ピーク時のクリック数は通常の20倍 「令和」発表の瞬間、Yahoo!ニュースはどう動いていたのか
2019年4月1日、新元号「令和」が発表されました。天皇の生前退位による改元は、憲政史上初めてのこと。メディアにとっても、皇位継承前に新しい元号を報じるのは特殊なケースでした。それは1996年(平成6年)に始まったYahoo!ニュースにとっても同じこと。
クリック数20倍という、かつてないほどの反響が起きたこの日。Yahoo!ニュースではどのように準備が進められていたのか。そして、その瞬間に何が起こっていたのか――。知られざる舞台裏を追いました。
取材・文/友清 哲
編集/ノオト
連載「Yahoo!ニュースの作り方」第8回
Yahoo!ニュースについて編集プロダクション「ノオト」の皆さんに取材していただきました。
・連載第1回
1日4000本の記事と向き合う「Yahoo!ニュース トピックス編集部」のすべて
・連載第2回
Yahoo!ニュース トピックス「13文字見出し」の極意 難関「コートジボワール」はどう表現?
・連載第3回
「人×テクノロジー」を日々実践 進化を続けるYahoo!ニュースアプリ
・連載第4回
衆院選、そのときYahoo!ニュースは――投開票日までの舞台裏
・連載第5回
500人の専門家の発見と言論が社会を動かす――「Yahoo!ニュース 個人」5年間の軌跡
・連載第6回
「改善はいつまでも尽きない」 Yahoo!ニュースアプリを育てる人たちの思いとは
・連載第7回
20代は野球、30代はサッカー? Yahoo!ニュース トピックスの分析で見えてきた傾向
待機するスタッフ数は通常の2倍――「緊張で手が震えた」
誤字や誤報が許されない歴史的ニュース。この日は編集部も異様な雰囲気に包まれたと証言します。
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
「編集部には、各局のニュースが見られるようにテレビが10台置かれています。新元号発表の際にはYahoo!ニュースにかかわるスタッフたちが続々とテレビの前に集まり、大いに盛り上がりました。これはなかなか普段の社内では見られない光景です。ただ、私たちは新元号に関するYahoo!ニュース トピックスを作成したり、プッシュ通知に備えたりしなければならないので、『作業中なのでお静かに!』と周囲にお願いしながら、各自が懸命に作業を進めていました(笑)」(編集部・中上さん)
当日のそんな様子を教えてくれたのは、Yahoo!ニュース トピックス編集部の中上芳子さん。新元号発表のプッシュ通知を周りのスタッフとともに何度も確認し、いざ配信した瞬間は「緊張で手が震えた」とも……。
スマホに届いたYahoo!ニュースアプリのプッシュ通知
そんな発表に至るまで、当日は朝から異例の対応続きだったと言います。
「4月1日はいつもの2倍の人数の編集スタッフが出社し、対応しました。11時すぎには、ヤフーのトップページに並ぶYahoo!ニュース トピックス8本はすべてが新元号にまつわるものになりました」(中上さん)
新元号に関する会議が終了したこと、それが参院議長に報告されたこと、さらに政府の使者が皇居に到着したことなど、朝から発表に至るまでの細かなニュースが編集部の元に届きます。
それらを逐一セレクトし、【新元号 有識者懇談会始まる】【「元号」有識者懇終わる】【「新元号」臨時閣議始まる】などの見出しでYahoo!ニュース トピックス作成。また、同時に発表会見の動画中継までもYahoo!ニュース トピックスとして配信していました。
新元号発表から約1時間の間につくられたYahoo!ニュース トピックスの一覧。12時5分の一つは、「令和」にルビを振ったほうがユーザーファーストだろうということで、途中で見出しが変更された
発表直後は、「令和」に関する動物ネタから全国の反応まで、多くの媒体から硬軟織り交ぜた記事が多数配信されました。
通常、Yahoo! JAPANのトップページに表示されるトピック数1日100本に対して、この日のYahoo!ニュース トピックスは合計120本にものぼり、そのうち76本が新元号関連の話題になりました。
通常の20倍のクリックが集中 ピークは「11時42分」
「Yahoo!ニュース トピックスへのクリックがピークを迎えたのは発表直後、11時42分でした」と語るのは、Yahoo!ニュース トピックス編集部で、データ分析を担当する桃井晴康さん。実際に新元号が発表されたのは11時41分ごろでしたが、Yahoo! JAPANのトップページには11時ごろから平常時以上のクリックが集まりました。
こちらのグラフは、パソコンとスマホのウェブブラウザ、そしてYahoo! JAPANアプリのクリック数を合算して集計したものです。
「ピークは11時42分で、クリック数は前週比較でおよそ20倍となりました。政府が新元号を発表すると予告していた11時30分には爆発的にクリック数が増えています」(桃井さん)
この日、Yahoo!ニュース トピックスへのクリックが集中した時間帯は、11時から13時までの2時間。この時間帯だけで、1日うちの37%のクリックが集まりました。普段のピークは、会社員の方の多くが昼休みに入る正午過ぎ。この2時間のクリック数は、前週平日に比べ約4倍にもなり注目の高さが分かります。また、ヤフーのサービスから見ることができる日本テレビとTBSがそれぞれ実施したライブ配信では、総視聴数が2032万、最大同時視聴数は342万と、歴代最高記録となりました。
とはいえ、こうしたアクセス数の伸びはある程度、想定されていたこと。その推移を編集スタッフと共に注視していたのが、Yahoo!ニュース担当エンジニアです。今回のように大量のアクセスが集中した場合、その負荷に耐えて表示しつづけるために、ページを装飾する画像や広告などを省いた簡易ページに切り替える特別対応しています。
