伊藤菜々子

普通の大学生だった2人が「年42億円を稼ぐ」まで――グラミー受賞、米デュオの成功

7/28(土) 9:00 配信

世界的セレブの28歳と33歳だ。DJデュオ「ザ・チェインスモーカーズ」は、2012年、ドリュー・タガートとアレックス・ポールによって結成された。世界的なEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)ムーブメントに乗ってトップアーティストへと駆け上がり、2017年には米経済誌Forbesの「世界で最も稼ぐDJ」第3位にランキングされた。彼らはいかにして成功したのか。来日した2人に聞いた。
(音楽ジャーナリスト・宇野維正/Yahoo!ニュース 特集編集部)

DJとバンドのハイブリッド

今年6月。初の大規模ジャパンツアーの初日、大勢のファンが会場の幕張メッセへと向かう。オープニングDJが巨大なフロアを温める。20時。ドリューとアレックスが登場し音を鳴らした瞬間、大歓声が上がり、派手な照明が煽るようにフラッシュする。そのまま終演まで90分間、会場のボルテージは下がることはなかった。

――2016年のサマソニ、昨年のULTRA JAPANに続く来日、しかも単独公演でした。

アレックス 日本での初ライブは数百人キャパの小さなクラブ・バーだった。今では単独公演で(東京、大阪合わせて)3万人を動員している。僕らは日本のカルチャーやストリート・ファッションが大好きだから、その国でこうして受け入れられているのは本当にうれしいよ。日本には英語が話せない人も多いって聞くけど、僕らが使うコード進行やメロディーがファンに響いている証拠だと思う。

2018年6月、幕張メッセでの公演(撮影:Masanori Naruse)

あと、今回これだけオーディエンスを動員することができたのは、やっぱりコールドプレイとコラボしたことが大きかったんじゃないかな。日本でもコールドプレイは大人気でしょ?(笑)

結成からの6年間で彼らが打ち立てた記録はいくつもある。英ロックバンド・コールドプレイとコラボした曲「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」もその一つ。リリックビデオがYouTubeで公開されると、24時間で900万回再生され、それまでのYouTubeの記録を塗り替えた。

ダンス・ミュージックから登場したザ・チェインスモーカーズは、その枠を飛び越えて音楽活動を展開している。今回の来日公演ではドラマーが参加。DJセットとバンド演奏が交互に繰り返され、時に入り交じる。力強いドラムソロもあるし、ドリューはボーカルとしてバンドのフロントマン的なパフォーマンスもする。

――あなたたちのことをDJユニットと呼ぶべきなのか、EDMアクトと呼ぶべきなのか、あるいはバンドと呼ぶべきなのか。あなたたち自身は自分たちの活動形態をどのように定義しているのですか。

アレックス もともとチェインスモーカーズを結成した時は、2人ともダンス・ミュージックのシーン、カルチャーにすっかりハマっていたから、チェインスモーカーズ のルーツがダンス・ミュージックにあることは間違いないよ。ただ、2人とも出会うまではインディーズ系のロックバンド、グランジ、メタル、ヒップホップを聴いて育ってきた。だからこうしてバンド形態でライブをするようになるのは僕らにとってとても自然なことなんだ。

アレックス・ポール/1985年、米ニューヨーク州ウェストチェスター郡出身(撮影:伊藤菜々子)

――日本ではロックバンドに根強い人気があって、一方で、ダンス・ミュージックの人気も高まっています。ただ、両者のオーディエンスは現状かなり分断されているんですよね。

アレックス 確かに、2年前にサマーソニックに出た時は、僕ら以外のヘッドライナーが各ステージほとんどロックバンドでびっくりしたよ(笑)。でも、ずっと同じことばかりやっていてもつまらないからね。今回、自分たちの新たなライブのかたちをファンに見てもらえたのはすごくエキサイティングだった。

ドリュー 今では僕らの楽曲はオールジャンルのミックスであるかもしれないけど、ダンス・ミュージック出身の僕らにはやはりダンス系のファンが多い。そういう意味で僕らは今後もずっとダンスのルーツは大切にしていくよ。

でもチェインスモーカーズのライブを見たことがある人であれば、ハイブリッドなライブなんだってことは分かっている。バンドとDJの要素が半々。だけどダンス・ミュージック時代から僕らを知っていれば今でも僕らのライブにはダンス・ミュージックにしかないエネルギーが込められているのが分かるはず。

ドリュー・タガート/1989年、米メーン州フリーポート出身(撮影:伊藤菜々子)

成功の鍵は「運」と「ハードワーク」

アレックスは大学を卒業後、昼はマンハッタンのアートギャラリーで働き、夜はクラブでDJをする日々を過ごしていた。ドリューは大学に通いながら音楽業界でインターンとして働いていた。ドリューが大学を卒業する頃、共通の知人を介して2人は出会う。それがサクセスストーリーの始まりだった。

