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太田好治

「自分が生きてない時代に興味を持つのって、すごくいいこと」―平成生まれのあいみょんが令和に残したいもの

2019/04/24(水) 08:35 配信

オリジナル

平成7年生まれ、現在24歳のシンガー・ソングライター、あいみょん。若者世代のポップアイコンとして人気を博し、2018年にはNHK紅白歌合戦に出場した。フォークや歌謡曲の雰囲気が感じられる楽曲は、いまや幅広い世代に浸透している。どこか昭和の薫りを漂わせる、平成生まれのあいみょんは、「昭和」「平成」をどう捉えているのか。そして「令和」に残したいものとは。(ライター:金子厚武/撮影:太田好治/Yahoo!ニュース 特集編集部)

歌謡曲をやりつつ、新しいものを交ぜる

2018年末、NHK紅白歌合戦に初出場したあいみょん。番組プロデューサーは会見で、「10代、20代の『デジタルネイティブ』と言われている世代に人気」と選考理由を明かした。一方で、楽曲に関しては「昭和っぽい」と形容されることも多く、それが幅広い世代からの支持につながっている。

「私は平成を生きてきたから、昭和を生きたことはないのに、『昭和っぽさ』を持ってるのはラッキーっていう感じですね」

あいみょんの楽曲が「昭和っぽい」と言われるのは、フォーク、歌謡曲の雰囲気が感じられることが大きな理由だ。普段のライブは基本的にバンドスタイルだが、2019年2月の自身初となる日本武道館公演は弾き語りで行った。音楽性の原点は、父親にあるそうだ。

「お父さんは浜田省吾さんや平井堅さんが好きで、私も聴くようになって。浜田さんが聴いていた音楽がフォークだったから、私がそこに飛び付いた。ジャクソン・ブラウンとか、ボブ・ディランとか。歌謡曲は元々大好きです。でも、だからといって、いま歌謡曲をそのままやればいいかっていうと、それはダメだと思う。既に名曲がたくさんありますし。いま、私が歌謡曲みたいなものを出したら、もの珍しさでみんな聴くかもしれないですけど、続くものじゃない。歌謡曲をやりつつ、新しいものを交ぜないと」

実際に、彼女の楽曲のアレンジはロックからR&Bまで幅広い。しかし、歌詞に関しては、「流行(はや)りを入れるのは好きじゃない」とこだわりを持つ。

「残っていく楽曲ってタイムマシンみたいなもので、何年後かに聴いた時に、当時の自分の記憶がよみがえるじゃないですか。私がいまORANGE RANGEを聴いたら、中学校の給食の時間を思い出すみたいに。だから、時代に寄り添いつつも、いつかなくなりそうなものはあんまり歌詞に入れたくない。『君はロックを聴かない』という曲で〈ドーナツ盤〉って歌ってますけど、これはいまも生きてる言葉。残るもの、残る言葉たちを、という感じかな」

「大家族育ち」が形成した価値観

「昭和っぽい」と言われるあいみょん自身は、「昭和」にどんな印象を持っているのだろうか。

「『大切な人を守りたい』っていう思いが、芽生えた時代じゃないですかね。(戦争では)命を奪い合っていたけど、みんな誰かを守りたかったから争っていたわけで、人を殺したかったんじゃない。子どもたちに言っても分からないかもしれないけど、そういうことは考えますね……何とも言えない気持ちになるんですけど」

普段から戦争を描いた小説や映画に触れることが多いそうで、あいみょんの抱く昭和観には戦争の色が濃い。祖母の存在も影響している。

「いまは何でも手に入る時代ですけど、昭和は食べ物にしろ何にしろ、限られていたと思うんです。うちのおばあちゃんとか、『いつのお手玉やねん?』みたいなのをずっと残してるし、カルタとかも手作りのものがあって、いいなと思います。いまの時代はアプリ、アプリじゃないですか。それはそれでいいんですけど、昭和はものを大切にしたり、人を大事にしたりできる人が多かったのかなって。上の世代の人が『最近の若いもんは』って言うのって、きっと大事にしたい何かがあって言うんやと思う」

「家族が自分に大きな影響を与えている」と言う。あいみょんは6人きょうだいの上から2番目の次女。昨今ではめずらしい大家族育ちだ。

「うちはほとんど年子だし、お父さんお母さんはすごく大変だったはずやのに、『親に迷惑をかけることが子どもの仕事や』って言ってて。それってホンマにすごい。でもいまはみんな成長して、逆に子どもが親を生かしてる感じがする。子どもおらんかったら、うちの両親は生きていけないと思う。家族の色ってそれぞれだから、決まってどうこう言えるわけじゃないですけど、『家族っていいな』っていうのはずっと思ってます」

新曲「ハルノヒ」は『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』の主題歌で、「新婚旅行」という映画のテーマを基に描かれた「家族の歌」だ。「クレヨンしんちゃん」は平成4年にテレビアニメ放送がスタートし、映画版は今年で27作目となる。平成を代表するアニメ作品だ。ひろし、みさえ、しんのすけ、ひまわり(と、愛犬のシロ)の4人家族が織りなす日常が描かれる。

