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全米オープン初日、好発進を切ったB・ケプカと松山英樹のよく似た秀逸性

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 濃霧に包まれ、1時間半遅れで開幕した全米オープン初日。全員がホールアウトすることはできず、日没サスペンデッドとなった。

 暫定首位に立ったのは4アンダー、67で回ったラッセル・ヘンリー(米)と16番まで終えたルイ・ウエストヘーゼン(南ア)。1打差の3アンダー、暫定3位タイにはフランチェスコ・モリナリ(イタリア)ら2人が並び、2アンダー、暫定5位タイにはブルックス・ケプカ(米)や松山英樹ら6人が並んでいる。

【シンプルに勝利へ突き進むケプカ】

 10番スタートだったケプカは、安定したプレーぶりで前半に3バーディーを奪うと、折り返し後も2番で4つ目のバーディー獲得。

 しかし、パー3の3番ではティショットをグリーン左の崖下(ペナルティエリア)に落として窮地に陥り、7番でもグリーンを外したが、どちらもボギーで収め、8番ではバンカーから見事なパーセーブを披露。ミスを大けがにせず、ダメージを最小限に抑えたプレーが好発進につながった。

 ケプカはメジャー4勝の実績を誇り、そのうちの2勝は全米オープンで挙げた勝利だ。「メジャー最強の男」と呼ばれ、とりわけ過酷な戦いを強いられる全米オープンに強い。

今大会でも開幕前の優勝予想では2番手に挙げられ、その期待通り、ケプカが初日から好発進を切ることができた理由は、この日の彼の戦いぶりに、そのまま表れていた。

「初日に勝つことはできないが、初日で負けることはある。その意味で、パットもティショットもいい感じで打てた今日の初日は、いいスタートが切れたと言っていい。決してベストではないが、とても満足している」

 初日に最高のゴルフを求める必要はない。しかし、最悪は避け、いい位置に付ける必要はある。そのためにケプカが何をしたのかと言えば、「思い描いていたプラン通りにプレーしただけのこと。できないことはやらない。きわめてシンプルだ」

【「ボギー以上を叩かない」を実践した松山】

 そんなケプカと並んで優勝候補の2番手に挙げられていたディフェンディング・チャンピオンのブライソン・デシャンボーは、アグレッシブでダイナミックなゴルフがトーリーパインズの狭いフェアウエイに収まり切らず、固く干上がったグリーンとグリーン周りにも翻弄されて、スコアを落としていった。

 一方、そのデシャンボーと同組で回った松山英樹のゴルフにはマスターズ覇者の貫禄と落ち着きが感じられ、その戦い方にはケプカのそれとの相似点も見て取れた。

 開幕前、松山は、毎年1月にプレーするトーリーパインズと比べ、目の前にあるトーリーパインズが格段に難しく仕上げられていることを警戒し、「芝質が違う」「グリーンが硬くなっている」「1打1打がすごく大事になる」「ボギー以上にならないように攻めることが、すごく大事になる」と語っていた。

 そんな自身の言葉通り、初日の松山はティショットをフェアウエイに置き、ピンを狙うのではなくグリーンを捉えることを優先し、1打1打を大事に戦った。

 ピンそば3メートルに付けた3番、10番は、バーディーチャンスをしっかりモノにした。欲張らず、辛抱強くチャンスを待ちながらプレーしていれば、いつしか幸運も舞い込むもののようで、11番では15メートルのバーディーパットがカップに吸い込まれるように沈んでくれた。

 フェアウエイバンカーにつかまった7番は、「ボギー以上にならないように」というプラン通り、しっかりボギーで収めた。

 後半はラフからでも見事にパーを拾った。圧巻は15番。右サイドの深いラフにつかまり、2打目はフェアウエイに出すだけとなったが、3打目をピン1.2メートルに付けて見事パーセーブ。「ボギー以上」どころか、ボギーを1つも叩かなかったバック9の戦いぶりは秀逸だった。日没ぎりぎりで迎えた18番。ティショットを左に曲げたが、パーで締め括り、「最後は終われて良かったな」と胸を撫で下ろした。

 欲を言えば、上がり3ホールはバーディーパットを沈めたいところだった。しかし、ケプカの言葉が示す通り、メジャー初日、全米オープン初日は、最高のゴルフをすることより、好発進を切ることが求められる。

 松山の今年のマスターズ初日は、まさにそうだった。メジャーの戦い方、勝ち方を、すでに身を持って知っている松山だからこそ、初日に好発進を切った今、メジャー2勝目への期待は一層現実的になったと言えるのではないだろうか。

 優勝予想ではトップ10にも入っていなかった松山だが、明日以降の彼のプレーから、もはや目が離せない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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