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北朝鮮の戦車が「世界で一番」? それでロシアに供与?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記が搭乗している北朝鮮の新型主力戦車(朝鮮中央通信から)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が3月6日の人民軍の射撃訓練、7日の砲撃訓練に続き、昨日(13日)は戦車部隊の訓練を視察していた。

 軍のトップ3である砲兵局出身の朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長(元軍総参謀長)が同行し、現地で強純男(カン・スンナム)国防相及び李永吉(リ・ヨンギル)軍総参謀長や戦車兵大連合部隊の指揮官らが金総書記を出迎えていた。

 訓練は戦車兵大連合部隊間の対抗訓練競技という形式で行われたが、今朝の北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」によると、訓練は「相違なる戦術的任務に応じた戦闘行動方法を熟練させる」ことに目的が置かれ、競技に出場した戦車は「競技走路を速いスピードで走りながら、強力な打撃で目標を一撃のもとに粉みじんにし、高い機動力で堅固な防御界線を克服した」と伝えられている。

 そして、競技の結果、近衛ソウル柳京守第105戦車師団が「圧倒的な実力で優勝を獲得した」とのことだが、北朝鮮の軍事パレードでは第425機械化歩兵師団や第108機械化歩兵師団、第815機械化歩兵師団などを押しのけ、戦車部隊の先陣を行進するのは常に近衛ソウル柳京守第105戦車師団であることから予想された結果である。

 いざ開戦となれば、人民軍は戦車4100両と装甲車2100両で進軍、南下するが、近衛ソウル柳京守第105戦車師団は真っ先にソウルに進撃、制圧する部隊であることは日本ではあまり知られていない。

 訓練を参観した金総書記は「今まで人民軍の各軍種、兵種、専門兵部隊、区分隊の訓練を多く指導したが、今日の戦車兵たちの準備程度が一番満足である。全軍の全ての部隊、区分隊が今日の対抗競技に参加した第105戦車師団管下区分隊のように準備ができていたら戦争準備に対しては安心する」と、満足していたようだ。

 その上で、「新型主力戦車が極めて優れた打撃力と機動力を立派に見せたことに満足を禁じえず、我が軍隊が世界で一番威力のある戦車を装備するようになるのは大きく自負するに値する」と胸を張って見せていた。

「世界最強」と言われている米国の戦車「M1エイブラムス」(米陸軍HPから)
「世界最強」と言われている米国の戦車「M1エイブラムス」(米陸軍HPから)

 金総書記自ら搭乗し、自画自賛した「世界で一番威力のある新型戦車」とは2020年10月から度々軍事パレードに登場していた米国製戦車「M1エイブラムス」に似た戦車を指しているようだ。

 北朝鮮の戦車は以前は旧ソ連製の「T-54/55」、「T-62」、「T-72」が主だったが、「T-62」を改良した「千馬―216」や125mmバルカン砲の「先軍―915」などに加え、世界最高レベルの攻撃力と防衛力を供えたロシアの次世代主力である「T-95」に匹敵する戦車も開発していた。

 それが、何と、米国が誇る全長9.8mの122mm砲を備えた「M1エイブラムス」戦車に酷似した形状の新型戦車であった。北朝鮮版「M1エイブラムス」と呼ばれるこの新型戦車には対戦車ミサイル自動迎撃システムの発射機も装着されているが、すでに実戦配備されているようだ。

 「世界一」ということは世界最強と評価されている「M1エイブラムス」よりも、また1500馬力を超えるエンジンを持ち、44〜55口径の120ミリ滑腔砲を備えた欧州一の戦車「レオパルト2」よりも優れているということだが、北朝鮮が何をどう比較検証し、そうした結論に達したのか、おそらく米国も韓国も金総書記の発言を額面通りには受け取らないであろう。

 本当に「世界一」ならば、ウクライナへの全面侵攻開始以降、多くの戦車や装甲車を喪失し、大きな打撃を受け、戦車が不足しているロシアが関心を持たないはずはない。米国やドイツの戦車よりも本当に性能が優れているならば、砲弾や戦術誘導ミサイル以上に欲しがるのではないだろうか。

 韓国の国防白書の「2022年南北軍事力比較」によれば、北朝鮮の戦車保有数は4300両と、韓国(2200両)の約2倍も保有している。新型は別にしても、北朝鮮には旧式ならばロシアにいくらでも供与できるぐらいの余裕はある。

 北朝鮮の申紅哲(シン・ホンチョル)駐露大使は昨年10月に米国がウクライナに地対地誘導ミサイル「ATACMS」を供与したことを非難する談話を出したが、これがその後、北朝鮮が砲弾に続き「ATACMS」に似た戦術誘導ミサイル「KN―23」を供与した口実となったことは言うまでもない。従って、ロシアに戦車が供与される可能性もゼロではない。

 今月4日から始まった米韓合同軍事演習「フリーダムシールド(自由の盾)」は11日間の日程を終え、今日にも終了するが、米原子力空母をはじめ、原子力潜水艦、迎撃ミサイル・システムを備えたイージス艦、「B-1B」と「Bー52」の2種類の核戦略爆撃機が投入された昨年とは異なり、米国は北朝鮮をいたずらに刺激するのは得策でないと判断し、自粛したのか、今年の演習では姿を現さなかった。

 そのせいか、北朝鮮もまた、軍事演習期間中に戦術誘導ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」などを乱射した昨年とは異なり、今のところミサイルの発射は自制している。但し、昨年は米韓合同演習終了前日に巡航ミサイルを4発発射し、演習終了日にも新型水中攻撃型兵器(核魚雷)を発射していた。

 米韓合同軍事演習終了と同時に北朝鮮も大人しくなるのか見守りたい。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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