テレビ朝日

筋書きのない真剣勝負はフィクションを凌駕する。「フリースタイルダンジョン」の仕掛け人

2016/9/6(火) 13:02 配信

「あれがすべてのきっかけだったかもしれない。時代が動いた瞬間を目撃したというか、心が震えましたよね」そう振り返るのは、「フリースタイルダンジョン」の演出を担当する岡田純一氏だ。

熱い真剣勝負は瞬く間にネットで話題になり、YouTubeの総再生数は4240万回にもおよぶ(現在はAbemaTVで放送)

にわかにヒップホップブーム再燃の狼煙が上がるなか、その立役者となった深夜番組『フリースタイルダンジョン』。ラッパーたちが火花を散らす「真剣勝負」を地上波で流すようになった経緯とその演出意図を岡田氏に聞いた。(ライター・大矢幸世/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:今祥雄

岡田氏が”時代が動いた瞬間”と語るのは2015年11月24日。深夜のテレビから流れてきたのは、2005年のZeebraの楽曲「Street Dreams」。オリジナルのリリックには『フリースタイルダンジョン』の司会を務めるラッパー、Zeebraの半生が籠められている。

この日、そのバックトラックに乗せてバトルを繰り広げたのは、チャレンジャーの焚巻(たくまき)。そして2008年の「ULTIMATE MC BATTLE」に優勝して以来、MCバトルを封印していた“ラスボス“般若だった。

「俺はしてる朝バイト 夜にフライトするためにやりだす」(焚巻)
「バイトじゃねえ俺はヒップホップに就職」(般若)
「眉間に皺寄せて打ち出す弾丸 革新の2文字」(焚巻)
「俺が革新(中略)突くぜ核心」(般若)

相手のパンチラインを真正面で受けとめ、鋭いアンサーを返していく。畳み掛けられる言葉の応酬に観客は湧き、Zeebraは涙を拭った。

「自分がずっと観たかったもんが観られた」

”ラスボス”こと般若(左)と日本のラップ界の立役者Zeebra(右)

“日本一のヘッズ”たっての希望ではじまった企画

日本語ラップの歴史が紡がれはじめて30年余。伝説のイベント「さんぴんCAMP」からも20年経ち、いくつかのアンセムが生まれ、ヒップホップは日本の音楽シーンに根付いた。ただ、ここ10年ほどはその他のジャンルに押されるように、いささかの停滞感があったことも確かだ。

しかし、その間にも日本各地ではサイファー(ラッパーなどが路上で自然発生的に始めるライブセッション)が催され、「B BOY PARK」「ULTIMATE MC BATTLE」「戦極MCBATTLE」などといったMCバトルが開かれていた。多くのヘッズ(ヒップホップ・ファン)が、草の根的に全国へ広がっていたのだ。

岡田氏もまた、一ファンとしてヒップホップと接していたという。

「『8 Mile』(2002年作のラッパー・エミネムの自伝的映画)を観て『うわ、こんな世界あるんだ』ってワクワクして、日本でもMCバトルがあると知って、面白いなって思って観ていました。その世界観を取り入れられないかなと、番組の企画書を書いたこともあるんです。でもやっぱりスルーされて、全然引っかからなかった。『高校生ラップ選手権』を観たときは素直に『テレビでこんなことやるんだ。すげぇな、かっこいいな』って思ってました」

撮影:今祥雄

「高校生ラップ選手権」は2012年、BSスカパー!のバラエティ番組「BAZOOKA!!!」内のコーナーとしてスタートし、現在は半年に1回のペースで行われている高校生限定のMCバトルだ。そこに審査員として関わっているZeebraが、「フリースタイルダンジョン」のキーパーソンのひとりとなる。

「もともと数年前からサイバーエージェントの提供番組の制作を手がけていて、半年ごとに企画を変えていました。その枠で藤田(晋)社長から『MCバトルの番組をやりたい』と打診があったんです。藤田さんは“日本一のヘッズ” 社長と呼ばれるほどヒップホップの熱心なファン。Zeebraさんにはすでに企画を持ちかけていて、草案はある状態でした。僕にも『こういうの好きだったよな?』みたいな流れで話をもらって……あ、やっとチャンスが巡ってきたんだな、って思いましたね」

高校生RAP選手権の第1回目王者、T-PABLOW(右)(テレビ朝日)

よけいな情報はいらない。ラッパーの思いを伝えればいい

タイトルの「フリースタイルダンジョン」という言葉から、通常のMCバトルのようなトーナメント制ではなく、ボスキャラである“モンスター”が次々にチャレンジャーの前に立ちはだかるRPG方式を採用。

