国会議員で構成される弾劾裁判所が裁判官を罷免する制度は、憲法の定めるものですが、立法府の司法府に対する介入や圧力とならないよう、その運用には慎重な配慮が求められます。 弾劾裁判には「罷免か否か」の2択しかなく、罷免されれば退職金が支給されず、法曹資格も剥奪されるので弁護士として働くことも不可能となります。弾劾罷免はこのように極めて重い不利益処分なので、これまでは、犯罪を犯した場合など罷免が当然と言える場合に限定されてきました。不適切発言という曖昧な事由で罷免されることは、明らかに均衡を失しています。 また、今回の訴追事由には、弾劾裁判法がいわば時効として3年を定めているにも関わらず3年以上前の事由が含まれており、手続的にも重大な違法があります。 岡口氏が、その不適切発言を理由として民事訴訟などで別途責任を問われうることは当然ですが、弾劾裁判による罷免まで進むのは行き過ぎだと思います。
コメンテータープロフィール
京都市生まれ。洛星中・高等学校、東京大学法学部を卒業後、同大学大学院、パリ第十大学大学院で憲法学を専攻。2002年より九州大学法学部准教授、2014年より教授。主な著作に、『憲法学の現代的論点』(共著、有斐閣、初版2006年・第2版2009年)、『ブリッジブック法学入門』(編著、信山社、初版2009年・第3版2022年)、『法学の世界』(編著、日本評論社、初版2013年・新版2019年)、『憲法学の世界』(編著、日本評論社、2013年)、『リアリズムの法解釈理論――ミシェル・トロペール論文撰』(編訳、勁草書房、2013年)、『憲法主義』(共著、PHP研究所、初版2014年・文庫版2015年)。
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