藤原江理奈

「“きれいごと”を言い続けたい」―RADWIMPS、愚直に貫く表現

2018/12/12(水) 8:06 配信

2016年、映画「君の名は。」の主題歌「前前前世」が大ヒットしたRADWIMPS。以前から支持の厚い若い世代に加えて、一気に幅広い層にも浸透した。時代に対して直接反応する曲は時に物議を醸すが、フロントマンの野田洋次郎は「自分が思ってもない何かを歌い始めたら速攻ばれてファンが離れていく」と語る。音楽と表現に対する愚直なまでの姿勢は変わらない。彼らがとらえる「世代」と「時代」とは。(ライター・金子厚武/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

メンバーも驚く“ドープ”な楽曲

RADWIMPSが劇中音楽を手掛けた映画「君の名は。」(新海誠監督、2016年)は、興行収入250億円を突破した。映画と同時に主題歌「前前前世」が大ヒット。RADWIMPSは同年のNHK紅白歌合戦に初出場した。

野田洋次郎(33)は当時の状況をこう振り返る。

「新海さんとLINEをしていて、公開1週目は『僕らの想いが届いたんですね』って喜んでたんです。でも、3〜4週目になると、『もう僕らの手に負える現象ではないのかもしれません』みたいな感じになってました」

映画が社会現象化したことによって、野田は週刊誌に追われもした。ニューアルバム「ANTI ANTI GENERATION」には、そんな実体験を基にした「PAPARAZZI〜*この物語はフィクションです〜」という楽曲がある。

左から武田祐介、野田洋次郎、桑原彰(撮影:藤原江理奈)

〈『君の名は。』の大ヒットが起こるとすかさず出てくるゲスなやつ〉や〈俺はやるべきことをやっている 君は恥ずべきことをやっている〉といった辛辣(しんらつ)な言葉が並ぶ。

メンバーでベースの武田祐介(33)にとっても、驚きは大きかった。

「今年の1月に曲をメールでもらって、『ドープな(ヤバい)のができた』って書いてあったんですけど、聴いてみたら、ホントにドープで(笑)。洋次郎の生の声が突き刺さってきて、すげえなって思いました」

メンバーですら驚く歌詞だったが、アルバムの発売に先駆けてYouTubeに楽曲が公開されると、「かっこいい!」「ドキドキした」などの感想とともに、「やっぱり洋次郎だな」というコメントが数多く届いている。

(撮影:藤原江理奈)

「これはどこかで言っておきたいっていう感覚が2〜3年ずっとあったんです。ホントにノイローゼになりかけたし、でも『それがアーティストの宿命』っていうデフォルトの言葉が世の中にはあって……。ただ、怒りの沸点で曲を書いても、ちゃんと伝わらないと思ったので、一回気持ちを冷まして、追う側(記者)と追われる側の両方の視点を一曲に落とし込めたら、ただの俺のエゴじゃない何かが作れるかなって。正直、どう聴かれるかはわからないけど、作ったからには出すしかないから」

むき出しの音楽がそこにあった

ギターの桑原彰(33)が友人だった野田を誘うかたちでRADWIMPSを結成したのは2001年。桑原は野田の作る楽曲に惚れ込み、バンドで生きていくために高校を中退した。翌年、桑原が勝手に応募した地元・横浜の高校生バンドのイベントに出場し、「もしも」という楽曲でグランプリを獲得。野田の大学受験で一時活動を休止するが、合格後に再開。その後、武田とドラムの山口智史(33)が加わった。

(撮影:藤原江理奈)

EMI Recordsの渡辺雅敏は、彼らとの出会いを次のように語る。

「たまたまタワーレコードの試聴機で(インディーズでリリースされた)『もしも』を聴いたんですけど、汚れもくすみも何もない、むき出しの音楽がそこにあった。僕の周りだけ突風が吹いてるような気がしました。それから『これは大変なことになる』ってずっと言い続けて。『もう他のディレクターが声を掛けてたらどうしよう』って、正直怖かった。『一目ぼれした人がもう結婚してたらどうしよう』みたいな、喜びと恐怖が同時にやってきた感じでした」

渡辺の心配は杞憂に終わり、2005年にシングル「25コ目の染色体」で東芝EMI(当時)からメジャーデビュー。2006年のアルバム「RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜」はオリコンランキング13位を記録した。

