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楽天・平石監督は、オコエの髪を切ってもいいのか?いけないのか?米国「ハサミ審判」問題より。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 12月31日付の報知新聞電子版に、ユニークな見出しの記事が掲載された。

 『楽天 平石監督、オコエがふざけた髪型なら「バリカン星人」プラン』

 楽天の平石監督が、オコエ瑠偉選手が「ふざけた髪形」でキャンプインしたならば、監督が自らハサミを入れるプランであると明かしたそうだ。

 伸び悩むオコエへの親心とでもいうのだろうか。さまざまなヘアースタイルを披露してきたオコエに、そんなことよりも、野球選手として結果を出して欲しいという平石監督の期待が読み取れる。

 髪を切るという話。米国では昨年末から年をまたいで「ハサミ審判」が大問題となっている。

 昨年の12月19日、ニュージャージー州の高校レスリングの試合で、白人の審判が黒人の男子選手にドレッドヘアを切るように強要した。審判は、この選手の髪の長さが規則違反であり、髪をカバーするキャップも規則に準じたものではないとし、髪を切るか試合を放棄するかを迫った。

 選手は髪を切って試合をしたのだが、髪を切る動画がSNSで拡がり、人種差別や人権差別だと批判の声があがった。ドレッドヘアは黒人選手のアイデンティティにかかわるもの。それを切るように強要された。高校スポーツ界だけでは対処できない深刻な問題であり、ニュージャージー州の公民権局が詳細を調査することになった。

 審判が髪を切ることを求めたのは競技規則の範囲なのか、それとも人権軽視、人種差別なのか。審判の行動がたとえ規則に従った要求であったとしても、やり方があまりにもおかしいのか。

 地元メディアのニュージャージー・ドット・コムによると、12月27日時点で分かっていることと、分かっていないことがあるという。

 ・この審判は、過去に審判の懇親会で黒人審判に差別的発言をしたことがある。

 ・試合前の計量時などに、髪の長さがルール違反かどうか説明がなされなかったのはなぜか。これについてはよくわかっていない。

 ・州の高校レスリングの規則では、髪が耳たぶの下か、シャツにつく長さである場合は、その髪をカバーするヘッドカバーやキャップをつけることを求めている。

 ・選手は髪を覆うヘッドカバーを持っていた。このカバーは規則に沿ったものでなかったのか。かぶり方が規則に沿っていなかったのか、などははっきりしていない。

 ・この選手の髪は前回の対戦では問題なかった。前回の対戦では、髪を後ろでまとめていたが、これは規則の範疇かどうかをはっきりさせるべき。

 

 ・過去にも試合直前に長髪を切り落とした白人選手はいた。

 

 ・仮に髪の長さやハッドカバーの仕様が規則違反だったとしても、試合開始直前になって、髪を切ることを強要する以外の方法で解決できなかったのか。

 これらは、今後の調査で明らかにされていくだろう。この選手の在籍している学校区は、この審判がジャッジするいかなる試合にも選手を出場させないとし、州の高校運動協会は、この審判は当面、審判業務を割り当てないと発表した。

 オコエ選手の髪形は規則に抵触していない。本人の好きにすればいい。ただ、平石監督は、髪形に気を取られるのではなく、野球選手として結果を出して欲しいという思いがあるのだろう。

 けれども、実際に断髪を強要することは、当事者が意識していなかったとしても、人権や人種差別行為につながる。それは許されることではないし、批判されるだろう。そうなれば、キャンプに集中するどころではなくなるのではないかと心配になる。「バリカン星人」以外の手段で、コーチングをお願いしたい。

  

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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