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「女性=弱者」なんてことはない、生きづらい社会がダメ――不器用な人間の側に立つ「超歌手」、大森靖子の叫び

2019/03/14(木) 08:47 配信

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シンガー・ソングライターの大森靖子のツイッターには、1日に200通から300通のメッセージが寄せられ、そのすべてに大森は目を通す。ファンの葬儀にも訪れる。「そうじゃないやり方がわからない」と大森は言う。ときに聴き手の胸をえぐるほど生々しい歌詞は、10~20代の女性ファンから強い共感を得てきた。しかし、大森は「誰かと同じ気持ちになんて絶対になれない」とも言い切る。

「自分が生きてもいいとは思えない」と考える大森が、それでも他者を強く肯定するのはなぜか。そこには、型にはまれない人間を「メンヘラ」「弱者」扱いする社会への反発があった。(撮影:Masayo/Yahoo!ニュース 特集編集部)

ファンを弔問する「超歌手」

2019年1月26日、大森靖子ファンの「ごっちん」さんの一周忌を偲ぶ、ファン仲間による集まりが東京・中野で開催されていた。大森がそこに現れたのは、会の終盤のこと。大森は、「ごっちん」さんの通夜にも訪れている。

「ごっちんは特別だけど、みんな特別なんです。みんなの人生が好きなんですよ。自分が作った音楽を聴いてもらって『勝手に力をもらっといてくれ』っていうのがうまくできなくて。自分の音楽を聴いて力をもらってくれる人は、やっぱり自分と密接につながってるって思いたい。共感し合いたいとかじゃなくて、音楽で同じ景色を見たいし、人生が重なってる感じを味わいたいんですよね」

シンガー・ソングライターの大森は「超歌手」を自称する。2017年にリリースしたアルバム『kitixxxgaia』が初めてオリコンのベスト10に入ると、本人はライブで「日本で一番売れているメンヘラ」だと言った。厚生労働省主催の「依存症の理解を深めるための普及啓発事業」のイベントにも招かれて歌う。アイドルが出演するフェス「ビバラポップ!」のプレゼンターにして、アイドルグループ「ZOC」のプロデューサーも務めている。

そんな多忙な日々の合間を縫って、大森は一ファンの一周忌へ足を運んだ。

大森はツイッターで約43万人のフォロワーを抱え、ダイレクトメッセージ(DM)機能を開放している。多くのファンが彼女にメッセージを送り、ときには大森からも返信する。そのやり取りの数は膨大で、ツイッター運営側から利用を制限されたこともあるほどだ。

「1日200~300通は来ると思いますね。昔はライブの物販も自分でやってたんで、そこでしゃべれたんですよ。手紙も渡したり。でも、人数的にできなくなっていくじゃないですか。だからそのぶん、DMで報告してもらってるだけですね」

「悲しみの経験値が高い」

大森の姿は、ファンを大切にしているという次元を超えて、それぞれの人生にコミットしようとしているかのようだ。

「逆に、そうじゃないやり方がわかんないんですよ。お客さんが1、2人のときが4~5年は続いてたんです。最初の人数が多くないから、その関係性しかわかんないんですよね」

メッセージを送ってきたファンの何人かは自ら命を絶っている。スマートフォンで生配信しながら「自殺実況」をした女の子もいる。訃報は、亡くなったファンの友達から届く。

「若くして友達を亡くした人たちは、『自分のせい』って本気で思っちゃう子が多いし、『苦しまないといけない』っていう義務感みたいなものがあるんです。だから、『逃げていいし、悲しむのは後回しでいいから』って返信します。連鎖は避けたいっていうのがすごくあるから」

多くのファンからさまざまな痛みを受け取れば、大森自身もまた痛みを抱えるはずだ。

「慣れることは絶対にないんです。『悲しみの経験値が高い』って言うとおかしいかもしれないんですけど、いろんなことを見てきてるし、そこから目をそらすのが嫌いなんです」

加護ちゃんを見て、アイドルは諦めた

大森は愛媛県松山市出身。高校時代の彼女は、ロックバンド・銀杏BOYZの大ファンであり、そのメンバーである峯田和伸が公開していたメールアドレスに、毎日メールを送っていた。峯田にメールを送っていたファンにも亡くなった人がいる。後年、大森に対面した峯田は「生き残れたんですね」と言った。かつての峯田の姿と、現在の大森の姿は重なるものがある。

「峯田さんがしてたからでもないんですけどね。でも、音楽をやるうえでずっと気にしてるのは、絶対に高校生や中学生のときの自分を裏切らないようにすることなんです。そのときの自分がダサいって思うようなことはしないし、そのときの自分のよりどころになれるような活動をしていたいんです」

クラスの上下関係の中に入ることもなく、かばんを装飾したり、髪を染めたりする派手な生徒だった大森。高校卒業後は上京し、武蔵野美術大学に進学した。19歳のころからライブハウスに出演するようになり、ギターの弾き語りで歌いはじめる。好きな相手がいたメロコアのバンドに参加した時期もあるが、自作の歌詞を見せると「重い」と言われた。

「音楽がやりたかったけど、愛媛に住んでたから情報もそんなになくて。一番憧れていたのはアイドルだけど、テレビで同い年の加護ちゃん(加護亜依)を見て諦めたんです。『キラキラしてて、もう成功してて、自分は遅れてる』って。だから自分で道をつくっていくしかないって思ったんです」