一方で、メディア露出は極端に少なかった。派手なプロモーションを展開することは少なく、地上波テレビの音楽番組でパフォーマンスをしたのは「前前前世」を披露した2016年の「ミュージックステーション」が初めて。渡辺が「彼らのことを世に伝える上で、変に大人の手を介在しない方がいいんじゃないかと思っていた」と語るように、作品とライブによる、ファンとの直接的なつながりを何より大切にしてきた。

2018年6月に開催されたツアー「Road to Catharsis Tour 2018」より(Photo:Takeshi Yao)

こんなやり方を続けたらバンドが終わってしまう

野田は、かつての自分たちを「とにかく必死だった」と振り返る。

「不純物のない、僕らだけのエネルギーで制作していこうっていう、かたくなな意志みたいなのがあったかもしれないです。マジでスタジオに引きこもってて、友だちも全然いなくて。ホントにギスギスしてて、あのころがピークだったよね。目の前のことにとにかく必死で……。新作を作るにあたって、10年前と同じ場所で合宿をしたんですけど、当時は煮詰まり過ぎて、ろくすっぽ進まなかった」

作詞・作曲を手掛ける野田とメンバーとの関係も行き詰まっていった。野田は言う。

「スタジオに入らずに廊下でずっとギターを弾いてた。『おしゃかしゃま』のリフとか廊下で作ったりしてて」

それを受けて武田が言う。

「俺ら3人、スタジオの中でどうしようかなって」

アルバム「絶体絶命」が発売された2日後、東日本大震災が発生した。ライブの自粛が叫ばれる中で「絶体延命ツアー」は行われた。ツアータイトルは震災以前に決まっていたものだ。

(撮影:藤原江理奈)

2013年の「×と○と罪と」では、メンバーそれぞれが音楽制作ソフト「プロツールス」を使って楽曲を構築するようになる。

当時を野田はこう振り返る。

「前はアウトプットがバンドだけだったこともあって、メンバーにも相当なハードルを課してやってきた気がする。こんなやり方をずっとやってたら、どこかでバンドが終わっちゃうなって感覚もあって。そこからいろんなアウトプットの場所を持ち始めたんです」

野田は「illion」名義でソロ活動を開始。2014年のツアー期間中の出来事をつづった初のエッセイ本『ラリルレ論』を出版し、映画「トイレのピエタ」で役者にもチャレンジ。バンドとして初めて楽曲を提供した「東京メトロ」のCMにも、野田本人が出演した。

「10年間かたくななまでに閉じてやってきたけど、一つの形態としてやり切った気がした。今度は外部との接触を通じて感じたものから何ができるんだろうと思って、その流れの中で『君の名は。』の劇伴を引き受けたっていうのもありました」

11月、都内のスタジオでラジオ番組の収録に臨む(撮影:藤原江理奈)

しかし、そのまま順風満帆とはいかなかった。2015年9月、ドラマーの山口が持病の神経症悪化により無期限休養に入ることが発表される。野田はこう言う。

「3人になった時点でひとつの覚悟をしなきゃいけなくて。ドラマーを入れなきゃライブができないから」

桑原が言う。

「洋次郎が役者をはじめとしたいろんなことに挑戦してるのを見て、すごく開けてきてるなって思っていたところに、(山口)智史の休養もあって。もう閉じてる場合じゃないなって」

バンドは2人のサポートドラマーを迎えてライブ活動を続けることを決断した。

「君の名は。」での新海監督とのコラボレーションを通じて、野田の作る曲にも変化が生まれた。

「『前前前世』は、あの作品のためじゃなかったら出してない曲なんです。ずっと音楽をやっていると、自分の中で恥ずかしさやかっこよさができあがって、蓋をしてしまう部分がある。(新作に収録されている)『そっけない』とかも、まぎれもなく自分の言葉で、自分の歌なんだけど、違う人が歌ってくれてもいいなっていう感覚がどこかであって。だけど、誰かが『洋次郎が歌ってよ』って言ってくれたら、その人のために歌ってみようと思えるようになった」

2018年6月に開催されたツアー「Road to Catharsis Tour 2018」より(Photo:Takeshi Yao)

