決勝。延長前半で勝ち越された時も、堀越の選手たちは実に落ち着いていた。「なんか不思議と行ける気がしたんです。だいぶ厳しい状況ではあったんですけど、みんな下を向いてはいなかったですし、去年の予選の決勝も後半のギリギリのところから追い付いてPK戦で勝ちましたし、今年も日大三高との試合をギリギリで勝ってきていて、ここ一番での力はあるのかなと思っていたので、『ここから行けるんじゃないか』という自信もありました」(森章博)。 彼らは昨年度の予選決勝でも、修徳高相手に後半終了間際で同点に追い付き、PK戦を制して全国の出場権を獲得していた。その試合に出ていた選手は、この日のメンバーの中に7人も残っている。「延長に入って先に点を獲られた時も、『まだ10分以上あるな』と思いながら見ていました。そこはもう理屈とかそういうことではなくて、どうやったら最後にスコアを引き戻せるか、点を獲れるかというのは、相当自分たちの中でも体験としてやってきているので、それがピッチの中で出せるのが彼らの強みだと思います」。佐藤監督もチームが纏ってきた勝負強さの根幹を口にする。 「『最後まで諦めない』という言葉もみんな口では簡単に言うんですけど、自分たちはそれをピッチで体現してきたので、ビハインドの状況でも、味方を信じて、最後まで攻撃することができていると思います」。森奏はそう言って、少しだけ胸を張った。 全国へと再チャレンジする権利は掴み取った。森章博の決意が力強く響く。「チームとして立ち上げの時に『まずは全国に出よう』『その上で去年を超えよう』という二段階の目標を立てました。その一段階目はクリアできたので、ここからは周りの目も関係なく、もう1個の目標に向かって、チーム一丸となって進んでいければいいなと思います」。 目指すは国立での初勝利と、その先の景色。何度も窮地を潜り抜けるたびに、一回りも二回りも大きくなってきた2024年の堀越が、聖地での忘れ物を取り返しに、全国の舞台へ帰ってくる。 (取材・文 土屋雅史)
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