ソニー半導体R&D責任者に聞く「スマホカメラの未来」。鍵は「車載用センサー」
スマートフォンのカメラはどこまで進化するのか? 自動車をはじめ、産業で使われるカメラはどう価値を高めていくのか? 【全画像をみる】ソニー半導体R&D責任者に聞く「スマホカメラの未来」。鍵は「車載用センサー」 イメージセンサーのビジネスを考えた時、疑問が当然のように浮かんでくる。 そうした疑問を、ソニーの半導体部門である「ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)」に、技術と経営の両面からぶつけてみた。 今回は、同社研究部門の1つである、SSS・第1研究部門 部門長の大池祐輔氏に、スマホのカメラやイメージセンサー研究開発の最前線から見た「カメラの進化の方向性」を聞いた。
動きの情報で「センサーサイズの不利」を超える
まず、「カメラの画質はどこまで進化できるか?」というシンプルな疑問に対し、大池氏の答えは明解だ。 「スマートフォン向けを中心に考えると、『暗いところでも撮れる』『明るいところで白飛びしないようにする』という部分は、まだまだ突き詰めてくる余地があります。 そこだけを見ても、画質の向上はまだしばらく続きます」(大池氏) その上で、「映像の撮り方・楽しみ方を変える」ために、「もう一段発展させたい」とも言う。 ポイントは「今のイメージセンサーに新しい情報を付加する」技術だ。 現在のイメージセンサーは、「平面」かつ「RGB」が基本。要は「色が平面として集まった情報」を作る構造になっている。 だがSSSはそこに、「より細かな動きや奥行き情報などを同時に取得するという方向性がある」(大池氏)と説明する。 奥行き情報は車の衝突検知など、特別な用途に使われてきたものだ。しかし今度は、そこで培ってきた技術を、写真撮影用途などに活用することで、「鑑賞に対する価値」に戻そうとしている。 「今はスマホ用カメラでも映画のような映像を撮影できますが、薄暗いところ、例えばお子さんがケーキのろうそくを吹き消すようなシーンでは、やっぱりちゃんと構える。『ちょっと動かないで』と言いたくなるくらいです。 でも例えば、そんなシーンでスマホを振り回していてもキレイな写真が撮れたら? 同様に、町歩きをしている最中、カメラをきちんと構えずに持っているだけでもキレイに撮れるとしたら、使い方は変わるのではないでしょうか」(大池氏) そこでカギになるのが、SSSが「イベントベースビジョンセンサー(EVS)」と呼ぶ技術だ。 EVSとは簡単に言えば「動きなどの変化に合わせて情報を取得し、その後に処理で組み合わせて画像にする」技術だ。 例えば動きを記録するとしよう。一般的なセンサーでは動きをフレーム単位ですべて記録するが、EVSでは「動きのキーフレーム」を記録することで情報量を減らし、より時間方向に多彩な情報を扱える。 写真撮影時のシチュエーションで説明してみよう。 シャッター速度を「15分の1秒」にして撮影するとする。それだけ多くの光を取り込めるので、光の情報量が多い写真が撮れる。 だが現実には、被写体は動くしカメラも動くので、15分の1秒も露光すると、写真がブレることも多い。 「ハイブリッドEVSというセンサーを使うと、被写体が『どう動いたのか』が分かっているので、15分の1秒露光してブレた写真からも、まるで止まっているかのような写真を得られます。 長い時間露光した写真ですから、当然SN比※ はとても良い。大きなレンズで稼いでいた感度を、より小さいレンズ+露光時間で実現できる可能性があります」(大池氏) ※SN比とは:信号(Signal)とノイズ(Noise)の比率。高い値になるほど、信号がノイズの影響を受けにくいことを表す。 また、この種の技術は動画にも強い。スマホ向けに増え続けるニーズにはピッタリだ。 現状、スマホ向けにEVSを使ったセンサーは製品化されていない。あくまで技術開発の可能性、という段階だ。 だが、産業用や車載用のセンシング領域では、この種のセンサーの活用が進んでいる。まさに「観賞用のイメージング領域に価値を戻す」(大池氏)動きだ。
西田宗千佳