2014年にリリースしたシングル「セルフィー」がヒットすると、続く「ローゼズ」が全米ビルボードチャート6位、「ドント・レット・ミー・ダウン」が同3位、「クローサー」が同1位と、瞬く間にヒットチャートを駆け上がる。

2017年の米経済誌「Forbes」による「世界で最も稼ぐDJランキング」では第3位にランクされた。その額3800万ドル(約42億円)と推計されている。

2017年、EDMの一大フェス、ULTRA JAPANに出演(写真:ULTRA JAPAN 2016)

――あなたたちはものすごく強く成功を望んできたから今このポジションにいるのか、それとも偶然の積み重ねでこのポジションにいるのか、自分たち自身ではどちらだと思いますか。

アレックス 成功を強く望んだこと。ラッキーだったこと。たぶんそのどちらもある。これは僕らに限ったことじゃないけれど、常に準備万端でいないと、運やタイミングをつかみ取ることはできないんだ。成功というのはその組み合わせでしかないと思う。僕たちは同じ野望を持ち、仕事に一生懸命に打ち込み、音楽への情熱を忘れていない。でも、ものすごい情熱を持って最大限の努力をしているのに、まだ成功をつかんでいない友だちもいる。

ドリュー 僕らは出会ったその次の日から一緒に曲作りを始めた。それ以来、毎日、一日じゅう一緒に音楽を作っていて、ファンに求められれば世界中のどこにだって行く。もう地球を15周するぐらい回っているんだ。去年は187回のライブをやった。その間に、自分たちで書き、演奏して、プロデュースした楽曲を必ず月に1曲はリリースするようにしている。どの工程も僕らにとってすごく重要で、それを7年間やり続けている。

2016年、サマーソニックに出演(撮影:Masanori Naruse)

アレックスが言ったように、僕らはチャンスをモノにできるように常に準備をしてきたんだ。もちろんラッキーだったということも間違いないけれど、僕らにとって最もラッキーだったことは、こんなにも仕事熱心な2人がたまたま出会えたことだ。

これまで僕は、才能に溢れているのに仕事漬けになることを拒否するミュージシャンやDJをたくさん見てきた。だけど、世の中には才能のある人間なんて実はごまんといるんだ。僕らが誰よりも才能があるなんて全く思ってない。でも、誰よりも一生懸命この仕事をやってるという実感がある。最終的にはそれがモノをいうんだ。

今年6月のジャパンツアー、幕張メッセでの公演。ジャパンツアーを終えるとすぐ韓国へ。その後いったんアメリカに帰ってから再び中国へというハードスケジュール(撮影:Masanori Naruse)

急な成功は、はじめから2人の心身にフィットしたわけではなかった。2017年4月にアメリカで行われたファン向けのイベントに登壇した時、ドリューはこんなことを話している。

「僕たちはEDMシーンから登場して、『クローサー』という曲があらゆることを変えてしまった。『クローサー』はザ・チェインスモーカーズの名前を広めてくれたけど、そうしたら突然誰もが僕たちについて意見を言うようになった。僕たちがどこから来たのかを知らない人までもね」

「ダンス・ミュージックシーンは基本的にパーティーシーンなわけだけど、毎日パーティーをしている一方で、みんながそれを批判してくるという状況はなかなかきつかった」。理解されないことへのフラストレーション、アルコールとの葛藤、自分は何者なのかという問い。自分たちのリアルを曲にした。「それによって、旅や一見楽しそうなパーティーの明け暮れに感じる悲しみを見つめることになる。それは時に孤独でもあるんだ」

(撮影:伊藤菜々子)

数字だけではファンの思いは測れない

彼らのインスタグラムにはライブ映像やMVのほか、日常の何げない写真がアップされている。海に飛び込んだり、サッカーボールを蹴ったり、ただ笑い合っていたり。ファンに問い掛けることもある。「僕らに誰とコラボしてほしい?」。ファンからすかさず返信がある。「ジャスティン・ビーバー」「アリアナ・グランデ」「もちろんBTS(防弾少年団)!」。

日本ツアーの際も、東京での様子をアップした。自分たちがどこにいて、何を楽しんでいるかを逐一SNSで報告する。ファンは彼らの旅を共有する。

――SNSとの付き合い方で何か心がけていることはありますか? 例えば「こういうことはツイートしないようにしている」みたいな。

ドリュー いや、むしろ消しておいた方がいいツイートをたくさんしている気がするよ(笑)。でも、それって変な話だよね。実はそのことについてこのあいだホールジー(「クローサー」にも参加しているアメリカの人気女性シンガー・ソングライター)と話したばかりなんだ。彼女は14歳の頃にツイッターを始めたらしい。ホールジーは今23歳だけど、23歳の女性と14歳の女の子が同じ考えなわけがないよね(笑)。僕も気付いた時に昔の投稿を消したことがあったけど、それは誰かを不快にさせる内容だったからではなく、単純にあまりにもバカバカしい内容だったから。

(撮影:伊藤菜々子)

