露、中、イランの脅威が交錯する「特異点」は3年後…「強力かつ早期に実戦に備えよ」英陸軍参謀総長
<イギリス軍の「近代化を加速させ、早期に実戦配備する」──欧州の安全保障対策は急速に進むが、大きな懸念も>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]英陸軍のローリー・ウォーカー参謀総長は7月23日、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の年次陸戦コンファレンスで講演し「軍の近代化を加速させ、現在の計画よりはるかに強力で、早期に実戦配備することだ」と強調した。 【動画】「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシア「最新型」戦車を破壊する映像...ウクライナが公開 英国の正規軍は7万5325人。採用が追いつかず兵員は減少している。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は年内に少なくとも国内総生産(GDP)比で2%を国防費に充てると約束している。英国は現在2.3%。キア・スターマー新首相(労働党)は2.5%に引き上げる方針だ。 ウクライナ戦争以前、英陸軍の目標は2030年代初頭までに即戦力となる部隊を構築することだった。しかしウォーカー陸軍参謀総長は27~28年に、ロシア軍の再建、台湾への中国の脅威、イランの核開発が「特異点」として交錯する恐れがあるとみる。残された時間はあと3年。 ■AIや自律システムを活用した第5世代戦力 ウォーカー陸軍参謀総長は「未来について考えながら過去で戦う」というパラドックスについて考察する。大国マインドから抜け出せない英国は実際のところ中規模な軍隊しか持っていない。より多くの兵力と資金、時間が必要だという概念は「時代遅れだ」と切って捨てる。 第5世代の陸上部隊を配備し、連携を強める中国、ロシア、北朝鮮、イランに対し圧倒的優位を確保しなければならない。規模ではなく質を追求する。第5世代戦力は人工知能(AI)や自律システムなどの先進技術を活用し、データを統合して戦場に最大限のインパクトを与える。 これらの部隊はNATOの中核に位置し、世界最高の兵士で構成される。文民、産業パートナー、国家に支えられ、軍事だけでなく社会・政治・国際・経済のあらゆる場面で価値を提供する「ワン・ディフェンス」(1つにまとまった国防)を構築するという。 ■「3年間で戦闘力を2倍にし、10年後に3倍にする」 そのためウォーカー陸軍参謀総長は3年間で戦闘力を2倍にし、10年後までには3倍にする目標を掲げる。一方、制服組トップのトニー・ラダキン英国防参謀総長は、ロシアは軍をウクライナ戦争以前の水準に立て直すのに5年、根本問題を解決するのにさらに5年かかると分析する。 AIに後押しされたテクノロジーを活用し、あらゆるセンサーを、あらゆる領域とパートナーから、あらゆるエフェクターに接続する。これによってセンサーとエフェクターを迅速かつ効率的に統合し、軍事的な「モノのインターネット」を築き上げる。 感知できる範囲を2倍に拡大し、半分の時間で決断を下す。半分の数の弾薬を2倍の距離で有効に使って敵対国を圧倒する。ウクライナは近未来戦争の実験場だ。ウクライナ軍は安価で消耗品のようなセンサーとエフェクターを英国製ソフトウェアと組み合わせて成果を上げる。