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レアルに冷や汗をかかせた久保建英。現地記者がマドリー復帰に太鼓判を押す理由

小澤一郎サッカージャーナリスト
19年夏のレアル・マドリーの米国ツアーでマルセロとボールを奪い合う久保建英(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 スペインのラ・リーガで今冬、ビジャレアルからヘタフェへと活躍の舞台を移した久保建英は、移籍直後からボルダラス監督の信頼を得て3試合連続で先発出場を続けている。

 先週末(1月31日)に行われた第21節のアラベス戦では中盤を省略するロングボールが飛び交うと同時にファールの多い展開となったため、久保の見せ場はほとんどなく0−0のドローに終わった。

 その試合前にヘタフェの取材歴が7年以上あり、現在は大手スポーツ新聞『マルカ』でヘタフェの番記者を務めるフアンカル・ナバセラダ記者にヘタフェにおける久保の適応やレアル・マドリー復帰の可能性について話を聞いた。(取材日:21年1月28日)

オンラインで取材に応じてくれたヘタフェ番記者のフアンカル・ナバセラダ氏
オンラインで取材に応じてくれたヘタフェ番記者のフアンカル・ナバセラダ氏

 まずフアンカル記者は今冬にヘタフェが久保とカルラス・アレニャー(バルセロナからのローン)の2選手を獲得した理由についてこう説明する。

「今のヘタフェはとてもわかりやすいチームになっていますし、どういう選手がいるのかは誰の目にも明らかです。最終的に何年も同じスタイルを貫くことの難しさがあり、それは選手たちを飽きさせてしまいます。彼ら二人の加入によってヘタフェはこれまでとは違うものがもたらされます。

 4-4-2から4-2-3-1に移行することを考えても、久保とアレニャーは理想的な補強でした。よりボール保持を高めてボールを扱うサッカーへの移行です。彼らの補強はそれを可能にしてくれるものであり、その変化のためには的確な補強でした」

 移籍直後、大雪の影響でチーム練習に合流することなく第18節エルチェ戦でデビューを果たし、それ以降3試合連続で先発起用している久保建英のヘタフェへの適応ぶりについてフアンカル記者は「いい意味で驚かされた」と明かす。

「どういう点での驚きかというと、今や誰もが久保のプレースタイルを知っています。彼は推進力があり、ドリブル突破が武器です。ただ、守備局面でのタスク遂行能力はあまり知られていませんでした。

 ボルダラス監督が彼にそれ(守備)を要求するのはわかっていましたが、驚いたのは彼が出場した最初の試合から(右SBの)ダミアン・スアレスと一緒に(ペナルティ)エリア内で守備をしていて、中盤ではプレスバックするためにしっかりと戻るための体勢をとっていたことです」

マドリー加入直後から久保に興味ありだったヘタフェ

 ただ、長年ヘタフェを取材するフアンカル記者は久保が18歳でレアル・マドリーと契約を結び、昨季マジョルカへローン移籍する前からヘタフェも関心を持っていたという事実を把握している。

「昨季マジョルカでローン期間が終わった時、セビージャ、ベティス、ビジャレアル、ヘタフェも含めて、多くのクラブが彼に関心を持ち最終的にビジャレアルへ行きました。ビジャレアルは久保のプレースタイルにマッチするチームだと思いましたし、ヘタフェよりも相性の良いクラブだと見ていました。

 久保がレアル・マドリーに加入して以降、つまりマジョルカにローンで行く前からヘタフェは彼を獲得候補に入れていました。ただ、最初に正式オファーを出したのは今冬です。マジョルカに行く前からヘタフェは久保の状況についてヒアリングはしていました。昨季はバジャドリードへの移籍が間近でしたが、最終的にはマジョルカへのローンが決まりました」

マドリーの番記者たちによる衝撃の新事実

 レアル・マドリーへの復帰の可能性についてフアンカル記者は「間違いなくできる」と太鼓判を押す。加えて、衝撃の新事実も明かしてくれた。

「私にはマドリーの番記者を務める友人がたくさんいますが、彼らが話すには『久保によってレアル・マドリーはプレシーズンの動画でたくさんの編集を強いられた』とのことです。なぜなら、久保はチームメイトをあざ笑うかのようなプレーをトレーニングでたくさん見せていたからです。

 マドリー加入後(2019年)の夏のプレシーズンでいきなり彼はそういうプレーを見せていたのです。マドリーとしては、ベンゼマや他のチームメイトが加入したばかりの18歳の選手に軽くあしらわれる映像を表に出すわけにはいきません。そういう意味でも、彼はマドリーに適応するでしょう」

 ただ、ヘタフェの番記者であるフアンカル記者にとっては久保ほどの選手は半年のみならず、長くヘタフェでプレーしてもらいたい。だからこそ、「個人的にはマドリーが彼と同ポジションの選手を獲得して、来年もヘタフェでプレーすることを願っています」という冗談交じりの本音も明かしていた。

 こうしたフアンカル記者の証言を聞いても、レアル・マドリーが久保建英の才能、能力を高く評価しているのはよくわかる。ヘタフェでの入団会見で久保は、「ヘタフェがもしアンダルシア州のチームであっても問題なく加入していた」と話していた点をフアンカル記者はこう指摘する。

「久保はとても成熟した青年で、どんな条件にも適応できます。だからこそ、マドリードにあるクラブ(ヘタフェ)であろうが、アンダルシアであろうが、彼にとっては『同じ』と言ったのです。それだけ彼は成熟しています。

 しかし、マドリーは『彼を近くに置いておきたい』と考えました。ヘタフェのような近い距離にあるクラブでプレーすることは久保のマドリー復帰を考えた時には、アドバンテージになると思います。だからこそ、私は久保よりもマドリーの判断に驚かされました」

 フアンカル記者は久保と同じくクラブ内からの高い期待と評価を背負って今季レアル・マドリーに復帰しながらもジダン監督の信頼をつかみきれず、今冬にアーセナルへとローン移籍をしたウーデゴールの例を出した上で、「レアル・マドリーはとても複雑なクラブで、予想するには難しすぎる」とも話す。

 ただ、今回の取材で明らかになった新事実やヘタフェでの迅速な適応を目の当たりにする限り、ヘタフェでの残り半年の活躍次第では十分にレアル・マドリー復帰の可能性「あり」と見ていいのではないか。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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