「ヒーローものとは違って、『しんちゃん』は日常生活の中から生まれる面白さ。知らない間に日本語を覚えるみたいに、小さい頃から知らず知らずのうちに見ていて、大好きになってました」

『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)にとりわけ影響を受けた。高度経済成長期を連想させる「20世紀博」を通じて、子ども世代と大人世代を対比し、そのノスタルジックな内容から「大人が泣ける」と話題を呼んだ作品だ。この作品を通して、大阪万博(1970年)の「太陽の塔」を知り、「今では岡本太郎のとりこ」だという。映画で楽曲が使われていたことから、吉田拓郎やベッツィ&クリスも好きになった。

「『オトナ帝国』はただ面白いだけじゃなくて、『古き良きものを大切にしなきゃいけないけれども、時代は巡っていく』というメッセージがあったんですよね。昔から大事にしなきゃいけないものはあるけど、やっぱり時代は移り変わっていくわけで、新しい時代を受け入れていかなきゃいけない。それが伝わる映画なので、すごく好きですね」

古き良きものを大切にしながらも、新しいものを受け入れていく。それは、あいみょんの音楽活動とも重なる。いままさに終わりゆく「平成」については、どう見ているのだろうか。

「表現の幅が増えて、子どもたちの未来に希望を与えてる。YouTuberなんかもそうですけど、新しい職業をつくり出したりできるのも、ネットがあるからだから、いい時代やなって。その代わり、人と人との直接的なコミュニケーションが減っているとは思います。(子どもたちには)自分のやりたいことがあるんだとしたら、それを突き詰めてほしいけど、あんまり外を見なくなるのは良くないのかなって。世の中の出来事を自分の目で見るっていうのが大事だと思う」

「いつの時代も、新しい何かが生まれる時には、メリットとデメリットの両方がある」とも言う。ものへの愛着が強く、「手元に残すこと」や「ものの手触り」が遠のいていくことには寂しさを感じている。

「いつか教科書とかもデジタルになるのかなって思うと、机にドサッと置かれた教科書の重みとかも分かんなくなってきちゃうのかなって。ランドセルも必要なくなって、小学生がクラッチバッグで学校に行くようになるかもしれない。写真もデータで残す時代で、『iPhone川に投げたらおしまいやん』って言っても、『iCloudに保存してる』って言われちゃう。でも、ちっちゃい頃の写真を大きくなってからアルバムで見るのって嬉しいじゃないですか。亡くなったひいおばあちゃんは『急に空襲が来て、家族の写真だけ持って逃げた』って言ってて。それを聞いて、『手元に残る大事なものっていいな』って思いました」

「ものを残したい」という思いには、大家族で育った経験が根付いている。

「私、もったいないお化けなんです(笑)。制服とか全部おさがりで、中学の時、知らへん人の制服着てたんですよ。毎年新しいセーラー服は買えないから、親戚とか、近所の人からもらったり。昔はコンプレックスでしたけど、いま思うと理にかなってるというか、エコやなって。うちの家族はみんなあんまりものを捨てない。やっぱり人間は育ってきた環境によって考えが違いますよね。人類が全員同じ両親から生まれてたら、争いはないかもしれないなと思います」

「自分から生まれるものを残したいっていう欲がある」

あいみょんの楽曲は、定額配信サービスのランキングで常に上位に位置し、スマートフォンを通じて多くの人に聴かれている。しかし、アートワークにも力を入れ、CDという形態で作品を発表することにこだわるのも、実にあいみょんらしい。

「海外だとデジタルが主流だっていうのは、それはそれで全然いいし、CD出したい人は出せばいい。私は出したいから出してるし、『もう出せない』って言われたら、『いや、出したいです』ってきっと言うと思います。自分から生まれるものを残したいっていう欲があるんですよね。表現の一部として、写真も絵も。考えは人それぞれで、デジタルでいい人もいるだろうけど、私は今まで自分が出してきた作品は、死ぬまで手元に置いておきたいです」

過去の記憶や思い出を大切にしながら、いまに即した表現を続けるあいみょん。昭和と平成を抱きしめて、令和に残したいものとは。

「お札が変わるじゃないですか。なので、旧札を全部姪っ子と甥っ子に取っておこうと思います。いまの時代ばっかりじゃなくて、自分が生きてない時代に興味を持つのって、すごくいいことだと思うんです。『こういう時代があったんや』って思うことで、なんかいい子に育つ気がする。おばあちゃんがコロムビアの赤いレコードを私に見せてくれなかったら、私はたぶんレコードに興味なかったですし、お父さんの部屋でスピッツのCDを見つけてないと、CDに興味を持たなかったかもしれない。『がらくたを集めてるおばさん』って思われてるかもしれないけど、それがいつか、甥っ子と姪っ子に何か興味を与えるものになればいいと思っているので、捨てられないんですよね」

あいみょん
1995年生まれ。兵庫県出身。2016年、シングル『生きていたんだよな』でメジャーデビュー。2019年2月、2ndアルバム『瞬間的シックスセンス』をリリース。4月には『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし』の主題歌となる7thシングル「ハルノヒ」を発売。


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