2014年ツール・ド・フランス第15ステージ ツールというのはひどく残酷なものでして
主役の名は、ジャック・バウワー。
スタートとほぼ同時にアタックを仕掛け、222km逃げ続けた挙句に、フィニッシュラインまで25mのところで集団に呑み込まれた。勇ましく走った選手に贈られる敢闘賞は、逃げの友マルティン・エルミガーの手に渡った。
レースを見守ったファンたちは、その奮闘に感激し、がっくり肩を落とす姿に胸を熱くした。多くのメディアが興奮したようにギリギリの敗北を報道し、フォトグラファーやテレビカメラマンたちは敗者の涙をファインダーにおさめようと必死になった。
だけど、こんな熱狂も、数日もすれば忘れられてしまうのだろう。記録に残るのは、常に勝者の名前であり、記憶に残るのは、ただ総合争いを左右する戦いだけなのだ。
それでもバウワーは名言を残した。
「ツールは残酷だ。でも、それこそが、自転車レースの醍醐味のすべてなんだ」
もっとも、数々の名言に埋もれて、いつか、誰が言ったセリフなのかさえ、分からなくなってしまうのかもしれない。
ツール・ド・フランスというものは、本当に、残酷だ。