AIと暗号資産で「電力」争奪戦? 日本も他人事ではない「ヤバすぎる電力不足」の行方
背景にある、データセンターとマイニング施設の「3つの違い」
このような例が増えている背景の1つに、データセンターと暗号資産マイニング施設の違いが挙げられる。両施設は多数のサーバや冷却装置が稼働する同じような場所でありながら、目的や運用の内容、さらに規模も異なる。主な相違点は大まかに、以下の3点が挙げられる。 ・数学的なパズルを解く「マイニング」と、ユーザーが入力したプロンプトへの応答を効率的に生成する「AIサービス」という目的の違い ・必要とされる物理的スペースの規模の違い ・主要な顧客層の違い 最も重要な相違点は、目的の違いから生じる運用コストの差であろう。採掘施設においてはひたすら数学の問題を解くなど作業が単純であり、さらに運用者の都合で稼働時間を調節できる。これに対し、AIデータセンターはより高度で密度の高い演算施設が必要となる。 まず、一般的な商業マイニング事業の運営コストは1メガワット当たり30~35万ドル(約4,500~5,250万円)であるのに対し、AIデータセンターの運営コストは1メガワット当たり300万~500万ドル(約4.5億円~7.5億円)と、10~15倍にもなると米フィンテックニュースサイトのコインテレグラフの記事が明らかにした。使用電力も、AIデータセンターでは莫大になると同記事は指摘する。 データセンターの保有やリースを行う不動産投資(REIT)管理企業の米デジタル・リアルティ・トラストのクリス・シャープCTOは「大規模言語モデル(LLM)の訓練に使用されるAIデータセンターは、1ラック当たり35~100キロワット、推論用のデータセンターは1ラック当たり15~25キロワットの電力をそれぞれ消費するようになる」と述べた。 これは、標準的なデータセンターにおいて、米エヌビディアのAI向けGPU(グラフィックプロセッシングユニット)のH100を8個搭載した高性能サーバを、1ラックにつき複数台稼働させる必要があるためだという。 しかもAIデータセンターは、マイニング施設のように電力事情や価格に応じて止めることはできない。世界中の顧客企業やユーザーが常にアクセスしてくるからである。高度な冗長性が大事なのだ。 このような違いから、まだ比較的需要の少ないマイニング施設が、施設の価値自体も上げられるAIデータセンター向けに一時的な転換を図ろうとしているのだろう。採掘業界とAIデータセンター間では電力を巡る奪い合いが生じる可能性もあるが、収益面からマイニング施設がデータセンター側にスペースや演算能力を融通することで、共存共栄が図られてゆくのではないだろうか。
執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