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殿村誠士

期待の若手俳優・北村匠海のもう一つの顔「バンド1年生」――楽器弾けない、苦しかったDISH//の8年

2019/06/30(日) 09:01 配信

オリジナル

若手イケメン俳優、北村匠海は今まさに勢いに乗っている。映画「君の膵臓をたべたい」では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。話題作の公開も多く待機し、俳優としてのオファーは後を絶たない。しかし、北村のこれまでの芸能活動の大部分を占めているのは、俳優業ではなく、楽器を弾けない「ダンスロックバンド」として始まったDISH//(ディッシュ)での活動だ。最新アルバムがオリコンデイリーチャートで1位に入り、8月には富士急ハイランド・コニファーフォレスト公演を控えるなど堅調にも見えるが、その道のりは平坦ではなかった。辛酸をなめたこともあったという、DISH//の8年間を追った。(取材・文:永堀アツオ/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

DISH//のメンバーに救われた北村匠海

映画『君の膵臓をたべたい』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、ドラマ『隣の家族は青く見える』や『グッドワイフ』に出演。今後も話題作が数多く待機する、いま勢いのある若手俳優のひとり北村匠海(21)。彼は、リーダーを務める4人組ダンスロックバンド、DISH//のボーカル&ギターという一面もある。

北村匠海

DISH//は2011年12月に結成。これまでシングルを12枚、アルバムを3枚リリースし、2015年から4年連続で元日に日本武道館公演を開催した実績を持つ。

俳優活動が目立つようになった北村だが、彼にとってDISH//はなくてはならない居場所であり続けている。中学時代、芸能活動をしているなかで辛いことがあったときも、メンバーに救われたという。

「ひとりで塞ぎ込んでる状態だったんですけど、DISH//に行ったら、みんな明るいから楽しくて。塞ぎ込んでた自分を変えてくれたんです」

北村は続ける。

「ツアー前に右手を骨折して落ち込んでたときも、メンバーが意外とケロッとしてるから助けられた部分も大きくて。そういう、いろんなことが積み重なって今の自分が構成されているし、彼らに助けられながら活動してきた。DISH//は僕にとって希望なんですよね」

「もちろん、ひとりで役者をやってる時もめちゃくちゃ楽しいんですよ、いろんな人にも出会えて。でも、そこから抜け出て、自分のグループに帰ってくるときはやっぱりあったかいなって思うし。今も昔も変わらないんです」

もっともDISH//には、一般的なバンドと決定的に違う点があった。アーティスト集団「EBiDAN」から結成された彼らには、楽器の演奏経験がほとんどなかったのだ。歌いながら楽器を持って踊るパフォーマンスがメインの「ダンスロックバンド」。彼らが手にした楽器はアンプにつながっておらず、「衣装の一部」だった。

ギターの矢部昌暉(21)も、そのスタイルを不思議に感じていた。

「もともとダンスをやって育ってきていたから、『なんで弾かないギターを持ちながら踊ってるんだろう? 楽器を持たないで歌って踊るほうがよくないかな?』って思ってました。単純に重いですからね(笑)」

矢部昌暉

演奏をしない「バンドマン」の葛藤

メンバーは葛藤を抱えつつも、真っ白なエレキギターやベースを抱えて歌い、踊り、時にはコントを披露し続けた。下積みを重ねるうち、全国各地のショッピングモールでの営業を足がかりに人気を得ていく。2013年12月のライブでは、初の「バンド演奏」を披露。その後も演奏の研鑽も続け、少しずつ演奏できる楽曲を増やしていった。

それでも、「楽器が弾けないバンド」に対する風当たりは強く、メンバーの苦悩も根深かった。2014年春のライブでは、キーボードの橘柊生(23)が「弾けない」苦悩を涙ながらに語るシーンもあった。

「ちぐはぐな感じがすごかった」と、北村は当時を振り返る。

「世のバンドマンたちは必死に練習してから人前へ出るけど、僕らはできないのに人前に出るところからスタートしてるから。弾ける持ち曲が増えるにつれて、おのおのの『ダンスロックバンド』への疑問みたいなものが生まれて。いろんなことを話し合ったけど、なかなか解決しないんですよね」

答えが見つかったのは、2016年6月に8枚目のシングル「HIGH-VOLTAGE DANCER」をリリースしたときだった。橘は言う。

「初めて楽器を演奏しながら踊ることができて。フロアを踊らせるという意味でも、お客さんと一緒にフリを踊りながら演奏するっていう意味でも『ダンスロックバンド』になれたんです」

橘柊生

彼らの「逆襲」を象徴する出来事があった。「HIGH-VOLTAGE DANCER」のリリース記念イベントに、以前ギターの「アテブリ」(弾くフリ)をしていたことがあるTM NETWORKの木根尚登が登場したのだ。いわば「アテブリの大先輩」の胸を借り、木根の前で楽器を弾きながら踊る「ダンスロック」スタイルを披露したDISH//。改めて、自分たちで生演奏をすることへのこだわりを公にした。

2016年7月のデビュー5周年ライブでは、55曲中24曲を自分たちで演奏している。

メンバーの脱退を越え、再出発へ

2017年元日の日本武道館公演で、「5人目」のメンバーが加入する。解散したバンド、カスタマイZのドラム担当・泉大智(23)だ。泉は言う。

「匠海がドラムのいないDISH//に誘ってくれて。スタッフさんには『ダンスはやらないです』って念を押したんですけど(笑)」

「大智がいなかったらDISH//をやめていたかもしれない。彼が入ったことで、バンドの楽しさを知れたし、ギターを弾くことも大好きになった。大智の存在はすごく大きいですね」(矢部)

泉大智

「最初から演奏できる」泉の加入で、演奏力がさらに強化されたDISH//。5人で「ダンスロックバンド」の先駆者として突き進む――はずだったが、翌年3月にベース担当のメンバーが脱退してしまう。

「誰一人、心が折れてなかったし、逆に『じゃあどうするか?』って、考えの幅が広がったような気がしてます。ひとり抜けたことはマイナスだけど、サポートのミュージシャンから学ぶことも多いし、音楽的な幅も広がった。DISH//は『バンド』としてはまだ駆け出しですけど、正しい方向に進んでいるんじゃないかって思いますね」(橘)

2018年夏、4人での「再出発」への意思を込めた12枚目のシングル「Starting Over」をリリース。今年の4月には、BiSHのアイナ・ジ・エンド、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也、あいみょんらも関わった3枚目のアルバム『Junkfood Junction』をリリースし、オリコンデーリーチャート1位、週間チャートでも2位を記録した。8月には、バンド史上最大規模となる富士急ハイランド・コニファーフォレストでのライブを控える。

4人での再始動から約1年。

「僕らはバンド1年生ですからね」

そう恐縮してみせる北村だが、確かな成長も実感している。

「目の前の何百人ではなく、何万人という規模の人たちを前にライブをしていくことを見据えるようになりました。そのために今、どんな曲が必要で、どんなライブをやらないといけないかっていうことを考えてます。それが、この1年で、一番変わった部分かなって思いますね」

DISH//(でぃっしゅ)
北村匠海(ボーカル、ギター)、矢部昌暉(コーラス、ギター)、橘柊生(Fling Dish、ラップ、DJ、キーボード)、泉大智(ドラム)の4人で構成された、演奏しながら歌って踊るダンスロックバンド。2011年12月に結成。2013年6月にシングル「I Can Hear」でメジャーデビュー。4人は個々でも活動も行い、なかでも北村匠海は、映画やドラマの話題作に数多く出演している。


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