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トイレの蓋は閉めて流す? 最新の研究でようやく結論か

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

新型コロナに限らず、多くのウイルスは便からも排出されます。コロナ禍で話題になった「トイレの蓋(ふた)」問題ですが、「水洗前に蓋を閉めたほうがエアロゾルの飛散が少なくなる」が一定の市民権を得ています。しかし、最新の研究は少し違った答えを出してきました。

トイレの蓋の役割は?

トイレを水洗すると、エアロゾルが空間に舞い上がることはテレビのCMなどでもおなじみの光景です。それが壁や床に付着することで、室内が汚染されます。そのため、トイレの蓋を閉めてから水洗するというのが最近のマナーのようです。

しかしながら、トイレの蓋の役割は、便器の中へモノが落ちないようにすること、温水洗浄便座や暖房便座などの断熱性を高めること、便器のデザイン性を高めることとされており、エアロゾルの飛散を予防する目的で作られているわけではありません。

ですが、ノロウイルスなどの便から感染するウイルスだけでなく、新型コロナなどの呼吸器系ウイルスも便に含まれていることが懸念されています。水洗の際、これらのウイルスによる汚染を蓋内部に封じ込めてしまおうというロジックです。

果たしてこの戦略はどのくらい有効なのでしょう。たとえば、水洗によって便座から25センチメートル~1.5メートルの高さまで粒子が舞い上がることが示されており(1、2)(図1)、トイレの蓋を閉めることには意義があるという見解も理解できます。

図1.水洗時のエアロゾル(参考資料2より引用し英語部分を日本語に加工)
図1.水洗時のエアロゾル(参考資料2より引用し英語部分を日本語に加工)

今回、ヒトの腸内ウイルスの代用物質であるバクテリオファージをトイレの便器に添加し、水洗によって床や壁などの表面が汚染されるかどうかを検証した画期的な研究がアメリカから報告されました(3)。

蓋を閉めても汚染される

水洗後のサンプルとして、便器の水、便座の蓋、便座の表面、トイレ周辺の床、トイレの壁面から検体が採取されました(図2)。

図2.汚染が検証された部位(参考資料3より引用し英語部分を日本語に加工)
図2.汚染が検証された部位(参考資料3より引用し英語部分を日本語に加工)

まず、当然ながら、蓋を閉めようと開けようと、便座表面が強く汚染されることが分かりました。これは当然といえば当然です。ですから、トイレを使う場合、私たちがもっとも注意すべきは便座表面の汚染と言えます。

それ以外のトイレ内の表面を調べたところ、蓋を閉めていても、蓋を開けた状態と比べて汚染が軽減されていないことが明らかになりました。

蓋を閉めた状態だと、どうやら横から噴射されるエアロゾルが多くなるようです(図3)。これは盲点です。つまり、水洗前にトイレの蓋を閉めても、トイレ内の汚染を減少させるにはいたらないということです。ただ、これはアメリカで一般的に使われているトイレの蓋での検討であり、最新式のトイレだとまた違った結果になるかもしれません。

図3.水洗時のエアロゾルのモデル(参考資料3より引用し英語部分を日本語に加工)
図3.水洗時のエアロゾルのモデル(参考資料3より引用し英語部分を日本語に加工)

まとめ

結論として、水洗前にトイレの蓋を閉めたとしても、トイレ内の床や壁の汚染が軽減されないことが分かりました。

結局、水洗前に蓋を閉めたほうがよいかという問題の答えは、謎のままです。どちらにしても汚染されるなら、見た目や断熱性などの機能面を重視して閉めておけばよいかもしれません。

トイレにおける感染リスクを最小限にするなら、便座や床を消毒・清掃することに尽きます。不特定多数の人が使うトイレの場合、これらを定期的に行うことが重要です。

また、個々ができる対策として、トイレの蓋や便座に触れた後は必ず手を洗うよう心がけましょう。

(参考資料)

(1) 木村彩芳, 他. 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集. 第1巻. A-27. 2021.(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2021.1/0/2021.1_105/_pdf

(2) Crimaldi JP, et al. Sci Rep. 2022; 12(1): 20493.(URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-24686-5
(3) Goforth MP, et al. Am J Infect Control. 2024; 52(2): 141-146.(URL:https://www.ajicjournal.org/article/S0196-6553(23)00820-9/fulltext

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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