「一体どこがビジネスバイクなのか!?」お蔵入りになったホンダ125ccスクーターの真相
エイプ、ズーマー、バイト、ソロ、PS250、NP-6…… ホンダは2001年からの4年間、異色とも言える一連のモデルを開発した。 これがいわゆる「Nプロジェクト(以下、Nプロ)」である。 【画像26点】ホンダ「Nプロジェクト」による幻の125ccビジネスバイク「NP-6」を写真で解説!試作車やデザインスケッチも Nプロは、バイクファンやベテランよりも普通の「若者」をターゲットとし、そこへ新しい価値を持った商品を継続的に送り出すという目的を持ったチームで、主に若手の開発者で構成。 技術面においての革新的チャレンジは得意だが、商品パッケージとしては保守的なホンダの中で、Nプロは異形であり異端であり、あるいは掟破りの内容だった。 当記事は、そんなNプロのメンバーたちによる破天荒なバイクづくりの物語であり、まったく新しいバイクを創出するための 「心の在り方」を考える少し大人のストーリーである。
ある日いきなり「ビジバイ」が降ってきた
人生は「見たり」「聞いたり」「試したり」の3つの知恵でまとまっているが、多くの人は「見たり」「聞いたり」ばかりで一番重要な「試したり」をほとんどしない── 2006年春の発売を目指したNP-6は、スペイシー125をベースにしたNプロ初の原付二種ビジネスバイクとして開発された。白(NP-6D)が積載バージョン、黒(NP-6S)がアソビバージョン。量産直前まで進んだが、販売台数とコストのバランスが成立せずお蔵入りに。これがNプロ最後のモデル開発となった。 Nプロには、世に出なかった試作車やアイデアがいっぱいあった。その中で、具体的な試作が進み、生産・販売を前提とした開発承認の直前まで進んだ企画がある。2005年の東京モーターショーに参考出品されたNP-6である。 これが実はNプロの考えたビジネスバイク(以下ビジバイ)であった。どうしてビジバイなのか。それは2004年の1月に行われたミーティングで、Nプロのリーダーだった中野耕二の発言に端を発している。以下はその要約だ。 「(当時の本田技研社長である)福井さんと話をした。ホンダが国内市場をリーディングしているというイメージはない中で、唯一Nプロが頑張っていると言ってくれた。しかしながら、Nプロがやっているのはニッチ商品だ。ベンチマークになっているかというと、そうでもない。 したがって、今後はド真ん中・直球勝負も考えなくてはいけない。(そう考えると)ビジネスバイクだ。Nプロ=若者=アソビと固定的に考えなくてもいいのではないか?『ビジネスこう変えます』『カブ、ジャイロキャノピー使って仕事の楽しさ倍増させます』、あるいは『ライバルを潰す!』という提案でもいいかもしれない。 若者が中心となって市場を活気づけているが、アソビだけじゃない、ということも考えておいて欲しい。 『仕事』という要件をまじめにNプロで考える──なぜか? (十分にやってきた)原付だけではなく、原付二種でもアソビだけじゃなく、機能や実用性をカッコ良く演出するという手もあると思うからだ。 もうひとつ積極的に取り組むことで、『Nプロが若者の仕事変えます』といった対外的なメッセージ性の高さがあれば、市場でのウケもいいかもしれない。だから50ccに限らなくてもいいし、自分達の仕事を固定的に捉える必要もないだろう」 つまり、ある日いきなりビジバイをやれと言うのである。またしても、Nプロのメンバーの頭上に隕石が降ってきたような話である。しかし、唐突に突きつけられた指示ではあったが、おそらく中野の頭の中では以前から考えていたアイデアのひとつだったと思われる。彼はビジネスとして求められる二輪の在り方を常日頃から考えていたはずだ。