モンスターはT-PABLOW、R-指定、サイプレス上野、漢 a.k.a GAMI、そして般若と、若手のホープからレジェンドまでが顔を揃えた。(※second seasonからはチャレンジャー経験者のCHICO CARLITOやDOTAMAなども登場)

ヒップホップにかぎらず幅広いジャンルで活躍するサイプレス上野(右)(テレビ朝日)

8小節を2ターンの3本勝負。日本のヒップホップ界の先駆者、いとうせいこうをはじめとする5名の審査員がジャッジし、全員の意見が一致すれば“クリティカル・ヒット”として、その時点で勝敗を決する。モンスター4人を倒せば100万円が手に入るが、負けた時点でそれまで積み上げた賞金は泡と消える。筋書きなしの真っ向勝負だ。

「最初のころ、先輩のディレクターから言われたんです。『この番組、なにも情報がないじゃん。ケンカしてるだけだろ』って。でも、よけいな情報はいらないんですよ。そんなの誰も望んでない。ラッパーがいて、彼らの情報があればいい。みんなはただ、バトルを観たいんです」

攻撃力の高いリリック(歌詞)には歓声を挙げ、巧妙なライム(押韻)には拍手を送る。熱を帯びた観客の反応もまた審査員のジャッジを後押しする。

圧倒的な強さを誇るR-指定(右)(テレビ朝日)

「月に1回の収録ですから、最低4回分は撮りたいけど、チャレンジャーが1回戦で負けることもあります。モンスターは“撮れ高”なんて一切気にしないし、メンツもあるから完全にチャレンジャーをぶっ潰す気マンマンでやってくれる。だから、収録中は祈るような気持ちですよ。賞金を守るためにモンスターに勝ってほしいと思いつつも、ちょっとは負けてよ、みたいな葛藤があって(笑)」

しいて“テレビ的”な演出があるとすれば、放送に不適切な言葉を「ピー音」で消すのではなく、テロップに「コンプラ(コンプライアンス)」の文字を重ねて消すことだろうか。

「番組としてはかなり攻めてますね。けれどもなんでもかんでも『コンプラ』になったのではつまらないから、ラッパーたちもすごく考えてくれている。そのせめぎ合いがおもしろいですよね」

確かに、時にMother Fxxxerと言っているように聞こえる箇所もテロップ上は「まだバカ」と書かれている。まさにコンプライアンスとリリックのギリギリの勝負だ。

「フリースタイルダンジョン」発のヒット曲を

「とにかく現場がすごいんですよ。モンスターも負けるリスクを背負って、命削ってやってくれている。僕もバトルに興奮して、判定にドキドキして……『仕事しろよ』って感じですよね(笑)。現場にはどうしても勝てないところはあるけど、その熱を限りなく近い感じで届けたいと思ってるんです」

今年4月からは火曜日深夜1時からの深夜の放送が終わってからは「AbemaTV」での配信がはじまり、7月には配信限定特別番組「Monsters War」も放映され、モンスター6名が率いるチーム同士がバトルする団体戦は話題を呼んだ。

「Monsters War」で優勝したTeam DOTAMAを率いたDOTAMA(写真右)(テレビ朝日)

8月からは過去のチャレンジャーたちがリベンジを目論んで熱いバトルを繰り広げる「REVENGERS WAR」もはじまり、次々に新機軸を打ち出す「フリースタイルダンジョン」に死角なし、といったところだろうか。

「もっと早い時間帯になって、もっと多くの人に観てもらえたらいいな、と思うんですけどね。ゴールデン? いやいや、まさか。0時台ぐらいが理想です(笑)。あとは今、『フリースタイルという文化、ラッパーという生き様ってかっこいい』っていうのは出せていると思うんですけど、何か番組発でヒット曲が出せたらいいなと思います。Zeebraさんの希望もあって、MCバトルだけじゃなく、必ずライブパートを入れるのもそういうことなんです。もし番組がひとつのきっかけでラップがお茶の間に浸透してきたのなら、ヒット曲が出ればもっと大きなブームになるんじゃないか、って」

チャレンジャーが”ラスボス”般若を倒し、賞金100万円を手にするのと、2010年代を代表するようなヒップホップアンセムが生まれるのとどちらが先か……その瞬間は意外にあっけなく訪れるのかもしれない。

撮影:今祥雄

編集協力:プレスラボ

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