エンジニアの伊能由佳さんによれば、この日は想定と異なるタイミングでピークを迎えたと言います。
「当初、普段と同じ正午過ぎにアクセスのピークが来ると予想していました。ところが実際はそれよりも早い、11時30分を過ぎたあたりからどんどんアクセスが集まり、さらに動画ページにも予想をはるかに越えるアクセスが集まったため、対応に追われました」(伊能さん)
伊能さんもこの一連の狂騒の際には、Yahoo!ニュース トピックス編集部のメンバーとパソコンを並べて、リアルタイムで負荷の確認に目を光らせていたそう。これも異例の対応でした。
新元号発表に関するあらゆる“不測の事態”を想定し、半年前から準備
東京・新宿の大型ビジョンで「令和」の発表を見守っていた大勢の人たち(写真:アフロ)
歴史的瞬間をいかに速く、正確に、そして分かりやすく伝えられるかはYahoo!ニュースの使命の一つ。しかし当然、編集部として改元を報じるのはこれが初めての経験です。一体どのようなニュースが流れ、どれほどの反響を呼ぶのか、不確定要素は尽きません。
そこで、Yahoo!ニュース トピックス編集部では、新元号発表の半年前から徐々に議論を始めていました。
「当日は11時30分ごろに新元号が発表されると言われていましたが、もし前夜にどこかのメディアが事前に情報をキャッチして流してきた場合、Yahoo!ニュースはどう対応するか。もし深夜に報道があった場合、プッシュ通知を行うか否か。さまざまな不測の事態を想定し、Yahoo!ニュース トピックス編集部で対応を話し合いました」(中上さん)
また、新元号が発表された瞬間、そのニュースをどう扱うかについても議論されてきました。
例えば、Yahoo! JAPANトップページのロゴの下の速報枠(参考:news HACK 2015年3月5日の記事)。地震などの大きな災害発生時には自動で表示されますが、新元号発表のニュースをここに掲出するかどうかも論点の一つでした。Yahoo!ニュース トピックス編集部の宮本真希さんはこう語ります。
「北朝鮮からのミサイル飛来、口永良部島の噴火の際に、編集部員が手動でこの枠を使って速報を伝えてきました。今回、この枠の定義を改めて議論し、『国民の多くが今すぐ生命や財産を守るための行動を取る必要があり、その行動を促すために、Yahoo! JAPANの全ユーザーが現在の作業を止めてでも、知らなければいけない緊急性の高い情報を掲載する』と定めました。その結果、新元号発表はそれに相当しないという結論に至った経緯があります」(宮本さん)
一つひとつの対応を吟味してきた当日の対応。そのほかにも、媒体社と事前に協議した上で配信していただいた記事を元にYahoo!ニュース トピックスを掲出した例もあります。
「発表の前日と前々日に、元号選定の過程に迫る記事と平成発表の幻の元号スクープに関する記事を、朝日新聞に配信いただき、Yahoo!ニュース トピックスとして掲出しました。これらは元号発表についてより多角的な情報をユーザーに分かりやすく伝えるため、あらかじめ朝日新聞と連携し、準備いただいたものです」(宮本さん)
新元号を掲げる「けんさく」が検索窓に登場
こうした対応のほか、Yahoo! JAPANトップページの編成を担当する清水真望さんは、また違った角度から新元号発表の瞬間を盛り上げるために尽力していました。
「例えば、PC版トップページに新元号発表会見の中継動画を配置したのも施策の1つ。やはりこれほどの話題ですから、ユーザーがYahoo! JAPANのトップページにアクセスした瞬間にそのニュースに触れられるようにしようという思いがありました」(清水さん)
また、Yahoo! JAPANトップページでは公式キャラクター「けんさく」が、「令和」と書かれたプレートを手に、検索窓やロゴを彩っていたのを目にした人もいるでしょう。こうした演出も行われていました。
Yahoo! JAPANアプリの検索窓でけんさくが「令和」を掲げる演出
「さらに、新元号に対する意識調査ページをスマホ版トップページに表示し、ユーザーの反応を伺いました。これらは国民的な関心事に対しニュースを読むだけでなく、そのときの印象や思いを共有し合えるような体験を作れたらという思いに基づくものです」(清水さん)
「新元号『令和』、どう思う?」を問いかけた、Yahoo!ニュースの意識調査「みんなの意見」。新元号発表直後から約3時間で投票数は14万票超え
また、新元号発表を報じた号外新聞の一面に、ヤフーが広告を出稿しています。その内容について担当者は、「号外新聞の紙面には書き切れない関連情報や最新情報など、新聞を読んで気になったことがあれば、すぐにインターネットで探せます。そんなインターネットの利便性をお伝えするために、『詳しくは検索で。』というコピーと検索窓を置いたクリエイティブにしました」と話します。
(写真:アフロ)
このように、Yahoo!ニュースというサービスの枠を超えて、新元号の発表に備え、ユーザーの「知りたい」にそれぞれの立場からこたえていったことが分かります。ここに登場したすべてのスタッフが、「とにかく緊張して手が震えた」「発表の瞬間に何が起こるのか分からなくて怖かった」と口を揃える4月1日でしたが、無事にこの日を乗り越えました。
元号が「令和」へ切り替わる5月1日もまた、世間の関心が一気に高まると予想されます。Yahoo!ニュースではこの日の経験を糧に、万全の体制づくりを進めています。
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