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伊藤圭

究極のお人好しか、ただの目立ちたがり屋か。医師・高須克弥、”奔放な生き様”

2016/09/16(金) 10:18 配信

オリジナル

美容外科・整形外科の第一人者でありながら、特異な言動と豪快な金遣いで世間を騒がせている、高須クリニック院長の高須克弥。

71歳になった今も、オペの現場に立って自らメスを手に取る。驚くことに、高須クリニックに所属する医師の中でも、その執刀数はいちばん多いという。

高須は医師としての活動だけでなく、スケールの大きい社会貢献でもたびたび話題になる。

先日のリオデジャネイロ五輪では、サッカー男子のナイジェリア代表が給与不払いをめぐり試合をボイコットしようとしていた問題で、すぐに資金援助を決意。自ら小切手を持って現地へ飛び、監督に直接手渡した。寄付金の総額は約3900万円にのぼる。

その決断力も行動力も財力もすべてが規格外。究極のお人好しか、それともただの目立ちたがり屋か。

ネット時代の相互監視社会をものともせず、自由奔放に振る舞う孤高の存在、高須克弥とはいったい何者なのだろうか。(取材・文 ラリー遠田/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:伊藤圭

慈善活動のモットー「助けるのは、見込みのある人だけ」

江戸時代から続く医師の家系である高須家では、「困っている人がいれば助ける」というのがモットー。高須もその志を受け継いで積極的に慈善活動に取り組んできた。ただ、ひたすら豪快にお金をばらまいているように見えて、実は相手をきちんと選んでいる。

「僕が助けるのは、がんばっている人や見込みのある人だけですよ。まったく見込みのない人が『生活苦だから助けてくれ』って僕のところにいっぱい来るんだけど、そんなのは助けないです。何の興味もないですよ。それは僕じゃなくてマザー・テレサがやることです」

医師である高須にとって、「人助けは呼吸をするのと同じくらい当たり前のこと」だという。あまり知られていないことだが、現在でも高須病院とその関連施設で高齢者の介護などの地道な仕事にも従事している。

「子供の頃から、困っている人がいたら本能的に助けちゃうんですよ。目の前で苦しんでいる人がいたら、とりあえず飛びついてそこで治療をやります。たとえば飛行機や新幹線で、『この中にお医者さんはいらっしゃいませんか?』ってやるでしょ。ああいうとき大抵の医者は、巻き添えになりたくないからじっとしてるんですよ。でも僕は、自分から名乗り出るようにしてるのね。どうせ『ここに高須がいるぞ!』ってすぐ言いつけられちゃうんだけど(笑)。いろいろなところで、タダで治療をやってますよ。それこそ、請求書を回してやりたいくらい(笑)。そういうのは、なぜかちっとも報道されませんけどね」

撮影:伊藤圭

「いかがわしさはラブホテル並み」厳しい批判を受けた美容整形

『高須クリニック』と言えば、現在では美容整形業界のトップランナーとして知られているが、実は日本で美容整形という新しい医療分野を開拓したパイオニアでもあった。

高須が美容整形に目覚めたのは25歳のとき。留学先の西ドイツで、鼻を小さくしたりエラを削ったりする手術を目の当たりにし、こんな世界があるのかと興味を抱いた。

1976年に美容整形外科『高須クリニック』を開業したが、医学界からは厳しい批判にさらされる。

「当時の美容整形はラブホテルと同じくらい、いかがわしいものでした。医者は病人を治すのが仕事なのに、美容整形では病人でもない五体満足の人にメスをいれるでしょう。そんなものは医療ではないと思われていたんです」

それでも、人を幸せにする医療としての美容整形に可能性を感じていた高須は、少しずつ理解者を増やしていく。経営は軌道に乗り、『高須クリニック』の事業は拡大。美容整形に対する世間のイメージも次第に変わっていった。

高須は新しい技術を導入しようとするとき、なんと自分自身を実験台にしている。1998年には「若返りプロジェクト」と称して、約10種類以上の施術を立て続けに受けて、顔と体を丸ごと若々しく作り替えてしまった。

自ら実験台になった高須克弥の「顔面の変遷」

また、2008年には最新式のボディデザイン装置を利用した治療「ミケランジェロ」を自ら受け、脂肪を腹筋や背筋のように形作ることにも成功している。

世界各国で美容整形に関するプレゼンを行う際には、その場で自らの体を見せることで、手っ取り早く手術の成果をアピールできるのだ。

ミケランジェロ手術後の高須克弥

「“秘すれば花”はつまらない」歯に絹着せぬ発言の理由

ここまで世のため人のために尽くしている高須だが、不思議と世間にそういうイメージはない。あまりに自由すぎる言動が反感を買うこともあり、いまだに高須をただの変わり者扱いしている人も多いのではないか。

「今でもめちゃくちゃに誤解されてますよ。僕のことを“金の亡者”だって言う人がいるんだけど、本当に金の亡者だったらこんなにドジをいっぱい踏みませんって(笑)。金に無頓着だからみんなが寄ってくるんです。そりゃあ世間の声は気になるけど、気にしていてもしょうがないし。でも、いずれ真実は明らかになるだろうっていう自信はあります」

高須はSNSなどでも自分の言いたいことを包み隠さず、本心を堂々とぶちまけてみせる。本音と建前を使い分けることが体に染みついている日本人の目には、それがひときわ異質に見えてしまう。

「隠さないのは楽じゃないですか。ひとついい格好して嘘をつくと、その嘘がバレないようにいろいろしなきゃならない。常にさらけ出していれば矛盾がないでしょう。『秘すれば花』っていうけど、僕は表に出すきらびやかなものの方が好きなんで。千利休と豊臣秀吉の争いでいえば、僕は秀吉の方が好きなんですよ。わび・さびとかよく分からないですから」

そんな高須の生き方の根底にあるのは、なんと仏教の教え。2011年に浄土真宗の得度式に臨み、僧侶となった高須は仏の道を信じている。

「こうなりたいとか言ってないで、自然に身を任せるのがいいんです。大日如来によって作られた宇宙の中で、自分以上の存在がいっぱいあることを認めて、 そのうえで動いていくのがいちばんいい。自分は俳優として与えられた役を演じているだけなのに、監督みたいなことを言い出したらドラマが面白くないですよ。僕はただの俳優ですから、役をうまく楽しくこなしているだけでハッピーなんです」

謎に包まれた美容整形医の正体は、地球というステージで与えられた「高須克弥」という役をこなす舞台役者だった。

撮影:伊藤圭

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高須克弥(たかすかつや)

日本の美容外科医。医学博士(昭和大学、1973年)。美容外科「高須クリニック」院長。


愛知県生まれ。東海高校、昭和大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。大学院在学中から海外へ(イタリアやドイツ)研修に行き、最新の美容外科技術を学ぶ。「脂肪吸引手術」を日本に紹介し普及させた。江戸時代から続く医師の家系。格闘技K-1のリングドクターとしても活動している。人脈は芸能界、財界、政界と多岐にわたり幅広い。紺綬褒章を受章。

編集協力:プレスラボ

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