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バスケW杯出場へ決戦迫る! 複雑な予選形式と「中国問題」を解説する

大島和人スポーツライター
石橋潤通訳(左)とフリオ・ラマスHC(右):筆者撮影

崖っぷちから4連勝

フリオ・ラマスヘッドコーチ(HC)が率いるバスケットボール男子日本代表は、現在ワールドカップ(W杯)中国大会に向けたアジア二次予選を戦っている。日本は一次予選から通算して既に8試合を戦い、残りは4試合。世界各国の予選は2試合1セットの「Window(ウィンドウ)」単位で組まれており、各国が次に迎えるのは「ウィンドウ5」となる。

「ウィンドウ5」の2試合はいずれも富山市総合体育館で開催される。日本は11月30日(金)にカタール、12月3日(月)にカザフスタンと対戦。予選の締めとなる「ウィンドウ6」はイラン、カタールとのアウェイ連戦で、試合は来年2月21日(木)と24日(日)に組まれている。

★アジア予選の日程と結果(ホーム/アウェイ)

※レイアウトの関係で一部に短縮した国名表記を使っています。

◇一次予選(グループB)

17/11/24 日本 71-77 フィリピン(H)

17/11/27 日本 58-82 豪州(A)

18/2/22 日本 69-70 中華台北(H)

18/2/25 日本 84-89 フィリピン(A)

18/6/30 日本 79-78 豪州(H)

18/7/2  日本 108-68 中華台北(A)

◇二次予選(グループF)

18/9/13 日本 85-70 カザフスタン(A)

18/9/17 日本 70-56 イラン(H)

18/11/30 日本 vs. カタール(H)

18/12/3 日本 vs. カザフスタン(H)

19/2/21 日本 vs. イラン(A)

19/2/24 日本 vs. カタール(A)

一次予選は16チームがグループAからグループDの4組4チームずつに分かれ、各組から3チームが勝ち上がる形式だった。日本は出足の4試合で4連敗とつまずき、早々に崖っぷちへ追い込まれた。しかしウィンドウ3の連勝でグループEの3位に浮上し、二次予選もここまで2連勝。オーストラリア、イランといった「格上」も下す躍進を見せている。

ファジーカス、八村、渡邊が原動力に

躍進の理由をシンプルに説明すると、下記の3つになる。

・ニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)が4月に日本国籍を取得し、一次予選のラスト2試合(ウィンドウ3)で活躍した。

・八村塁(ゴンザガ大)がNCAAのシーズンと重ならないウィンドウ3、ウィンドウ4に出場した。

・ファジーカスが負傷によりウィンドウ4を欠場したが、そこは渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)が登場した。

Bリーグの初代得点王ファジーカス、来年のNBAドラフトでおそらく上位指名を受ける八村、日本人2人目のNBAプレイヤー渡邊の参加は、ラマスジャパンの実力を劇的にアップさせた。

今週末からの2連戦(ウィンドウ5)は、左足首の手術を7月に終えたファジーカスが復帰する予定。ただし渡邊と八村が所属チームの事情により不参加となる。またウィンドウ3、ウィンドウ4に比較すると準備期間が短く、そこも若干の不安材料だ。週の半ばに短期合宿は組まれたが、11月24日までB1のリーグ戦が行われていた。

相手の世界ランクは日本以下だが…

一方で国際バスケットボール連盟(FIBA)が発表している最新の世界ランキングを見ると、49位の日本に対してカタールが62位、カザフスタンは70位となる。少なくともランク的にはグループFの「二弱」に相当する相手だ。直近の結果を振り返って、カザフスタンは9月のアウェイ戦で日本が既に勝利している。カタールも日本が若手選手中心の編成により臨んだ8月のアジア大会で、82-71と下したチームだ。

とはいえ侮っていい相手ではない。特に30日の対戦相手であるカタールは情報が乏しく、不確定要素が多い。ラマスHCはカタールについてこう説明する。

「カタール代表はヘッドコーチが替わりました。10月3日から合宿をスタートしているようで、国内リーグは現在ストップしています。以前戦ったカタールとは違うチームになると予想していますし、情報を収集できない状況です」

アルゼンチンの名将がキーマンに挙げるのは背番号8のスモールフォワード、タンギー・ンゴンボ(Tanguy Ngombo)。34歳のベテランだが、2011年にはダラス・マーベリックスからドラフト2巡目(全体57位)で指名を受けた実力者だ。ラマスHCは「ペネトレーション、ポストアップの出来る選手で、かなりオフェンス力がある」と彼への警戒を口にしていた。

ファジーカスを活かすために

今回の日本は206センチの渡邊、203センチの八村を欠き、強みとなっていたインサイドの破壊力が弱まる。戦術的なカギは「ファジーカスの良さをどう引き出すか」「攻撃、リバウンドに専念させられるか」だろう。

竹内譲次(アルバルク東京)と太田敦也(三遠ネオフェニックス)の両ベテランは、ファジーカスの相棒として引き続いて期待されるインサイドプレイヤーだ。また今大会は竹内公輔(栃木ブレックス/譲次とは双子で公輔が兄)が合宿に参加しており、彼への期待も大きい。おそらく2メートル超の長身選手である竹内兄弟、太田らが短いプレータイムで力を出し切りつつ「つなぐ」起用になるだろう。

竹内公はこう述べる。

「八村とか渡邊を見たら、別に自分が居なくても……というのはありました。だけど今回は彼らがいないと聞いていたので、力にならなければいけないなと思いました。やはりニック(ファジーカス)が中心になると思うので、彼が気持ちよくプレーできるようにサポートしたい」

