中山秀征、今こそ響くやしきたかじんさんの言葉
司会、芝居、バラエティーと幅広く活動する中山秀征さん(51)。9月9日にはコンサート「ヒデライブ2018ミュージックパラダイス」(東京・恵比寿ザ・ガーデンルーム)も開催します。いろいろな顔を持つ中山さんですが、常に根底にあるのが2014年に亡くなったやしきたかじんさんの教えだと言います。「最近、誰よりもタレントが聖人君子であることを求められている。そんな中、本音で、本気で、生きていたたかじんさんの思い出がより輝いて見えるんです」と今だからこそ沸き上がる思いを語りました。
スッと入っていけた
20代前半の頃はよく関西でお仕事をさせてもらってまして。上岡龍太郎さん、桂文枝(当時は桂三枝)さん、島田紳助さん、そうそうたる方々に呼んでいただいて。皆さんに、本当にお世話になったんですけど、中でもひと際、お仕事をさせてもらうだけで周りがざわつくというか(笑)、そのトーンが強かったのがやしきたかじんさんだったんです。
なんというのかな、関東の人が一番恐れていたというか、別世界というか。今よりも、東京と大阪の間に隔たりみたいなものがあった時代でもありましたし、より、たかじんさんのイメージが膨らんでいたのかもしれません。だけど、僕は最初からスッと入っていけたんです。
というのも、これは全くの偶然なんですけど、オレの昔からの親友がレコード会社のディレクターでたかじんさんの担当だったんです。なので、一方的にたかじんさんの話はよく聞いていて、それこそ勝手な話なんですけど、他人とは思えないというか(笑)。そんな流れがあったんで、変な気負いがなく近づいていけたし、そうやってすんなり近寄ってくるオレを面白いと思ってくださったのか、本当にかわいがってもらいました。
大阪名物の“阪神百貨店のイカ焼き”を初めて食べさせてもらったのもたかじんさんでした。たかじんさんのラジオに出してもらった時にいただいたんですけど、確かにすごくおいしいんです。なので「うまいですねぇ!」と食べてたら、本番直前まで食わされて喉詰まりそうになりながらラジオが始まるという(笑)。
「ヒデのどこがアカンねん!」
たくさん目をかけてもらいましたけど、特に忘れられない話がありまして…。当時は今みたいに大阪の番組で話したことが瞬時にネットで広がるという時代ではなかった。なので、東京まで伝わってくるにしても、日にちが経ってから人づてにじんわりと話が入ってくるという時代でした。そんな中、たかじんさんがオレ絡みのことでものすごく怒ったという話が聞こえてきたんです。
というのは、たかじんさんの番組で“嫌いな司会者”というテーマが出て、あるタレントさんがオレの名前を挙げたんです。ただ、ノリというか、大物司会者の名前はなかなか挙げられないけど、ま、中山秀征くらいだったらシャレでいけるだろうという考えから、その方も名前を出したみたいなんですけど、それに対して、たかじんさんがブチ切れたと。「ヒデのどこがアカンねん!お前、中山秀征の何が分かっとんねん!」と。
当時、オレのことをバッシングというか、あまりよく言わないコラムニストの人もいて、週刊誌にそんな記事が掲載されたりもしていた。たかじんさんは本当にたくさん情報を頭にお入れになっていたので、そんな背景もあって、守ってくださったんだろうなと。それを人づてで聞いたからこそ、驚きもしましたし、そんな風にオレのことを思ってくださっていたんだということがうれしかったです。
テレビを知り尽くす
読売テレビ「たかじんnoばぁ~」(92年~96年)終わりとかで、飲みにも連れて行ってもらいましたけど、飲んだ後、たかじんさんの家に泊めてくれるんです。家まではたかじんさんの送迎車にオレも乗せてもらうんですけど、車内にテレビがドンと置いてある。約30年前、当時、車専用のテレビがまだそんなになくて、わざわざ台を作ってまで普通のテレビを設置して車内で見られるようにしてあるんです。家に着いても、リビングにテレビが6~7台あって、全局が同時に映っている。「これだけ全部映っていたら、逆にどれも分からないんじゃないですか」と言ったら「つけてたら、テレビの今の流れが分かんねん」と。
それを聞いて、ハッとしました。たかじんさんはテレビの中で、ある種、無茶をするんだけど、テレビを知り尽くして、研究し尽くしているんだと。リングの大きさを知り尽くした上で、ロープの硬さも分かった上で、大暴れしてるんだと。ロープ際ギリギリの攻防もやるし、リングアウトギリギリの19秒でリングに戻ってきたりもする。それはルールを知り尽くした上、調べつくした上でのことなんだと。エンターテイナーとしての根っこは、この勉強量なんだと。
だから、嫌いな司会者としてオレの名前を挙げた人に怒ったのも、ありがたい話、僕に対しての思いもあったかもしれませんけど、人のことを「嫌い」と言おうと思ったら、どれだけその人のことをきちんと見ないといけないか。その信念もあって、ノリというか、軽いトーンでオレの名前を出した人への「それは違うやろ」があったんだろうなとも感じました。
味の素事件
ルールの中でプロレスをやる一方、いざとなったら、ガチンコの覚悟があるというか、やる時はやる。その姿勢も見せてもらいました。
テレビ朝日系「M10」(92年~93年)という月曜から金曜の深夜生番組がありまして、金曜がたかじんさんの日だったんです。そして、ゲストとしてオレが呼んでもらった日にアレが起こったんです。ま、よく知られてもいる“味の素事件”なんですけど、たかじんさんが番組内で料理を作るコーナーがあって、たかじんさんはすごく几帳面でレシピも細かく書いてスタッフさんに渡すんです。そんな中、料理の要となるはずの味の素がないと。フロアディレクターに聞いてもすぐに答えが返ってこなかった。そこで「味の素、どこにあんねん!」とスタッフともめて、そのままスタジオから出て行ってしまったんです。
