エベレスト8度目の挑戦 登山家・栗城史多の試練
登山家の栗城史多氏(35)が4月17日午前10時35分、東京・羽田空港よりエベレスト(標高8848メートル)登頂を目指し飛び立った。彼はこれまでに2009年からエベレストに7回挑戦しているが、登頂には至っていない。今回が8回目の挑戦になる。2012年には重度の凍傷となり、両手9本の指を失った。
彼の挑戦には、「勇気をもらった」などたくさんの支持とサポートが集まる一方で、「無謀な挑戦を繰り返しているだけ」といった批判も集まる。"登山家・栗城史多"とは、一体何者なのか?炎を囲みながら、彼を取り巻く"空気"に耳を傾けてみた。まずは下記動画をご覧ください。
(2018年3月東京都内にてインタビュー「空気#1 登山家と…」)
登山家自身で目標とルールを決める
登山とは一般的なスポーツと違い、ルールや方法、目標も登山家自身に委ねられている。その中でも栗城氏の目指す頂は、普通の登山家とはちょっと違う。"否定という壁への挑戦"と銘打ち、山頂に登る様子を中継して"冒険の共有"を行い、人々が諦めた"自分の山(夢・目標)"に挑戦することを真の頂としている。共有する冒険とは"エベレスト登山"だが、登り方は"単独無酸素"と決めている。エベレストのような高所は、8000mを越えると"デスゾーン"と呼ばれ、人間が生存できないほど空気中の酸素濃度が低くなる。その"デスゾーン"で酸素ボンベを使わず、ベースキャンプから単独で登頂を目指す。(2016年まではこれに秋という条件もあったが、現在は比較的天候が穏やかな春に変えている。)
登頂と中継どちらを優先するのか
2015年。私は栗城氏にエベレスト同行を誘われた。最終的に私は行かなかったが、同僚の木野内哲也と赤間哲也が栗城隊に同行し撮影を行った。(この撮影素材は、2016年1月放送NHK「5度目のエベレストへ~栗城史多 どん底からの挑戦~」で一部使用された)当時、私は映像を作る立場から、失礼を承知で彼にこう問いかけた。
「登頂と中継どちらが大切ですか?これまで4度(2015年当時)失敗し、重い撮影機材があり、さらに9本指がない状態で、普通に考えて登頂は難しいのではないですか?もし中継が大事なら、単独を諦めて撮影スタッフを横につけるべきだし、単独無酸素での登頂が大事なら、中継を諦めるべきでは?」
すると彼はきっぱりとこう答えた。
「登頂と中継、両方あって僕の登山です。"冒険の共有"がなければ、僕の登山ではない。中継と単独無酸素がセットで、冒険の共有になります。」
8度目挑戦の前にインタビュー
それから3年。栗城氏は8度目の"冒険の共有"の挑戦へ旅立った。その約1ヶ月前の2018年3月、私は東京で彼にインタビューをした。カメラは、2015年に同行した木野内と赤間が担当。2015年の過去と、現在のインタビューを組み合わせて上記の映像を構成した。
彼の挑戦についてはこれまで、多くのテレビや雑誌で報道されている。称賛する人がいる一方、批判の声も上がっている。「無謀な挑戦」「登山家ではなく下山家」――今回のインタビューでは、そうした厳しい声についても彼にぶつけてみた。
彼はこう答えた。
「下山家ね(笑)。でも…登山家は下山しないとダメですからね。失敗か成功かだけで世の中を見る"空気"って、果たして意味あるのかなと思います。」
彼のHPや著書で"否定という壁"という言葉がある。その壁は、自分にも相手にも両方あると彼は言った。
「否定の壁が何かというと、一つは正しさと常識。正しいことを言おうとすることが、ひとつの壁になっている。その壁を一つ一つ崩したい」
"否定という壁 "を壊す8度目の挑戦。彼の目の前には、否定という壁がさらに高くそびえるように見える。成否を問わず彼は真の試練を迎えている。
インタビューの最後ではこう締めくくった。
「"空気"って変わっていくなと思います。2007年に動画配信していた頃の空気と、SNSがより発達した現在の空気。その中で、理解できないものや答えが出ないものに対して拒否する空気を超えたいです。」
栗城氏はネパール到着後、4月末までにエベレスト(ネパール側)のベースキャンプに入る予定だ。高所順応をしながら、5月中旬〜下旬にかけてエベレスト登頂を目指す。栗城史多公式facebookページにて、登山の様子や中継を随時配信するという。
栗城史多(くりきのぶかず)氏のプロフィール
1982年、北海道生まれ。大学山岳部に入部してから登山を始める。2004年に北米最高峰マッキンリーの単独登頂に成功したのを皮切りに、7大陸最高峰のうちエベレストを除く6つに登頂。エベレストは09年以降に7度挑戦しているが、登頂には至っていない。
追記:2018年5月21日エベレスト登山中に栗城史多さんはお亡くなりになられました。心よりご冥福をお祈りいたします。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】