大賞発表

海をあげる 上間陽子うえまようこ
「海が赤くにごった日から、私は言葉を失った」痛みを抱えて生きるとは、こういうことなのか。言葉に表せない苦しみを聞きとるには、こんなにも力がいるのか。

おびやかされる、沖縄での美しく優しい生活。 ベストセラー『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』から3年、身体に残った言葉を聞きとるようにして書かれたノンフィクション。
受賞の言葉 上間陽子さん

本を書いているときには、喉の奥がきーと音をたてるような痛みがありました。
わめきたいような、叫びたいような、でもそれではちっとも足りないような。

沖縄で起きている数々のことに絶望し、果たし状を書くような気持ちで書いていたのに、本当に書きたかったのはやはり違うことだったように思います。

言葉が破壊される国にあって、それを破壊させないと抗い仕事を積み上げる書店員の方々が、この賞をくださったことを誇りに思います。

言葉によって、ひととひとがつながりあえることを信じて、自分にできることをひとつひとつやり遂げていこうと思います。

プロフィール
上間陽子(うえまようこ)1972年、沖縄県生まれ。琉球大学大学院教育学研究科教授。普天間基地の近くに住む。 1990年代から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わる。2016年夏、うるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)を刊行。2020年、『海をあげる』(筑摩書房)を刊行。2021年10月には、10代で妊娠・出産した少女たちを支えるシェルター「おにわ」を沖縄でオープンした。

ノミネート作品

2021年ノンフィクション本大賞のノミネート作品が、現役の書店員の投票によって選ばれました。

  • 「あの夏の正解」早見和真/新潮社
  • 「海をあげる」上間陽子/筑摩書房
  • 「キツネ目 グリコ森永事件全真相」岩瀬達哉/講談社
  • 「ゼロエフ」古川日出男/講談社
  • 「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」河野啓/集英社
  • 「分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議」河合香織/岩波書店

作品名は50音順

『あの夏の正解』早見和真/新潮社

あの夏の正解早見和真/新潮社

出版社からのコメント
新型コロナの感染拡大で夏の甲子園中止──最初にその報道を目にした時、頭に浮かんだイメージは「かわいそうな高校球児」。しかし、元球児でもある著者の早見さんが向き合った彼らの姿は、そんな先入観を軽々と打ち破るものでした。全国の1000校を超える学校司書さんからも注文が相次ぎ、異例の図書館重版も決定。これは「ただの野球の本」でも「悲劇の本」でもありません。「あの夏」を経験したすべての人に読んでいただきたい作品です。

『海をあげる』上間陽子/筑摩書房

海をあげる上間陽子/筑摩書房

出版社からのコメント
沖縄での生活を、淡々と書いた作品です。過去に傷ついた日々を友人に支えてもらったこと、歌舞伎町で働く沖縄出身のホストの生活史を聞いたこと、海に日々たくさんの土砂が入れられていくこと。具体的なできごとの描写を通じて、人間の営みの本質が描かれているように思います。この「海」を、どうか受け取ってください。「新しい言葉の担い手」として第14回「わたくし、つまりNobody賞」受賞、第7回沖縄書店大賞沖縄部門大賞受賞作。

『キツネ目 グリコ森永事件全真相』岩瀬達哉/講談社

キツネ目 グリコ森永事件全真相岩瀬達哉/講談社

出版社からのコメント
「少なくとも6人いた」グリコ森永事件の犯人グループの人数、役割分担、構成にまで迫ったスクープ作。『年金大崩壊』にて講談社ノンフィクション賞、『伏魔殿 社会保険庁を解体せよ』で文藝春秋読者賞を受賞、確かなる力量、実績を持つ著者が、第一線で捜査にあたった刑事、捜査指揮した警察幹部、犯人グループと直接言葉を交わした被害者、脅迫状の的になった企業幹部など、徹底した取材で事件の真相をえぐり出す。闇に消えた「キツネ目と仲間たち」の全貌とは!?