33歳とベテランで膝の痛みを抱えながらプレーしている竹内公だが、今季の開幕前はケガの治療に専念。それが奏功してコンディションも回復したという。彼は栃木でライアン・ロシター、ジェフ・ギブスの両エースを活かす「渋い」働きを見せ、全体首位の好調に貢献している。代表でもインサイドの守備、スペーシングや、流れを呼んでファウルを引き受けるいぶし銀の働きは頼りになる。

一次予選の結果が二次予選にも反映

バスケW杯の予選形式はサッカーなどでも馴染みのあるホーム&アウェイ方式だが、勝ち点の定義、勝ち上がりの決め方は競技ごとに違う。大切な2試合の前に、バスケの仕組みを説明しておきたい。まずグループFの順位と勝敗、得失点差、勝ち点はこうなっている。各国は二次予選で同グループの「一次予選では未対戦の相手」と対戦する。

・グループF(勝敗/得失点差/勝ち点)

1位:豪州    7勝1敗 +238 勝点15

2位:イラン   6勝2敗 +97 勝点14

3位:フィリピン 5勝3敗  -9 勝点13

――――――(出場圏内)

4位:日本    4勝4敗 +34 勝点12

5位:カザフ   3勝5敗 -84 勝点11

6位:カタール  2勝6敗 -120 勝点10

サッカーとの大きな違いはまず「一次予選の結果が二次予選に繰り越される」こと。従って得失点差の合計が「ゼロ」にならない。もう一つの違いは「勝利=2ポイント、敗戦=1ポイント」という勝ち点の計算方法だ。バスケは没収試合などのイレギュラーなケースを除くと「勝ち点0」の試合がない。イランとは2ポイント差に接近しているが、これは「日本2連勝」「イラン2連敗」で並ぶかなり大きな差だ。

何より大切なW杯出場の条件だが、今回はかなり複雑だ。アジアが持つ中国大会の出場枠は7か国(もしくは地域)で、グループFの上位3チームはそのまま予選を通過できる。問題はグループFの4位以下になった場合で、これはグループEとの比較になる。「4位同士のプレーオフ」は予定されておらず、シンプルに数字が決め手だ。

グループEはこのような経過になっている。

・グループE(勝敗/得失点差/勝ち点)

1位:NZ   7勝1敗 +184 勝点15

2位:レバノン 6勝2敗 +134 勝点14

3位:韓国   6勝2敗 +76 勝点14

――――――(出場圏内)

4位:ヨルダン 5勝3敗 +103 勝点13

5位:中国   4勝4敗 +94 勝点12

6位:シリア  2勝6敗 -179 勝点10

「アジア7枠目」を左右する中国

中国は本来、オーストラリアに並ぶアジア・オセアニア地区のベストチームだ。しかし自国開催となる今大会は既に出場資格を得ており、予選は若手中心の育成チームで参加している。結果についても中国の順位は考慮されず、仮に4位以上となった場合は下位から繰り上がる規定だ。

つまり中国がグループEの1~3位に入った場合は4位が繰り上がって出場する。また1~4位になった場合は5位チームが「4位相当」としてグループFとの比較対象になる。グループEとFの比較は当該チーム同士の対戦がないため(1)勝ち点、(2)得失点差、(3)総得点という優先順位で行われる。

仮に現時点での成績で「アジア7枠目」を決めるなら、グループF・4位の日本はグループE・4位のヨルダンに勝ち点差で屈することになる。

日本が成績を伸ばしてグループFの3位以内で二次予選を終えられればベストだが、このまま4位にとどまった場合は中国の勝敗に大きく左右される。中国はレバノン、ヨルダンと1試合、シリアと2試合を残している。中国が西アジアの3ヵ国から勝ち点と得失点差を奪うことが、日本にとっては間接的な援護になる。

次の2試合はW杯、東京五輪に向けた大一番

今回の一次予選はアジアを東西に分けて行われ、二次予選は逆に全試合が東西対決になっている。レベルの高いオセアニア勢が東アジアに加わったことで「東高西低」の構図は強まった。それはウィンドウ4(二次予選)の「東が10勝:西が2勝」という成績を見れば明らかだ。オーストラリアやフィリピンと同組になったことも含めて、一次予選の仕組みは日本にとってかなり不利なものだった。逆に言えば二次予選で挽回し、順位を上昇させる余地が大きい。

ラマスジャパンは上げ潮だが、今なおアジア予選突破に向けては「ぎりぎり」の状況は続いている。予選突破に必要な勝ち点と順位を考えると、八村や渡邊を欠く中でも、ウィンドウ5の2試合は勝利が必要だ。世界ランクが日本の下となるカタールとカザフスタンからそれぞれ「勝ち点2」を得ることはノルマに近い。

加えてウィンドウ5が終了した直後の12月8日と9日にはFIBAのセントラルボードが予定されており、東京オリンピックの「開催国枠」について審議される可能性がある。W杯は32か国が出場できる「広き門」だが、五輪は12か国と出場国が限られる。カタール戦、カザフスタン戦の結果が、晴れ舞台の出場枠獲得を後押しする材料となる可能性もある。

富山で開催されるウィンドウ5の2試合は、日本バスケの明るい未来を拓くチャンスだ。会場の富山市総合体育館は富山グラウジーズのホームアリーナで交通の便も抜群だが、収容人員は4,650 人。(※追記:可動席があり、B1では5,545名の観客数を集めた実績がある)

折からのハコモノ不足もあって首都圏の大規模な会場確保は厳しく、チケットがすぐ完売してしまった。バスケファンの熱は高いが、残念ながら地上波やBSの生中継も予定されていない。

しかし日本バスケがマイナーからメジャーへと化ける転換点を見逃すのはもったいない。皆さんにはCSやネットの配信、地上波の録画報道など、何らかの可能な方法でこの大一番を味わって欲しい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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