現役の書店員が語る「ノンフィクションって、
幅が広い。どんな人もピンとくる一冊が見つかるはず」

インタビューに参加された書店員のみなさん

2021年のノンフィクション本大賞ノミネートがされるこのタイミングに、4名の書店員さんが集まってくれました。日夜、たくさんの本を選び、売っているプロはこう言います。「ノンフィクションって幅が広い」――大事件ものや調査報道、評伝ものなどの「王道」だけがノンフィクションでもありません。事実をベースにしているのなら、足元で起きた身近な話だってノンフィクションです。ネットや映像分野発、という作品も生まれてきています。そんなノンフィクションのいまを書店員さんが語ります。 (進行・文:原利彦/博報堂ケトル、写真:小島マサヒロ)

現役書店員からみた「ノンフィクション」のリアル

夢眠ねむさん 夢眠ねむさん(夢眠書店)「書店で取り扱いが多いのは、絵本、児童書、料理本やエッセイ集など。好きな作家は吉田篤弘さんです」

下北沢で予約制書店の「夢眠書店」を経営する夢眠ねむさんにも、現役書店員として座談会に参加してもらいます。ねむさん、よろしくお願いします!

夢眠:はい!光栄です。書店員としては新参者でして、先輩方を前に緊張しております。

――よく「ノンフィクション本は売れづらい」と書店現場からの声を聞きます。実際のところはどうなのでしょうか?

夢眠:ノンフィクションって幅がめちゃくちゃ広いじゃないですか。硬派なものから柔らかいものまで。例えば、事件とか事故を扱っているイメージだけが先行しちゃって、腰を据えて読まないと覗いちゃいけない世界なのじゃないか、みたいな構え方をさせちゃっている気はしますね。

――シリアスなイメージが付きすぎているのかもしれない、ということですか?

礒部:そう。特に今のご時世には厳しいのかもしれないですね。沈んだ気持ちになる本をわざわざ読みたくない、つらそうな現実に加えて、さらにつらい事実を受け止め切れなくて読めない、みたいな空気は感じます。

市川:でも、それと表裏一体な側面もあるとも思って。逆に、こんな外にも出られない厳しい現実のなかで、空想の世界になんて浸っていられないよって方も一定数いるのではないかと。生の人間、出来事が持っている魅力、ドラマ性、あるいは怖さのようなものを読んでみたい。だから昨年、『女帝 小池百合子』(文藝春秋)があそこまで売れたんじゃないかな、とも思います。本当のことを自分の目で確かめたいっていう人も一定数いるのではないでしょうか。

市川真意さん 市川真意さん(ジュンク堂書店池袋本店文芸書担当)「純文学を好んで読みます。最近はフェミニズムにも興味があります。好きな作家は川上未映子さんです」

礒部:2019年に「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞したブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は、めちゃくちゃ売れましたよね(2020年12月時点で累計発行部数58万部)。先ほどねむさんが、「ノンフィクション本は幅が広い」って話をされていましたけど、「ノンフィクション本大賞」のおかげで「これもノンフィクションなんだ」という認知が広がったのはよかった。

2020年に「ノンフィクション本大賞」を受賞した佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は、普段だったら私は手に取らない終末医療の話です。延命治療をしない看取りの現場に佐々さんが同行して取材をしているんです。こういう本って本当につらい。それでも自分は、ノンフィクション本大賞の実行委員をしているのでノミネートされたときに読みました。こういう書き方もあるんだというか、自分自身が読んで救われた気もして。死ぬことへの恐怖感の見方を変えてくれた気がする。

生まれつつある新しいスタイル

礒部ゆきえさん 礒部ゆきえさん(旭屋書店 池袋店)「時代小説、エッセイ、写真集、絵本、ジャンルには拘らず、魅力的な本を探し求めています」

――最近はネット発のノンフィクション本も人気で、もともとnoteに連載していた高橋ユキさんの『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)が話題になりました。ネットから出版につながる新しい執筆のスタイルが広がっています。その一方で映像発、という流れもあるように感じます。

夢眠:ノンフィクションの世界で、映像と活字の境界線がなくなってきているのかも。

――話題になった『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)も、テレビ東京の上出遼平さんがプロデューサーを務める同名番組の書籍化ですね。

礒部:今、ノンフィクション本を書くのって金銭的に割に合わないと言われていますよね。印税と取材経費のバランスの問題で。そんななか、映像ドキュメンタリーが先行し、映像で伝えきれなかった部分を自身の言葉で書く、という新しいスタイルのノンフィクション本があるようには思います。新書はノンフィクション本大賞の選考対象ではありませんが、案外ノンフィクションが多い。最近だと『スマホ脳』(新潮新書)はかなり売れています。普段取り立てて意識していなかっただけで、ノンフィクション本を目にする機会や手に取っている機会は多いのかもしれません。

