マスターズ優勝後、いまなお夢見心地のタイガー・ウッズがZOZO選手権出場を決めた背景を探る
タイガー・ウッズがマスターズ5勝目、メジャー15勝目を挙げてから2週間が経とうとしているが、ウッズ本人はいまなお夢見心地だという。
マスターズ勝者の慣例行事を済ませたウッズは、フロリダ州ジュピターの自宅に戻り、自身が経営するレストラン「ザ・ウッズ・ジュピター」で友人たちと祝勝ディナーを楽しんだ後は、「子供たちの学校の送迎をする以外は、ほとんど何もしていない」そうだ。
「ずいぶん退屈な日々を過ごしているように聞こえるだろうけど、ただ家の中でゴロゴロするってことを僕はずっとやったことがなかった。だから、そうやって家でゴロゴロしながら、マスターズで再び優勝した事実を噛み締めたい。でも、まだピンと来ないんだ。
そういう今の感覚は、(初優勝した)97年大会後の感覚と、よく似ている。あのときは勝利を実感できるまでに数年かかったけど、今回の勝利は、果たしていつになったら実感できるのか、今はそれさえもわからない」
ウッズは今も夢見心地の様子である。
【夢の中で見つめる現実】
とはいえ、時の流れはとどまるところを知らず、とりわけ過密気味の新日程を採用している今季の米ゴルフ界はクイックテンポで進行している。
ウッズも夢見心地に浸る一方で、現実に目を向ける必要があり、その1つとしてウッズは、来週の米ツアー大会、ウエルスファーゴ選手権に「出場しない」ことを発表した。
メジャー大会の前週の試合には出場せずに調整するのがウッズの長年の流儀であることを考えると、ウエルスファーゴ選手権を欠場することは、マスターズを制したウッズが、その後のレギュラー大会に1試合も出ることなく、「慣らし運転」なしの「ぶっつけ本番」で次なるメジャー、全米プロに挑むことを決意したと考えられる。
4度の腰の手術を経た43歳のウッズにとって何より大切なのは、体力を温存しながら戦っていくマイペースのスケジューリングだ。昨季は終盤で想像以上に好調さを取り戻してランクアップしたために、世界選手権シリーズやプレーオフシリーズなど予想外の出場資格を得た。
そして、せっかく得たのだからということで、そのすべてに出場したウッズは、体力の限界すれすれで戦い続け、おまけに最終戦のツアー選手権で5年半ぶりの復活優勝も遂げ、シーズン終了後はすっかり疲弊してしまった。
「しっかり休めたと感じていないときは、いいプレーができない。それは年を取ったということなのかもしれないが、とても重要なこと。去年の終盤9試合のうちの7試合は本当にきつかった」
だからウッズは、来週のウエルスファーゴ選手権を欠場すると決めた。
【唯一、出場を決めているZOZO選手権】
体力温存、マイペースの維持という意味で、今季のウッズは3月のバルスパー選手権も欠場を決め、過去8勝を挙げた大好きな大会であるアーノルド・パーマー招待は、首痛を理由に大会直前で欠場した。やはり過去5勝を挙げて相性抜群であるメモリアル・トーナメントも、まだ出場の意志を示してはいない。
現時点でウッズが必ず出ると見られている今季の大会は、残る3つのメジャー大会(全米プロ、全米オープン、全英オープン)、ウッズが大会ホストを務めるクイッケンローンズとヒーロー・ワールド・チャレンジ、それにウッズが米国チームのキャプテンを務めるプレジデンツカップの6試合。
それ以外のレギュラー大会や世界選手権大会は、どれも出場するかどうかに「?」が付いている状態だ。そんな状況下、ウッズが現時点で唯一、出場を明言したのが、今年10月に日本で初開催されるZOZO選手権だ。
なぜ、ウッズはZOZO選手権のみ、早々に出場を決めたのか。
その理由の1つは、スケジュール上の独立性だ。メジャー4大会やウッズが大会ホストを務める2つの大会など「絶対に外せないMUSTな大会」がすべて終了し、米ツアーの今季が終了するのは8月下旬だ。
9月のオフを挟み、米ツアーの「来季」が開幕するのが10月。その開幕シリーズに位置付けられるZOZO選手権は、ウッズにとって「MUSTな大会」と日程的にまったく重なることのない独立した開催時期ゆえ、出場を決めやすかったと考えられる。
そして、もう1つ、ZOZO選手権の開催場所が「ジャパン」であることは、ウッズが早々に出場を決めた大きな理由であろう。
ウッズは2006年以来、13年間も日本の試合に出場していないのだが、その間、ウッズは日本を嫌っていたわけでも避けていたわけでもない。日本に来てプレーすることができないぐらい、彼の人生には、いろいろな出来事が起こり続けていた。
2009年暮れから起こった一連の不倫騒動後、ウッズの元からはファンもコーチもキャディも大半のスポンサーも離れていった。ウッズがウッズなりに苦しんだり悲しんだりしていたとき、逆にウッズに歩み寄った人々や企業も少しだけ見られた。
2011年にウッズと新たにスポンサー契約を結んだ日本の興和株式会社は、その1つ。当時、その契約話を聞きつけた米メディアから、米ツアー会場で次々に「Kowaって何?」「バンテリンって何?」と何度も尋ねられたことが今では懐かしく感じられる。
ああ見えてウッズは昔からとても義理堅い。受けた恩義は絶対に忘れない性格であり、受けた恩義には必ず報いようとする人柄でもある。8年前、米メディアの間で認知度ゼロに等しかった日本の一企業から受けた契約オファーを、当時、孤独だったウッズはうれしく感じていたに違いない。何かの形で、そのお礼がしたいと考えてこそ、「ザ・タイガー・ウッズ」である。
「初開催のZOZO選手権でプレーすること、そして僕が大好きな国の1つである日本に再び戻ることに、とても興奮している。楽しい秋にななりそうだ」
マスターズで復活優勝を遂げたばかりのウッズが日本に姿を現わすことは、かつて苦しいときに手を差し延べてくれた興和や日本に対して恩返しになる――「楽しい秋」は「恩返しの秋」。義理人情に厚いウッズなら、そう考えたはず。私は、そう確信している。