「これからは僕らの世代が作っていく側」

ニューアルバムのタイトル「ANTI ANTI GENERATION」には、「アンチ・アンタイ(安泰)・ジェネレーション」という、野田らしい言葉遊びが含まれている。

「僕らの上の世代は、社会に対してアンチテーゼを持って生きてきた世代だと思うんです。でも、今の世代ってそうでもない気がして。じゃあ、何でそうなってるかって、上の世代がアンチテーゼを掲げて、変えられたり、変えられなかったり、いろいろあったと思うけど、そうやって作り上げられてきた世界に対して、『今、そんなに楽しい世界ですか?』って感覚がすごく流れてる気がして。これからは僕らの世代が作っていく側だから、そういう連帯感の中で、『何か面白いことをやっていこうね』とか『新しい仕組みを作っていこうね』っていう、意志表明になったらいいなって思ったんですよね」

収録されている曲のうち、「万歳千唱」と「正解」は、NHKの音楽・ドキュメンタリー番組「18祭」(2018年10月8日放送)から生まれた楽曲だ。「18祭」では、「アーティストが18歳世代から寄せられた想いをもとに新曲を作り、1000人の参加者と一緒に共演する一度きりのステージ」を作り上げる。今年で3回目となるこの番組に、RADWIMPSが参加した。

全国の18歳世代から参加者を募り、動画審査を経て1000人が決まる。楽曲制作や練習期間を経て、収録。全員が集まるのはリハーサル1日、本番1日のたった2日。一発勝負だ。

番組のプロデューサー・大塚信広(43)はこう述懐する。

「最初に『万歳千唱』をもらってたんですけど、途中で『実はもう一曲あるんです』って言われて、『正解』を聴かせてくれたんです」

〈答えがすでにある 問いなんかに用などはない〉〈僕だけの正解をいざ 探しにゆくんだ また逢う日まで〉と歌う「正解」は、子供と大人の狭間で揺らぐ18歳たちの背中を押す曲であり、大塚の言葉を借りれば「寄り添いながら促す」曲でもある。本番では多くの参加者が感極まり、涙を流しながら合唱した。大塚は言う。

「最初、メンバーは『今の18歳に自分たちがホントに刺さってるのかどうかは自信がない』っておっしゃっていたんですけど、18歳から送られてきた審査動画を見て感じたことを、ものすごく上手に曲にしてくれたと思いました」

「18祭」で、1000人の18歳世代と共に歌う(写真提供:NHK)

「正解」のラストは〈次の空欄に当てはまる言葉を 書き入れなさい〉の後に、〈僕は/私は きっと□□□□□□□□□□□□□□□□□□〉と、実際に歌詞カードが空欄になっていて、〈「よーい、はじめ」〉という厳かな号令とともに曲の終わりを迎える。

「18祭」の放送以降、NHKには「『正解』を卒業式で歌いたい」という声が多数寄せられた。その声を受けてRADWIMPSの公式サイトで合唱譜が公開された。

野田は言う。

「何かに対してただ抗えばいいわけじゃない、じゃあ俺はどうしたらいいんだろうっていうのが今の世代な気がする。お父さん世代から見ると冷静に、しらけて見えるかもしれないけど、エネルギーは常にどこかにあるから。18歳の人たちの前であれ(「正解」)を書けたのは、僕自身にとって大きいです」

ラジオ番組の収録の合間。11月、都内のスタジオで(撮影:藤原江理奈)

「きれいごとを言い続けられる自分たちでいたい」

今年の夏、RADWIMPSはバッシングにさらされていた。シングル「カタルシスト」のカップリングに収録された「HINOMARU」が「愛国的だ」とSNSを中心に物議を醸したのだ。ライブの中止を求めて抗議行動が起きたこともあった。

野田は小学生のころ約4年間をアメリカで過ごした。一つの社会に多様な人種、国籍の人たちがいることは当たり前という感覚を持っている。

今年のツアーでは、曲を作った真意や騒動に対する想いを丁寧に、時間をかけて説明した上で、「HINOMARU」が演奏された。

野田はこう振り返る。

「あとから自分が何を言おうが、結局、彼らから見たあの曲と僕という人間は、そう見えちゃった瞬間に、逆側から見ようとはなかなか思えないんだろうなと思います。『どれだけ説明しても伝わらないなら、僕は僕の正義を貫き続けるしかない』という感覚にもなりました」

