解説地名に「富士見」とあっても富士山が見えない場所が増えるなか、いまでも富士がちゃん見える「富士見」は、一種の文化財ともいえます。 そもそも伝統や文化の価値の評価は困難です。富士見通りは、国立の街ができた約100年前に駅ロータリーから富士山に向かってまっすぐに作られたのです。当時ほど富士山は拝めなくなっても、今回のマンションで、その伝統がいったん失われてしまえば、将来世代は富士山を拝むことができなくなります。一方で、伝統を棄損して得られる金銭的利益は数億円単位ですぐに可視化される。 でも本当は、広く浅く享受される景観や文化財の便益の総和と、建設会社や入居する数世帯が享受するマンションの金銭的価値と、どちらが大きいかは必ずしも定かではありません。 今回は、積水ハウスさんが、会社の根本哲学「人間愛」に則って、目先の利益ではなく、伝統や文化を守る決断をしたという美談なのだと思います。
コメンテータープロフィール
1974年生まれ。一橋大学経済学部卒、ミシガン大学Ph.D.(経済学博士)。カリフォルニア工科大学研究員などを経て現職。専門は実験経済学と行動経済学。文部科学省学術調査官、法務省司法試験予備試験考査委員などもしました。1男1女の父。