『ゼロエフ』古川日出男/講談社

ゼロエフ古川日出男/講談社

出版社からのコメント
そうか、「復興五輪」も消えるのか。歩こう、と思った。話を聞きたい、と思った。――福島のシイタケ生産業者の家に生まれ育った著者が、18歳であとにした故郷に初めて全身で向き合った。生者たちに、そして死者たちに取材をするために、中通りと浜通りを縦断した。いつしか360キロを歩き抜いた。報道からこぼれ落ちる現実を目にした。ひたすらに考えた。あの日から10年、小説家が肉体と思考で挑む初のノンフィクション。

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓/集英社

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場河野啓/集英社

出版社からのコメント
2018年5月21日、登山家の栗城史多さんがエベレストで滑落死した。35歳だった。登山姿を自撮りし、ネットで公開。称賛される一方、それ以上の批判も浴びた。彼はなぜ凍傷で両手の指9本を失った後もエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関ルートを選んだ理由は? 滑落死は本当に事故だったのか? そして彼は何者だったのか? 謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かします。第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。

『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』河合香織/岩波書店

分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議 河合香織/岩波書店

出版社からのコメント
何が正解なのか? ――未知のウイルスに対し、クラスター対策や3密回避など日本では独自の対策を講じたが、その指針を示した専門家会議ではどんな議論がなされたのか。そして、尾身茂ら専門家が会見で人々に直接呼びかけたのはなぜか。政権や官僚との確執、次第に高まる批判や脅迫、緊急事態宣言に至る経過など、激動の日々を関係者の証言で描く迫真のノンフィクション。私たちはこの経験から未来へ進まなければならない。

書店員のおすすめ

ノンフィクション本って面白そう。でも、なにから読んだらいいのかわからない。そんなときに頼るべきなのは、街で働く書店員の方々。とっておきの一冊はなんなのか。聞きました。

『わが盲想』モハメド・オマル・アブディン/ポプラ社
わが盲想 モハメド・オマル・アブディン/ポプラ社

あらすじ 視覚障害者に鍼灸をさせる日本は、さまざまな面で進んでいる。車の運転なんて、へっちゃらだろう。期待に胸を高ならせ、日本にやってきたスーダン人のアブ青年だったが、日本語と福井弁、東洋医学と西洋医学の専門用語、点字をマスターせねばならない、という壁にぶつかる。さらに鍼灸、プログラミング、日本の歴史、日本近代文学を学び、日本の大学から大学院へ。友人の高野秀行さんとの交流も爆笑です。音声読み上げソフトで自ら綴った青春記。

推薦理由
最初に習った日本語、ズーズー弁でものすごい早口。おやじギャグ連発、カープファンのスーダン人。目が見えなかったので、19歳まで母語で一冊も本を読んだことのないスーダンの青年が、日本に鍼灸の勉強をしに来て、はじめて自分で本を読んだのは日本語の点字の本。本を読むことのおもしろさを知って、夏目漱石も三浦綾子も遠藤周作も、時代小説や歴史の教科書も、ヘンな本でも、ものすごい量の日本の本を読んだそうです。
推薦者:丸善 博多店(外部サイト) 脊戸真由美さん
『カラスは飼えるか』松原 始/新潮社
カラスは飼えるか 松原 始/新潮社

あらすじ なんとなく良いイメージのないカラスですが、「カラス先生」が愛情を持って実は弱気でちょっとマヌケなカラスの生態を語ってくれています。ちなみに冒頭で著者も述べていますが、「カラスの飼い方」をレクチャーした本ではありません。「カラスは食えるか」どうかや、サルや他の鳥のお話もたくさん出てくるユーモアいっぱいの本です。

