2018年にデビュー20周年を迎えたaiko(43)。「NHK紅白歌合戦」に13回出場するなど、国民的な人気を誇り続けるシンガー・ソングライターだ。ライブ会場には10代から70代までのファンが詰めかける。幅広い年代層のファンに届くラブソングを書き続けられる秘訣を聞くと、「何度経験したとしても、同じ恋愛はひとつもないんですよ」と笑う。aikoの考える「大人になること」、ライブ前の「地蔵のような生活」、そして自分と聴き手との関係性とは。(取材・文:もりひでゆき/撮影:岡田貴之/Yahoo!ニュース 特集編集部)
どんなに好きな相手でも、他人だから心の中は一生わからない
1998年のデビュー以降、ブレークのきっかけとなった「花火」や「カブトムシ」をはじめとする数多くのラブソングを世に送り出してきたシンガー・ソングライター、aiko。日常のなかで芽生える大切な人への感情の機微を繊細にすくい取る「あなたとあたし」の物語は、世代を超えて多くの人の心を魅了し続けている。デビューから20年を超えてなお、ラブソングを生み出し続けられるのはなぜなのか。
「一番面白いから書いてる、理由はそれしかないですね。自分自身、何度経験したとしても同じ恋愛はひとつもないんですよ。マニュアルもないから勉強することもできないし、どんなに好きな相手であったとしても本当の心の中のことは一生わからない。他人やから」
だからこそ興味が尽きず、自分にとっての軸になっているとaikoは語る。
「年がいもなく恋愛の曲を書いて恥ずかしくないのか、みたいなことをネットに書かれたりすることもあります。でも、みんなやめられないことってあるはずじゃないですか。楽しいことはいくつになっても楽しい。だったら私だってやめられへんし、みたいな感じなんですよね(笑)」
年齢を重ねていくなかで、恋愛に対しての考え方には変化してきた部分もあるという。
「自分がどれだけ相手のことを愛せるか。『幸せにしてほしい』じゃなくて、『この人が幸せになってくれるためにはどうしたらいいだろう』って。昔はね、とにかく相手に自分のことを好きになってほしいと思っていたから、そこはちょっと変わってきたところなのかもしれないです」
なんでこんなにいろんな人がライブに来てくれるんだろう
彼女のライブには下は10代から上は70代までが詰めかける。その年代層の幅広さは、aikoのラブソングの普遍性を象徴しているとも言えるだろう。
「それは真剣に考えると、ちょっと頭がおかしくなるんですよ。怖くなっちゃう。『なんでこんないろんな方が見に来てくれるんだろう』って。わざわざライブに来てくれてるっていうことをすごく真剣に考えたら、声出えへんぐらい緊張しちゃうんですよね。とはいえ、苦しくて胸が痛くなるような恋愛の感情は、10代の頃に感じたものと今もまったく一緒。大人になることで変わってしまうものもあるけど、同時に変わらないものもあるんやなってあらためて思いますね。そういう言葉が歌詞になります」
デビュー20周年を迎えた昨年は、全国27カ所45公演に及ぶホールツアー「Love Like Pop vol.20」と、神奈川・サザンビーチちがさきに約3万7000人を集めた野外フリーライブ「Love Like Aloha vol.6」を開催。今年に入ってからは大阪、埼玉、福岡でアリーナツアー「Love Like Pop vol.21」も行われ、ファンとともに大きな節目を祝った。
「本当に奇跡のようなことばかりだった20年なんですけど、歌ってる自分自身としては必死のパッチでやってきた時間なんですよね。私は節目というものを意識することがほとんどないんです。記念日を作って立ち止まることが苦手だし、そうすることに怖さもある。それに、節目を祝えるような立場にも自分はまだなってないとも思うから。ただ、昨年からいろんな方々に『おめでとう』を言ってもらえたことで、次を迎えるためのいい区切りをつけることはできたような気がしますね。『20年続けることはすごいことなんだよ』って言ってもらえばもらうほどプレッシャーにもなってくるんですけど(笑)」
aikoは歌い続けてきた理由を「歌うことが好きで仕方ないからだと思います」とシンプルに語る。だが、好きなことをただ楽しんでいるだけで、20年間シーンの第一線で活動できるということは、まずあり得ない。ポップで明るいキャラクターゆえに、表にはなかなか見えてこないが、歌い続けていくための努力を人一倍、積み重ねてきた。
「若い頃みたいに力業でなんとかなる、なんてことはもうないですからね。それに自分が楽しむためには、まず自分がいいと思うものを作らないといけない。しかも、過去の自分と同じものを作ったとしても、今の自分が感動しなかったらそれはまったくダメなわけで。だから自分の歌にしても曲にしても、ライブの演出や構成なんかにしても、おのずとグッと集中して向き合っていくようには年々なっていると思います」
人としゃべらないと「らりるれろ」が言えなくなる
歌に関しては、自分の望むべき声、表現を出すために、ストイックなほどにケアしているというaiko。レコーディングやライブの前には自宅に閉じこもり、誰とも話をしないことで声帯を休ませる。本人曰く、「地蔵のような生活」を強いることもしばしばだ。