作るはずの主がいなくなって、材料だけがあるわけですよ。残ったオレと大竹まことさんがレシピを見て料理を作って番組は終わったんですけど(笑)、すごい展開ですよね。さらにすごいというか筋が通っているのは、たかじんさん、その週で番組を降りたんです。普通は「辞めるぞ!」があっても、それはポーズというか、辞めたらその分の収入もなくなるわけだし、多くの場合は辞めない。でも、あの人は辞めるんです。違うと思ったら。
常にその覚悟があるからこそ、番組内でも“駆け抜け方”が違う。スピードが違う。これは、言葉として直接言われたわけじゃないけど、オレは見せられたと思っています。「ヒデ、これくらい覚悟を決めて真剣にやれよ」と。真剣にやるということは、時にこういうことも起きる。利害とかお金でやっていると、そこに負けてしまう。そもそも、イヤなことをやるためにこの世界に入ったんじゃないだろうと。
タレントが聖人君子でないといけない世の中
それとね、最近特に強く思うんです。「本気で、本音で生きていたたかじんさんが今いらっしゃったら、どうなるんだろうな」と。というのは、タレントがサラリーマン化しているというか、もちろん、ちゃんとしなきゃいけないんですよ。ただ、タレントが最も聖人君子でないといけなくなっている。タレントが見本にならなきゃいけなくなっている。今はそんな世の中です。
でも、本来、実はそうじゃない。タレントは、歌がうまいだけ。芝居がうまいだけ。お笑いができるだけ。そもそも偏った人がやっていた。ところが今や、ちゃんとした人でなくてはならない。もしくは、ちゃんとした人のフリをしなくちゃならない。本当の、本当の話。もしかしたら、もう本当にちゃんとした人がタレントになっている時代でもあるのかもしれない。現実的にも「宵越しの金は持たねぇ!」みたいなタレントさんはどんどん少なくなっていますし。
そんな流れを感じるにつれ、より一層、たかじんさんの言葉とか思い出が輝いて見えるんです。テレビで言いたいことを言う。ただ、その裏には圧倒的な勉強量もある。武器を研いで、研いで、自分がやりたい戦いをやりに行く。今、たかじんさんがいたら、世の中に対して、どんな振る舞いをし、何をおっしゃったんだろうなと…。
規格外ゆえの魅力
たかじんさんの歌がズルいくらい色っぽいのは、怠ってないからだと思うんです。それは仕事もそう、遊びもそう、お酒もそう、女遊びもそうだったのかもしれないですけど、全部手を抜いていない。規格外に本気。それは今の世の中としたら、いろいろ言われかねないのかもしれない。ただ、それだけ本気だから、色っぽいんです。そこは間違いなく連動しているものだと思います。
本気という教え
それだけの歌手でありながら、あれだけ鋭いことを言って、これでもかと面白いことを言って、キレキレの司会をやって。勉強を重ねて、あらゆる分野に踏み出していく。そう思うと、おこがましい話ですけど、オレも状況的に共通するところもあるんです。芝居から始まって、歌に行って、お笑いに行って、コンビ別れして、一人になって。ただ、オレにはたかじんさんの歌みたいにメインとなるベースがない。形がないんです。生き残るためだけに考え、次々とやってきました。歌があるたかじんさんでも、あれだけ日々武器を鍛えていたんですから、オレはもっとやらないといけない。司会だけ、歌だけ、芝居だけ。何か一つになったら“怠けている”と感じる。だからこそ、僕はタレントだと思いますし、その感覚はたかじんさんから学んだところが非常に強いです。もっと、もっとやらないといけない。本気で。
9月にライブをやるんですけど、これも自分なりの本気の一つです。そして、これは贅沢なんですけど、そのライブでたかじんさんの「東京」を歌わせてもらいたいなと。オレが一番染みた歌。もちろん、たかじんさんみたいに歌えないです。だけど、自分が歌を歌うという場を今回のように与えてもらったんだったら、勝手かもしれないけど、やっぱりそこでたかじんさんの曲を歌わせてもらいたい。やしきたかじんという人に憧れた男が歌う「東京」をどこかでたかじんさんが聞いてくれていたらなぁと。
ま、もし聞いていたら聞いていたで「ヒデ、歌はアカンわ」とダメ出しされるかもしれませんけどね(笑)。ただ、さんざんダメ出しした後、最後に「せやけど、お前、歌、好きやもんな」と優しく言ってくださるような気はします。
(撮影・中西正男)
■中山秀征(なかやま・ひでゆき)
1967年7月31日生まれ。群馬県出身。ワタナベエンターテインメント所属。俳優を志して劇団に入団し、日本テレビ系「火曜サスペンス劇場 狙われた女教師」で82年に芸能界デビュー。85年、松野大介氏とお笑いコンビ「ABブラザーズ」を結成する。コンビ解消後はタレントとして活動。92年から出演した日本テレビ系「DAISUKI!」で、松本明子や飯島直子らとの息の合ったやり取りでも注目を集める。 現在、日本テレビ系「シューイチ」でMCを務める。9月9日にはコンサート「ヒデライブ2018ミュージックパラダイス」(東京・恵比寿ザ・ガーデンルーム)も開催する。詳細はhttp://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000005/から。