解説トルコやレバノンなど、シリアから陸路で続いた周辺国に住む難民にとっては、政権崩壊は待ち望んだ朗報であり、帰国の動きはしばらく加速するとみられる。長年の仮住まいを続けてきた中東周辺諸国はいずれもそれほど経済的に裕福ではなく、窮乏した避難生活を強いられてきたからだ。2003年にイラク戦争の主戦闘が終結した直後も、ヨルダンなどから多くのイラク人が祖国へ戻っていった。受け入れ国もまた負担を減らすため、帰国促進に動くと思われる。 しかし地理的にも離れたヨーロッパ諸国などに逃れ、新たな生活基盤を築きつつあったシリア難民にとっては、帰国の決断はより難しくなるだろう。2015年の難民危機で逃れた人々も、移動先で語学を学び、子どもは学校に通い始めている。今後どのような政権がシリアで構築されるかは不透明であり、祖国への愛着と将来への不安、現実的な生活の安定という様々な要素の間で選択を迫られることになるだろう。
コメンテータープロフィール
専門はパレスチナ/イスラエルを中心とした中東地域研究、移民/難民研究。東京大学法学部卒業、同法学政治学研究科修士課程修了、総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了、博士(文学)。早稲田大学イスラーム地域研究機構研究助手、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授等を経て、現職。ベイルート・アメリカン大学客員研究員、ヘブライ大学トルーマン研究所客員研究員、ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院客員研究員などを歴任。単著に『ディアスポラのパレスチナ人―「故郷(ワタン)」とナショナル・アイデンティティ』、編著に『政治主体としての移民/難民――人の移動が織り成す社会とシィティズンシップ』など。
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