以前、花巻東高校の佐々木洋監督から伺った話がある。「高校野球王国」と呼ばれる神奈川県でのコーチ修行を経て同校監督に就任した際、岩手と関東の違いは選手の質の差だと思い込んでいた氏は、県内の野球少年のレベルの高さを知り「選手ではなく指導の問題だ」と認識を変えたという。シニアなど硬式のチームが続々創設され、軟式と両方でプレーすることも可能な独自ルールもあり、選手が育つ土壌があった。そこであえて野球留学生に頼らず地元選手だけでチームを作る方針を貫いた。そんな中で育ってきたのが菊池雄星であり、大谷翔平が続く。どこの県にも逸材はいる。それが県をまたいで一部の強豪校に流れていくことも多い。岩手でもそうだったはずだ。そこで才能を開花させることもあれば、強豪校ゆえに結果を急ぐ育成方法が合わないケースもある。逸材が地元に残るような空気や、素材を殺さずに育てる指導者の意識が生み出したルネサンスではないだろうか。
コメンテータープロフィール
1966年、山梨県出身。出版社勤務を経て、1994年、フリーランスのライターとなる。野球を中心に数多くのスポーツノンフィクション作品を発表。細かなリサーチと現場取材に基づいた人物ルポルタージュを得意とする。著書に『元・巨人』(ザ・マサダ)、『松坂世代』(河出書房新社)、『遊撃手論』(PHP研究所)、『PL学園最強世代 あるキャッチャーの人生を追って』(講談社)、『松坂世代、それから』(インプレス)などがある。