「ポジティブで平和な物語よりも、負の要素の方が拡散力が強い。SNSによって、叩かれている人を叩くという人間の本質があぶり出されているようにも見えます。誰もが、いつ、なんの理由で攻撃されるか分からない。でも、『あなたが(隣にいる)誰かを信じて好きになった感覚より、その後に分かった一個の情報の方がデカいんですか?』って」

(撮影:藤原江理奈)

野田自身、2年前からTwitterを使っている。ファンとのやりとりを楽しむ一方で、「なるべく誤解を生まないようにという意識はどこかにある」と言う。

「この前、自分のTwitterの下書きの保存歴を見たら、700件くらいあって(笑)。俺SNSでは(うがった見方をされないように)当たり障りのないことしか言ってないんだなって思いましたね。音楽に関してはネジが飛んじゃうこともあって、最終的にどうなるかまで想像し切れてないのかもしれないけど」

ライブでの野田は「大丈夫?」「後ろの方にも声届いてる?」「置いてけぼりになってる人いない?」と常に客席に呼び掛け、ファンも「洋次郎!」と呼び掛ける。その関係性はフラットで、距離が近い。

渡辺は野田の人間性について、次のように語る。

「すごくピュアですよね。まっすぐな人で、常にみんなで高みを目指そうとしてるっていうか、『まだ行けるだろ』って、ずっと言われてる気がするんですよ。スタッフだけじゃなく、ファンに対してもそうだと思います」

野田はネガティブな側面も含めた自らの感情を、エゴとしてではなく、あくまで作品に昇華し、それを直接ファンに届けてきた。「PAPARAZZI〜*この物語はフィクションです〜」に対する、「やっぱり洋次郎だな」というコメントは、長年の活動で積み上げてきた信頼と親近感の証しである。

2018年6月に開催されたツアー「Road to Catharsis Tour 2018」より(Photo:Takeshi Yao)

それはメンバー同士の関係にも言える。「四角形が三角形になった」(野田)が、武田は「距離は近くなった」と言う。

「バンドの中にいるけど、(洋次郎が書く)歌詞に励まされることがたくさんある。曲を聴いたときにこれすごいなと思ったら、メールでも洋次郎に伝えます。昔は伝えてなかったけど」

それを聞いた野田が「さびしかった」と笑う。

桑原はアルバム制作の過程をこう振り返る。

「(洋次郎から)曲がきたら、アレンジを考える。お互いに課題をやって、交換して、続きがきて、それをまた肉付けして……一緒に音楽を作っている感じがすごくある」

最後に、野田は言った。

「人から笑われるくらい、ちゃんと音楽を突き詰めてやり続けたいし、きれいごとを言い続けられる自分たちでいたいなって。『時代がこうだから』とか『会社がこうだから』じゃなくて、『音楽ってこんなに楽しいよ』とか『言いたいこと言えばいいじゃん』って言い続けたい。万が一、俺が思ってもない何かを歌い始めたら、きっと速攻ばれて、ファンの人も離れていく気がする。そうじゃなくて、『思ったことをやってない音楽なんて何の価値もないじゃん』って、これからも言い続けたい」

(撮影:藤原江理奈)

RADWIMPS(ラッドウィンプス)
野田洋次郎(Vo&G)、桑原彰(G&Cho)、武田祐介(B&Cho)、山口智史(Dr&Cho)。2001年結成。2005年にシングル「25コ目の染色体」でメジャーデビュー。以降、「ふたりごと」「有心論」「DADA」「狭心症」などのヒットを放つ。「アルトコロニーの定理」(2009年)、「絶体絶命」(2011年)、「×と○と罪と」(2013年)とアルバムを発表。2015年山口の病気による無期限休養が発表される。2016年には映画のサントラでもあるアルバム「君の名は。」と、アルバム「人間開花」をリリース。2018年シングル「カタルシスト」リリース。12月12日、最新アルバム「ANTI ANTI GENERATION」をリリース。


金子厚武(かねこ・あつたけ)
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタビューやライティングを手がける。


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