「人とまったくしゃべらない日が続くと、『らりるれろ』がうまく言えなくなったりするんですよ。そうなったらお風呂の中で『らりるれろ、らりるれろ……』って何度も唱えて口をほぐしたりして(笑)。私は声にまつわること、声帯にまつわる不安が一番怖いので、できることは徹底的にやってはいますね。でも、それって歌手はみなさんやっていることだと思うし、そういう部分は表に見えなくていいものだと思うんです。単純に私は自分が楽しいと思える場所に行くためにやっていることなので、全然ツラいことでもないですしね。犠牲にしているっていう感覚はまったくないんです。おなかが痛くても骨折しても、『別に歌えるんやったらええか』っていう感覚なんですよね」
aikoが声帯のケアを徹底的に行うようになったのは、2001年以降のこと。この年に声帯結節急性咽喉気管炎を発症し、ホールツアー「Love Like Pop vol.6」の一部公演を延期させてしまったのだ。
「あのときは1カ月間、誰ともしゃべらない生活をしました。もしかしたらもう二度と声がちゃんと出ないかもしれないっていう不安にとらわれてしまって。その後、8年ぐらいトラウマになっていたんですよ。だからこそ、気持ちよく歌えるのであれば、家に閉じこもることも全然大したことじゃないって思えるようになったんです。だって、歌うことはずっとやめたくないから。それだけ命を懸けられることが自分にはあって良かったなって思います」
声帯結節はいまも喉に残っている。
「ポコッと小さい山のようになっているんですけど、病院の先生いわく、それがあることで私は自分らしく歌えている部分があるそうなので、これからもうまく付き合っていこうとは思ってますね。結節があることで2001年の出来事を忘れることはないし、喉のことをより意識できるところもありますから。ま、たまにムカつきますけどね。『なんやねん、この結節!』って(笑)」
過去の曲に固執していたのは自分だったかもしれない
この6月5日には、これまでの活動を総括する初のシングルコレクション「aikoの詩。」がリリースされた。デビューシングル「あした」から最新シングル「ストロー」までの全表題曲と厳選されたカップリング曲、全56曲を4枚のディスクにわけて収録した大ボリュームの作品だ。
「これを出しましょうって言われたときに、『私、もうレコード会社をクビになるのかな』と思ったぐらい(笑)。でも、ここに並んだ曲たちやブックレットを眺めたときは感慨深かったです。『私はずっと生きていたんやな、ちゃんと息をしてきたんやな』って思えたから。どの曲を聴いても、『あ、あのときの自分がここにいるな』って思えるし、全部がちゃんとつながっていると感じられることがすごくうれしいですね。『人生のアルバムってこういうことか!』って思いました」
時間を経てもなおみずみずしく、普遍的な輝きを放つ楽曲たち。aiko印の安心感はもちろんあるが、楽曲ごとに新鮮な驚きも与えてくれるからこそ、この20年間で常に新たなリスナーにもしっかりアピールできているのだろう。
「最近、『渋谷の皆さんにaikoの好きな曲を聞いてみましたランキング』っていうのをテレビの企画でやってくださって。そこに最新シングルの『ストロー』が入っていたんですよ。それを見たときに、『カブトムシ』とか『花火』とか『ボーイフレンド』とか過去の曲に固執していた、とらわれていたのは自分だったのかもしれないなっていうことに気づいて。街の人たちは新しい曲にもしっかり耳を傾けてくれて、それを好きだと言ってくれている。だったら私はもっともっといろんな曲を、みんなの心に残るような曲を作っていけたらいいなってすごく思いました。シングルコレクションのリリースも含めて、前向きな気持ちの切り替えができた気がしますね」
「あなたとあたし」の関係を描くラブソングが象徴しているように、aikoの楽曲には基本的に「みんなのうた」はない。ライブでは必ずこう言ってから歌に入る。
「1対1で届けます」
彼女はここから先も、かけがえのない「1対1」の関係の輪を大きく広げていくのだろう。
「私の曲を聴いてくれる人と1対1の関係でいたい気持ちは、これからもずっと変わらないです。私が曲として作れるものは、すごくちっちゃい範囲の世界なのかもしれない。それでも私はやりたいし、ずっと続けていきたいんです。新しいアーティストがどんどん出てくるから、そこに対しての怖さはもちろんあります。私なんてまだまだだなぁってすごく思います。だからこれからもやりたいことをどんどん形にして、楽しく頑張っていきたいですね」
aiko(あいこ)
1975年11月22日生まれ。大阪出身。1998年にシングル「あした」でメジャーデビュー。これまでに「花火」「カブトムシ」「ボーイフレンド」「キラキラ」「KissHug」「milk」「もっと」などのヒット曲含む、38枚のシングル、13枚のオリジナルアルバム、2枚のベストアルバムを発表。2019年6月5日にはこれまでリリースされた38枚と両A面シングルと、厳選されたカップリング曲全56曲を収録したシングルコレクション「aikoの詩。」をリリースする。