推薦理由
昔外を歩いていた時に、いきなり子どもがカラスに頭を蹴られた事があり、とても衝撃でした。(しかもなかなか痛かったそうです)。ゴミは散らかすし糞は落とすし、どうしても好きになれなかったのですが、この本を読んでカラスの方にも事情があるとわかり、悪いヤツじゃないと思うようになりました(松原先生の思う壺ですね!)とても面白く、そして今後のゴミ出しにもちょっぴり役に立ちそうな一冊です。
推薦者:有隣堂 藤沢本町トレアージュ白旗店(外部サイト) 小出美都子さん
『ルポ 母子家庭 「母」の老後、「子」 のこれから』関 千枝子/岩波書店
ルポ 母子家庭 「母」の老後、「子」 のこれから 関 千枝子/岩波書店

あらすじ 多くの母子家庭は、長年、経済的に厳しい状況におかれてきた。そしてこの不況下、さらに生活保護世帯の母子加算がなくなったことは厳しさに追いうちをかけている。著者は当事者として母子家庭の制度改善に尽力してきたが、同時に老いをむかえた「母」たちの現在の年金生活についても取材を続けた。「子」の教育費なども含めて現状を活写する。

推薦理由
コロナ禍によって生活困窮者が増えている。本作は母子家庭に焦点を当てているが、いざ自分の身にふりかかってしまったら? どうする? どうなる? という思いで読んで欲しい。メディアは新型コロナ感染者数のことばかり取り上げているが、目を背けてはいけない生活困窮者問題についてもっと関心を持ってほしいため推薦します。
推薦者:ゲオ フレスポ八潮店(外部サイト) 星さん
『小倉昌男 祈りと経営 ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』森 健/小学館文庫
小倉昌男 祈りと経営 ヤマト 「宅急便の父」が闘っていたもの 森 健/小学館文庫

あらすじ 小倉昌男氏といえば、宅急便の産みの親です。ヤマト運輸引退後、私財を投げ打って、ヤマト福祉財団を設立し、障がい者の就労支援に焦点を当てた活動を開始。しかし、これには彼の「はっきりとした動機」がないという疑問を感じ、著者は取材を始めました。その謎は人間・小倉昌男、そして家族に確信がありました。目に付きやすい宅急便よりも、こちらの方がもっと脚光を浴びるべき凄い生きざまです。

推薦理由
クロネコヤマトを知らない人はいないでしょう。誰しも利用経験がありますから。そういう意味では、ノンフィクション作品を初めて読む人にとって、敷居がとても低いはずです。宅急便の創業者である小倉昌男さんは華々しい人生を生きてきたと思われるでしょうが、彼の弱者への視点は読む者を感動させます。SDGsを考える上でも良書と考えます。
推薦者:井戸書店(外部サイト) 森忠延さん

スケジュール

2021年5月20日
一次選考(書店員による投票)スタート
2021年6月30日
一次選考締め切り
2021年7月20日
ノミネート作品発表。二次選考(書店員による投票)スタート
2021年9月20日
二次選考締め切り
2021年11月10日
大賞作品発表

対象作品

2020年7月1日から2021年6月30日の間に、日本語で出版されているノンフィクション作品全般
(※海外作品の翻訳本は除く)

副賞

賞金(取材支援費):100万円

ノンフィクション本大賞とは

なぜYahoo!ニュースは、いまノンフィクション「本」を応援するのか

ノンフィクション本を読むことで、わたしたちの視野はひろがります。
世の中で起きたことを伝えるため、実際に足を運び、見聞きして、
調べているからこそのおもしろさがそこにはあります。

しかし、その取材・執筆の過程では時間やお金がかかることが珍しくありません。
著者は知力をふりしぼり、時には体を張るケースもあります。

Yahoo!ニュースに配信される1本1本の記事にも同様に労力がかけられています。
毎日の配信記事と同様、ノンフィクション本の書き手の思いも伝えたい。
また、読者のみなさまにより深く「知る」ことのおもしろさを感じていただきたい。

だからYahoo!ニュースは、日本全国の書店員さんが選ぶ
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を設けました。
すばらしいノンフィクション本を応援することで、読者のみなさまと出会う機会を
増やすお手伝いができればと考えています。