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人材ビジネスは「不安産業」か〜成功したら相手のおかげ、失敗したらこちらのせいという辛い仕事〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
人の不安につけこむ仕事と、人の不安を和らげる仕事は紙一重(写真:miya227/イメージマート)

■不安をあおって、何かを買わせる

「不安産業」という言葉があります。

それは「これこれこうしなければ、こうなるぞー」というホラーストーリーを語って、相手を不安にさせて、モノやサービスを買わせることを指します。

そのホラーストーリーが真実であれば、それは全く真っ当な商売であり、いわゆる「予防」の仕事です。

しかし、そのホラーストーリーが偽りで、かつそれが意図的なものであれば、詐欺に等しい商売かもしれません。人の恐怖心につけこんだ卑怯な仕事と言ってもよいでしょう。

■嘘と間違いは紙一重

ただ、難しいのが、ホラーストーリーは未来のことなので、当たるも八卦当たらぬも八卦、完全な予測は難しい。結果、外れる場合もあるでしょう。

今回のコロナについてのあれこれの予測など、自然科学でも身体のことなどは複雑性が高く、予測が難しいわけですが、社会科学の一つと言えるビジネスとなればさらに様々な要因が加わって予測が難しいかもしれません。

そうなると、結局、そのホラーストーリーを語る本人が信じているかどうかが、嘘と間違いを分ける基準となると言えるでしょうか。

しかし、そう簡単でもなく、狂気の人の語るホラーストーリー(昔のノストラダムスの大予言現象とか)はどうなるのか、という話になります。

動機が善ならば、完全に間違ったホラーストーリーを流布してよいものか。社会への影響度次第でしょうが、立場のある人や、プロを公言する人、マスコミなどの公的な機関は、やはりそれでは許されないでしょう。

■人材業界はよく不安産業と言われてしまうが

人材採用業界の仕事も、特にコロナや景気の変動の影響で、いろいろ予測が難しい状況でもあり、「不安産業」化してしまいそうな感じがあります。

いろいろな人がいろいろなホラーストーリーを語り、いろいろなモノを売ることでしょう。私もその中の一人であることを深く自覚しています。

嘘つきになってしまわないように、ファクト(事実)とロジック(論理)とセオリー(学問)をもとに、できる限り確からしい未来を予測しなければ、と思っています。

そのためにも、人材ビジネスに関わる人は、日々自分の専門性、スペシャリティを磨いて行く責務があると思います。

■最終的にはどちらなのかはわからないのが難しいところ

「不安産業」の難しいところは、コトが起こらなかった時に、「予測が外れた」のか「予防が効いた」のか、が分からないところです。

人事の仕事も、問題が起こることを「予防」できることが理想なので、本当に「できる人事」は何の目立った実績もない「空気」のような仕事をしているのだと思います。

採用で言えば、ちゃんと目的どおりに人が採れたら「お客様が適切に動かれたおかげ」、採れなかったら「我々の策が間違っていたかもしれない」(本当は運用がまずかったとしても)と大抵なります。

しかし、それでいいのです。それが嫌であれば、もっと確固たるモノを提供する仕事につけばよいだけです。ベンツを売れば、お客様は確実にベンツを手にいれることができます。そういう仕事なら、結果論としても人を裏切ることはあまりありません。

人という曖昧で、どうなるかわからない対象を扱う人材ビジネス業界(私ももちろんその一人です)に、何の因果か興味を持ってしまい、生業とするようになった人は、「不安産業」だとか「虚業」だとか言われてしまわないように、善なる動機で一生懸命お客様のためを思って提案やサービスをしていくしかないのです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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