書店員に聞いてみた。あなたの一押しの一冊

濵本潤毅さん 濵本潤毅さん(下北沢本屋B&B)「好きな本のジャンルは、人文書(哲学・思想など)です」

――先ほど、礒部さんにおすすめのノンフィクション本をご紹介いただきましたが、ほかの3人のおすすめ本も伺いたいです。

夢眠:迷いますよね......。えっと、これ、坂口恭平さんの『cook』(晶文社)っていう本で、彼の食事日記なんですけど、もともと鬱を患っていた彼が、料理を作ることでメンタルが回復していきます。この本はそんな過程を記録しているんです。料理日記だけど、これもノンフィクション本かなと思ってご紹介したいです。

――社会の事件を扱ったり謎を解き明かしたりするものだけがノンフィクション本ではなくて、個人の半径100メートルのことを書いている本もノンフィクションだということですね。次に、濱本さんのおすすめのノンフィクションを伺わせてください。

濱本:僕はいま書店員をやりつつ、大学院で教育哲学(教育の思想などを研究する)という分野を学んでいますが、その流れで「これもノンフィクション本だろ?」ってことで、恐る恐るこの一冊を紹介したいです。東畑開人さんの『野の医者は笑う』(誠信書房)。東畑さんという臨床心理のカウンセラーが書いた本なんですけど、彼がちょっとした興味から、自身のカウンターでもある世の中にある怪しい治療師やヒーラーたちの現場に飛び込んでいくことになる。そして、「怪しい治療も私たちが信じている医学も、結局のところ、信じる者は救われるのだろうか?」という疑問を検証していく一冊です。学術書としての読みごたえもありながら、メチャクチャ軽妙な語り口で読ませてくれるミステリー的要素もある一冊なんです。

――これこそ、普通だとまず手に取る機会がない本ですよ。今回、座談会を企画してよかった。では最後に、市川さん、いかがでしょうか?

市川:はい。講談社ノンフィクション賞をとった、梯久美子さんの『狂うひと――「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社)です。これは、売れました。この本を読む前に、まずは島尾敏雄の『死の棘』(新潮社)を読んでいただきたいのですが、簡単にいうと、浮気をした夫の妻が精神に異常をきたして狂乱するという内容です。敏雄の身に実際に起きたことをありのままに綴ったと思われるこの本は、30万部をこえるベストセラーとなりました。その妻が、夫の部屋を掃除したときにたまたま開かれていた日記を見つけて、そこに浮気をした証拠が書かれていて、それを見たことをきっかけに、何年ものあいだミホは敏雄に対して常軌を逸した責め方をし続けるんです。

――何故、(島尾敏雄は)書いちゃうんでしょうね。それこそが作家なのか。

市川:そうなんですよ。それが長年、周知されていた定説だったわけです。しかし梯久美子さんが凄いのは、「本当にミホは『死の棘』で書かれていたような女性だったのか」という疑問から妻・島尾ミホさんを調べ尽くしまして。ネタバレになってしまうからあまり言えないんですけど、やっぱり夫のほうから語られる妻って、一元的な部分しか見られていないんだな、と。本当に狂っていたのは妻か夫かっていう、ノンフィクションがフィクションを超える瞬間を見られる一冊となっています。

ノンフィクション本好きを増やすには

インタビューに答える書店員のみなさん

――そろそろ終盤ということで、まとめたいと思います。「ノンフィクション本」好きを増やすにはどうしたらいいと思いますか。

夢眠:ノンフィクション本好きを増やす前に、本好きを増やさないとですね!

礒部、市川、濱本:間違いない!

――なるほど、濱本さんは大学院生でもありますが、若い人たちは本を読んでおりますでしょうか?

濱本:自分の知る限り、大学生も高校生も勉強以外では読まない人が多いのではないでしょうか。でも、漫画の『呪術廻戦』だったら、みんなメチャクチャ読んでいるわけですよ。あれ結構、難しい物語ですよ。あんなに長い物語が読めるならノンフィクション本を差し出してみたらいけるのではないかと。

――難解なコミックを読んでいるのなら、ノンフィクション本も決してハードルが高くない、ということですね。

夢眠:本を読まない人って読んでないことが罪悪感になっているんですよね。「私、本読めないからさ」とか言うけど、「ええねん、ええねん」みたいな。「大丈夫だよ」って抱きしめるところから始まる。そういう意味では、ノンフィクション本こそ間口が広いから読みやすい世界だと思います。

礒部:そう。ここまで話してきたように、ノンフィクション本って本当に幅広いから、だからこそ、どんな人にもピンとくる一冊が絶対見つかると思います!

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