アメリカ生まれアメリカ育ち、ハーバード大学院卒、ビル・クリントン事務所やインターポール、ロイター通信に勤務、CIAに内定し、FBIまでも――。
肩書きと権威に弱い我々日本人を圧倒する、華麗なる経歴を誇る異色の芸人・REINA。
現在、「セクシーチョコレート」という名で芸人として、タレントとして活躍する彼女は、ベンチャー企業で執行役員でもある。
そのプロフィールからは、人を寄せ付けないバリバリのキャリア女性を想像してしまうかもしれない。しかし実際に対面したときの彼女は、明るく快活で、どこかあどけなさの残る等身大の28歳の女性だった。
なぜ彼女は、華麗な経歴をもつことになったのか。その背景には“ある事件”が関係していた。(ライター・ラリー遠田/Yahoo!ニュース編集部)
「まだテレビのお仕事には慣れてないですね。ビックリすることも多いです。この前もクイズ番組の打ち合わせの時、普通に答えようとしていたら、スタッフの方に『もっとCIAっぽい解答をお願いします』って言われて、CIAっぽい解答って何だろう?って(笑)」
屈託なく笑うREINAは、戸惑いながらも自分の身に起こった環境の変化を心から楽しんでいるように見えた。
そんな彼女は、日本人の両親のもとでアメリカのニュージャージー州に生まれた。のびのびと育ってきたREINAを変えたのは、中学生のときに経験した9.11のアメリカ同時多発テロ事件だった。
「授業中、先生がいきなり黒板に『いま飛行機がワールドトレードセンターにぶつかった』と書いて、そのまま黙っていて。最初は何が何だか全然分からなかったですね」
それから数年間、アメリカのあらゆるマスコミはテロに関する報道一色に染まった。そして、REINAもこれを機に内なる愛国心に目覚めていた。
その思いと共に「絶対に許せない」という正義感が湧き上がった。両親や自分を受け入れてくれた国が、なぜそんな目にあうのか。なぜそんなことが起きるのか。
もっと知りたい、もっと学びたいと思った。その結果、大学では国際関係の学部に入り、テロ対策学を徹底的に学ぶことになる。
そして、その後はロイター通信で中東のリサーチなどの仕事に携わり、キャリアを重ねながらFBIに入ることを目標とするようになった。1年ほど続く採用試験を見事にくぐり抜け、最終チェックとして嘘発見器による適性検査を受けた。
ほぼ内定が決まっていた状況だったのだが、まさかの不合格。この結果が、REINAの人生を変えた。
「『あなた、嘘をついているでしょう』って言われて(笑)。いやいや、そんなことないですって。でもいま思えば、いろいろな仕事をやっていく中で『これが本当に自分にとって正しい道なのかな?』という不安があったんだと思います。それで変な反応が出てしまったのかもしれません」
9.11以降、国際関係の仕事、テロに携わる仕事に就くことにずっとこだわってきたREINA。FBI不合格という結果により呪縛のようなこだわりから解き放たれ、感じたのは「自由になった」ということだった。
そこから、彼女の行動は早かった。その日の夜にはロイター通信の上司に辞めることを伝え、心機一転日本に移り住むことにしたのだ。
「今までやってきたことを生かし、自由に仕事をしたい」と思っていたREINAは、ジャーナリストという仕事に興味をもつ。しかし問題は、日本語の読み書きが得意ではないということだった。一般企業で働くのは難しいだろう、そう思っていた。
そこで目に留まったのが芸能界だった。才色兼備のREINAが選んだのがお笑いの道だ。幼い頃にアメリカでテレビを見ながら祖母や両親が「日本には『アカシヤサンマ』っていう面白い人がいてね…」とつぶやいていたことが忘れられなかった。「もっとこの国のことを知りたい」そんな動機でお笑い養成所、ワタナベコメディスクールの門を叩いた。
“スクール”と聞いて彼女が想像していたものとは異なり、待っていたのは入学して早々に「ネタを見せて」と言われる日々。ネタの考え方や見せ方などを一から習う場所と考えていた彼女にとって、それは驚きであり、ワクワクとする刺激となった。
「正直、かなり苦労しました。分析して良くなるというシンプルなものではないですし。とりあえず実践して、リアクションを見て直すこともできますけど、お客さんによって反応も違いますし。やっぱり難しいですよ。大変だけど、正解が本当に見えないからこそ、楽しいですね」
養成所を卒業してからは、芸人らしからぬ華麗なキャリアが注目され、トークバラエティ番組『バイキング』のレギュラーに抜擢されるなど、順調にメディア出演の機会を増やしてきた。テロ対策の専門家として発言ができる彼女は、文化人枠での起用も多い。だが、本人には浮かれた様子は全くない。
「人として多少は興味を持ってもらっているかもしれないですけど……。まだまだこれからです。」
芸能界は厳しい。各種メディアに引っ張りだこの彼女も、芸人として、タレントしてはまだまだ駆け出しのひよっ子だ。アメリカ人のフロンティア・スピリットを胸に秘め、日本のお笑い界という大海に漕ぎ出したREINAの挑戦は続く。
「養成所では講師の方に『普通じゃなくていい、もっとお前たちだからこそできるネタがあるだろう』とずっと言われてきて。“自分たちにしかできないネタ”って何?と思ってきましたが……、その答えはまだ、見つかってないです(笑)」
編集協力:プレスラボ
REINA
2010年12月 ブラウン大学卒業在学中、インターシップでクリントン大統領の事務所に勤務し、大統領の海外での活動をサポート。2011年4月 クリントン事務所でビル・クリントン元大統領に会う。
同時期にアメリカの中央情報局・CIAの試験も受け合格。CIAを断り、世界大学学術ランキング で1位のハーバード大学の大学院へ入学。同時に東大大学院も受け合格2013年5月 ハーバード大学院卒業。ハーバード大学院時代にはインターシップとして『国際刑事警察機構』通称インターポールに勤務。テロ対策課に属し、ソマリアの海賊と戦う任務を経験。在学中PKKに潜入取材
2014年日本へ移住、ワタナベエンターテインメントの、コメディスクールに入学