どんな人間だって、10代の頃は世間知らずで幼稚な部分はある。過去にSNSでした投稿はいつまでも残るという意識は持つべきなんだろうけど、いったいどこまで責任を取らなきゃいけないのかとは思うよ。人間は誰でも判断ミスでバカな失敗をする。世の中のムードに合わない発言をしたり、もしくはその時は大丈夫でも将来的に問題になりそうな発言をしちゃったりすることもある。少なくとも過去のことに関しては、世間も少しだけ大目に見てあげるべきじゃないかな。

――過去のツイートではなく、(トランプ大統領を支持するツイートを投稿して)リアルタイムで大炎上したカニエ・ウェストみたいな人もいますけど。

ドリュー でも、音楽がすべてを物語っていただろ? カニエはすごい作品を今も作ってる。

――カニエの場合はSNSが足を引っ張ってしまったとも言えるわけで、SNSから離れるというのも、これからのアーティストが考えるべきことなのかもしれません。

アレックス エド・シーランは1年ほどSNS離れをしていて、そこから復帰しての1年はどんなアーティストよりも活躍した1年になった。でも、1年間何も発信しなくても人々から忘れられないのはエド・シーランだけかもしれないよ(笑)。カルヴィン・ハリスみたいに、自分の家の庭の写真の投稿ばかりしてる人もいるしね(笑)。一つだけ言えるのは、SNSというツールは使うもので、それに使われるようになっちゃいけないということ。あとは自分たちで判断するしかない。

(撮影:伊藤菜々子)

――あなたたちは日本に来てからさっそく、2人で仲良く観光をしている写真をインスタグラムにアップしていましたね。何年もずっと一緒に世界を回っていて、これだけ大きな成功を収めても仲がいい2人組というのはなかなか珍しいと思うのですが(笑)。

アレックス あの写真は、まずドリューが神社に行って写真を撮り、僕はその30分後に行ったんだ。

ドリュー そうそう。それで、あとからフォトショップで合成したんだ。

――(笑)。

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――ところで、SpotifyやApple Musicといったストリーミング・サービスでは各国の再生回数を把握することができるので、その数字を参考にワールドツアーの計画やリリース戦略が立てられるという話を耳にするのですが。

ドリュー 今は誰もが再生回数を気にする時代ではあるけれど、それによって自分たちの活動の方向性を決めたりはしないよ。数字だけでは曲に対するファンの思いは測れないからね。実際に、比較的再生回数が少なくても世界中でライブを成功させているバンドもいる。

きっと、そういうバンドはファンにとって意味のある音楽をやっているから、大きな規模のライブもできるんだと思う。どこの国で自分たちの曲が受けているかは、僕らだけじゃなくてみんな熱心にチェックはしてるだろうけど、僕らはその数字を元に今後の計画やツアーのスケジュールを決めたりはしてないよ。

日本メディア向けの告知動画の収録。日本語の発音が難しくて頭を抱えるドリュー(撮影:伊藤菜々子)

――ただ、ストリーミング・サービスによってシングルやアルバムというフォーマットの概念、リリースのスピード感が大きく変化したのは事実ですよね。

アレックス 僕はCDでアルバムを聴いて育ったギリギリ最後の世代だ。アルバムには統一感があり、それはアーティストの人生の一部を物語ってもいた。だけど、アルバムで育ってきた僕ですら、今では一枚のアルバムを通しで聴くことはほとんどない。

一つのアーティストの曲を数曲聴いてると、次に聴きたい別のアーティストの曲が自然と頭に浮かんできて、実際にその曲にチェンジすることが本当に簡単にできてしまう。僕らはDJとして使うから音源をダウンロードで購入もしてるけど、今やほとんどの人は聴きたい曲をYouTubeやSpotifyで検索して、そこで再生するだけで満足している。

2018年、幕張メッセでの公演(撮影:Masanori Naruse)

(Spotifyなどのストリーミングサービスで)リリースされるシングルの数は、去年は1週間に数千曲だったのが、今では数万曲と爆発的に増えている。つまり、世界はストリーミング・サービスによっていつでもどこでも音楽にすぐ手が届くようになったと同時に、誰の手も届かないほど大きくもなったわけだ。

――今年チェインスモーカーズは4カ月連続で新曲をリリースしていて、それはやがてアルバムへと発展していくとも聞いてます。

ドリュー アルバムは「シック・ボーイ」というタイトルで、今後リリースする作品もそこに足していく。このアルバムは、僕らのある一定のクリエイティブ期間を表す作品になるはずだ。

(撮影:伊藤菜々子)

【文中と同じ動画】


宇野維正(うの・これまさ)
1970年、東京都生まれ。上智大学文学部フランス文学科卒。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集部を経て、現在はフリーの音楽・映画ジャーナリストとして活動。映画サイト「リアルサウンド映画部」アドバイザー。「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「Rolling Stone Japan」などでコラムや対談を連載中。著書に『1998年の宇多田ヒカル』『小沢健二の帰還』、『くるりのこと』(くるりとの共著)。


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