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グレタさん母「娘は二酸化炭素が肉眼で見える」記事で批判集まる→実際は比喩表現を切り取り報道したデマ

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
Greta Thunbergさん(写真:ロイター/アフロ)

 グレタさんの母が著書で「娘は空気中の二酸化炭素を肉眼で見ることができる」と書いていたとまとめサイト『Share News Japan』が取り上げ、グレタさんに対して批判が集まる事態が起きています。

 しかし、この「娘は二酸化炭素が肉眼で見える」という表現は著書のなかでの比喩を切り取ったものであり、デマです。

大人たちを「裸の王様」に例えたもの

 実際どういった表現なのか、ドイツの新聞社『Frankfurter Allgemeine Zeitung』が原文を掲載しているので紹介します。

Sie sieht, was wir anderen nicht sehen wollen

Greta gehört zu den wenigen, die unsere Kohlendioxide mit bloßem Auge erkennen können. Sie sieht, wie die Treibhausgase aus unseren Schornsteinen strömen, mit dem Wind in den Himmel steigen und die Atmosphäre in eine gigantische unsichtbare Müllhalde verwandeln. Sie ist das Kind, wir sind der Kaiser. Und wir sind alle nackt.

出典:Seite 3 - Klimaaktivistin Greta: Vorabdruck aus dem Buch der Thunbergs

彼女は私たち他者が見たくないものを見ている

グレタは二酸化炭素が肉眼で見える数少ない人の一人です。

彼女は温室効果ガスが煙突から流れ出し、風で空に上がり、大気を目に見えない巨大なゴミ捨て場に変えているのを見ています。

彼女は子供であり、私たちは王様です。そして、私たちはみんな裸です。

出典:筆者翻訳。Frankfurter Allgemeine Zeitungより

 筆者はドイツ語が読めないためGoogle翻訳+辞書のため完全な翻訳ではないでしょうが、最後の「私たちはみんな裸の王様」でだいたいの人はわかると思います。

 これはデンマークの童話『裸の王様』に出てくる「バカには見えない服誰も指摘しない王様の裸※1」を、現在の「温室効果ガス」とかけているわけです。

同じデマで海外は2019年5月に話題

 「なぜ、こんな話が?」と思われる人もいるでしょうが、じつはこのデマは海外からの輸入です。

 さきほど取り上げたドイツの新聞社『Frankfurter Allgemeine Zeitung』が、原文から切り取った部分を画像にして4月29日にツイートしたことをきっかけに、ドイツのインターネットを中心にグレタさんに対して批判が集まる事態となりました。

 日本のまとめサイト『Share News Japan』はアフリカのニュースサイト『Afrinik』が5月2日に書いた記事を元ネタとしていますが、元ネタの記事内でも母親とその本の出版社が「比喩表現だ」と批判に対して答えていることを確認できます。

The publisher of the book in Sweden said: “I was shocked by the commotion in Germany, Belgium and now also in Italy”. “I can assure you that it is a metaphor; if you read the entire passage, end it with the tale of “The New Emperor’s Clothes” by Christian Anderson. So it is certainly not literal.” In a text message, the mother also says that it is only about imagery.

出典:"My daughter can see CO2 with the naked eye" - Afrinik

 『Share News Japan』はPV目的で狙って記事を切り取ったか、もしくは最後まで記事を読まなかったと思われます。

グレタさん本人も「CO2が見える」説を否定

 なお、この一連のデマについてグレタさん本人は、「CO2が見える」説を「いまもっとも面白い陰謀論のひとつ」だと否定する発信を『Facebook』で5月4日に行っています。

ヘイト・キャンペーンがなくなることはありません。毎日少なくとも1つの陰謀論が誕生します。

最新の、そしてたぶん一番面白い話は「自分の目でCO2を見ることができる」というものです。

これはもちろんドイツの新聞社が文脈を切り取った、本からの比喩です。

私が文字通りCO2を見ることができるという人は誰もいません。それは愚かなことを超えています。

話をする必要もないと思いましたが、一部の新聞社がこれを偽のニュースキャンペーンだと気づかずに取り上げているため、指摘をしなければいけないと思いました。

ちなみに私が「私たちの文明は砂の上に建てられた城のようなものだ」とか「私たちの家は燃えている」と言うのも比喩ですよ。

追伸:この本は私の家族によって書かれており、売上は慈善団体に寄付されます。

出典:Greta Thunberg - 投稿(筆者翻訳)

 グレタさんの訴えについて賛否両論あると思いますが、デマには惑わされないよう気をつけてください。

※1:読者の方に「バカには見えない服」よりも「王様の裸が丸見えなことを指摘したこと」の方があってるのではないかと言われ、そのとおりだと思ったため追記・修正しました。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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