2012年ごろになると、大森は声をかけられたライブすべてに出演するようになる。1日に3本のイベントに出演することもあった。彼女をめぐる状況が大きく変わったのは2013年。シンガー・ソングライターながら「TOKYO IDOL FESTIVAL」という日本最大規模のアイドルのフェスに出演し、一気に知名度を上げた。2014年にはシングル「きゅるきゅる」でメジャーデビュー。それまでの弾き語りから、よりポップなサウンドへと大胆に振りきってみせた。

「小室(哲哉)さんとつんく♂さんが大好きで、J-POPのほうが身近だったから。音楽活動を始めたときからもっと売れないとおかしいって思ってたから、『やっとメジャーデビューだ、できることは全部やらないと』って考えて」

2014年に結婚し、その翌年には出産を経験する。ただ出産の前後も、最果タヒとの共著『かけがえのないマグマ』の執筆やライブ活動で、大森はほとんど休んでいない。そのままの勢いで活動を続け、2018年にはZOCの「共犯者」として自らステージに立った。憧れていたアイドルにもなったのだ。

いろんな人を肯定することで自分自身を肯定したい

さらに2019年3月には、元モーニング娘。の道重さゆみをゲストに迎えた「絶対彼女 feat. 道重さゆみ」がリリースされた。大森にとって、道重は最も特別なアイドル。道重に捧げた「ミッドナイト清純異性交遊」という楽曲を制作したこともあるほどだ。

「絶対彼女」は、インディーズ時代の2013年に大森がリリースしたアルバム『絶対少女』の収録曲だ。いま、その楽曲を道重とともに歌った理由は、「自身の欲望にほかならない」と大森は言う。

「道重さんが歌ったら絶対かわいいじゃないですか。この曲は、自分はかわいい服を着ちゃいけないと思って、全身真っ黒な格好で歩いていたような時期に作ったんです。『かわいい』を職業にして、繊細でありつつ努力しながら生きている道重さんが、この曲で『君もかわいく生きててね』っていう歌詞を歌ってくれたら、説得力がすごいだろうなと思ったんです」

その道重が、かつて好きだと言った大森の楽曲がある。2015年にリリースされたシングル「マジックミラー」だ。2018年の「ビバラポップ!」では、大森と道重のコラボで披露している。

あたしのゆめは
君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを
掻き集めて大きな鏡をつくること
君がつくった美しい世界を
みせてあげる

――大森靖子「マジックミラー」

「私はいろんな曲を作って、いろんな人を肯定することによって、自分自身を肯定しようっていう手法で活動しているんです。だから『マジックミラー』は自分の活動理念なんです。道重さんみたいな第一線で活躍しているアイドルの方に共感すると言ってもらえたんですよ。『マジックミラー』は、誰かの孤独のためだけなら自分は光ることができる、でも全方位には光れないよっていう曲なんです。だから、アイドルの方もそういう気持ちなんだってすごく感動しましたね」

不器用だからこそ、新たなカルチャーを創造できる

ただ、「共感」という言葉の使い方に大森は非常に慎重だ。多くのファンが彼女の歌詞に強く「共感」しているだけに、それは意外な側面かもしれない。

「誰かと同じ気持ちになんて絶対になれないじゃないですか。自分の気持ちは自分にしかないのに、共感した瞬間に、自分の一片がちょっと崩れるのは危ないと思うんですよ。気持ちって100個ぐらいの単語で表すものだとしたら、誰かが140字にまとめたものに共感してたら、残りの気持ちはなかったことになっちゃう感じがするんです。『その気持ちになったことあるよ』とか『その気持ちもわかるよ』ならいいんですけど、人間が違うんだから全部一緒って絶対ないじゃないですか」

人間はそれぞれに異なることを指摘しつつも、その他者を大森は肯定する。インタビューでも、2018年の著書『超歌手』でも「肯定」という単語が頻出する。

「自分は自分を大好きなんですけど、世界は自分を好きじゃなくて当たり前っていう感覚があるんです。自分が生きてもいいとはやっぱり思えない。人のことなら『生きづらい性格かもしれないけど、それはあなたの魅力だから消さないでほしいな』って言える。だったら、『私自身もそうだよね』って思いたいのかもしれないですね」

異質とみなした相手に対して、ときに「メンヘラ」呼ばわりし、ときに弱者扱いする社会だからこそ、大森は音楽活動を続ける。生きることが不器用だからこそ、新しいカルチャーを創造できるのだと語気を強める。

「『女性=弱者』みたいに言われたりもするけど、そんなことないですよね。『生きづらい社会がダメなだけで、別に弱者じゃないよね』って思うんです。自分も弱者じゃなくて、ちょっと今の世の中のパターンにフィットしてないだけ。そういう不器用な人こそ、生きるために創造をするんだと思うし、それで生まれてくる新しいカルチャーっていっぱいある。だから、不器用な人の味方でいようと思ってます。面白いものを発明しているのは絶対に『こっち側』だって思ってるんですよ。だから自分が本物だって思ってやってるんです」

大森靖子(おおもり・せいこ)
シンガー・ソングライター/超歌手。1987年9月18日生まれ、愛媛県松山市出身。大学時代からギターの弾き語りで音楽活動を始め、加地等などのミュージシャンと知己を得る。バンド・大森靖子&THEピンクトカレフ(2015年解散)でも活動。直枝政広(カーネーション)がプロデュースした2013年のアルバム『絶対少女』が音楽業界で話題を呼び、2014年にシングル「きゅるきゅる」でメジャーデビュー。楽曲提供、アイドルグループ・ZOCのプロデューサー/共犯者、アイドルフェス「ビバラポップ!」プレゼンター、オーディション「ミスiD」審査員などでも活躍している。

撮影協力:古民家カフェ 蓮月


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