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なぜあの人は「仕事がデキる」のか。ハイパフォーマーに共通する3つの特徴

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
仕事ができる人に共通点はあるのか(写真:maroke/イメージマート)

■人事コンサルティングの最初の仕事は「ハイパフォーマーの分析」

私が経営している人事コンサルティング会社、株式会社人材研究所はこれまで20余名の仲間たちと数百社にわたる企業の人事のサポートをしてきました。テーマは採用や人事制度設計、マネジメント力強化などさまざまなのですが、ほとんどの場合で最初に行うことがあります。

それは「その会社や仕事のハイパフォーマーがどんな人なのか」を分析するということです。それをもとに採用基準や評価基準、育成目標などが決まってくるからです。

もちろん会社ごとに異なるのですが、それでも業界や職種を超えて共通する特徴もあります。本稿ではその中から最頻出の3つの特徴について述べさせていただきます。

1. 自己認知〜ハイパフォーマーは謙虚〜

1つ目の特徴は、「自分のことがよくわかっている」、すなわち自己認知の高さです。

まれに無意識過剰系の天然タイプというか天才タイプのハイパフォーマーもいますが、それは少数派です。自己認知はさまざまな能力のベースになる根本的なものです。

例えば、自分の強みや弱みがわかっていなければ、伸ばすべきところがわからないため、学習能力や成長力が低下するでしょう。また、自己認知が低ければ自分のポジショニングも外してしまうために、チームプレイも苦手になります。

他にも、好き嫌いなどの自分の思考のバイアスについての自己認知が低ければ、現実を歪めて認識してしまい感受性も低くなってしまいます。

特に、自分の能力レベルについての自己認知は極めて重要です。ダニング=クルーガー効果という悲しい心理バイアスがあるのですが、それによると能力が高い人ほど自己評価が低く、能力が低い人ほど自己評価が高いと言われています。

どうしてそうなるのかは諸説ありますが、「自分の能力や業績を過大評価する人は、評価する基準である『当たり前水準』が低い」のではないかというのが私の仮説です。

同じだけ努力しても『当たり前水準』が低い人は「自分はとても頑張った」と感じ、『当たり前水準』が高い人は「自分はまだまだだ」と感じるわけです。後者がハイパフォーマーになるのは当然ではないでしょうか。

2. 意味づけ力〜変革力との関係には注意〜

次の特徴は、「どんな仕事でも楽しめる」という意味づけ力の高さです。

ふつうの人であれば「つまらない」と感じてしまうようなことでさえ、自分なりに意味づけを行って、セルフモチベートするために、結果としてどんな仕事であっても楽しめるということです。楽しみながらやる仕事と、つまらないと思いながらやる仕事の成果の違いは言わずもがなです。

よく引用される有名なイソップ童話「3人のレンガ職人」でも、同じレンガ積みを「ただ、レンガを積んでいる」「壁を作っている」「大聖堂を建てている」と別々に意味づけていましたが、最後の人が最もハイパフォーマーであるというわけです。

ただし、少しだけ注意が必要なポイントがあります。それは、意味づけ力が高い人は、今自分がやっていることを根本から変えてしまう「変革力」が低い場合があるということです。

何か問題が発生した場合、本来なら根本療法で変革しなければならないのにもかかわらず、自分のできる範囲の対症療法だけにフォーカスしてしまう可能性があるからです。「どんな仕事でも楽しめる」=「どんな仕事も今のままでよしとする」ではいけません。

また、「仕事に不満を言う」=「ローパフォーマー」とは限りません。彼らはもしかすると変革者かもしれないからです。このあたりの見極めは大変難しいので注意が必要です。

3. ベーシック・トラスト〜根拠がないものは崩すことができない〜

最後の特徴は、「世界に対する基本的な信頼感」、ベーシック・トラストです。ベーシックというのは個別具体的なものに対する信頼ではなく、「人は信じるに足るべきものである」「努力は必ずいつかは報われる」「未来は明るい」等々、世の中全体、世界に対する信頼という意味で使われています。

アイデンティティの概念を提唱したエリクソンのライフサイクル理論において幼年期に獲得すべき発達課題ともされています。

ポジティブ思考や楽観性などとも近い概念かもしれません。ベーシック・トラストがあると、それが努力や挑戦、人間関係構築など、パフォーマンスを高めるのに好ましい行動につながるというわけです。

しかも、このベーシック・トラストはある意味「根拠のない自信」ですので、並大抵のことでは崩すことはできません。

「自分は○○大学卒だから」などの「根拠のある自信」=「自尊心」は、隣にハーバード大学の方が来るとシュンとなるなど、すぐ崩れてしまいますが、ベーシック・トラストは大変なことがあっても「なんとかなるさ」と思えるということなので崩れません。

つまり、ストレス耐性もかなり高いということになります。ただ、「信じすぎる」ことはリスクを負いすぎることにもつながりますので、リスクヘッジをするような慎重さが必要な仕事には向いていない可能性もあります。

■これらは採用時に確かめるべきもの

さて、これら3つの特徴が入社後に育成可能かというと、知識やスキルというよりは、すべて考え方やスタンスという根本的なものなので、率直に申し上げると難しいのではないかと思います(もちろん個人差はあるでしょう)。

ですから、例えばですが、「自分の特徴をどう認識していますか」(自己認知)、「その仕事から学んだことは何ですか/どんなことが楽しかったですか」(意味づけ力)、「自分は運がいいと思いますか/恵まれた環境にいたと思いますか」(ベーシック・トラスト)など、質問してみてはいかがでしょうか。

採用時に選考基準としておくのがよいのではないかと思います。

BUSINESS INSIDERより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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