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「ホリプロの不良債権」。スカウトキャラバングランプリ・浜口順子の今

中西正男芸能記者
芸能生活20年を迎え、今の思いを語る浜口順子さん

 2001年、ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞した浜口順子さん(36)。すぐさまフジテレビ「ココリコミラクルタイプ」などのレギュラー番組が決まり、華々しいデビューを飾ります。しかし、20歳を過ぎた頃から仕事が激減し「必要とされていない」という思いに直面しました。スタートダッシュと凋落を経験し、自らを「ホリプロの不良債権」と評するまでの葛藤。そして、20年の節目で向き合う今の自分とは。

青天の霹靂

 私がスカウトキャラバンでグランプリを獲得したのが2001年9月16日。なので、今年9月で丸20年を迎えました。

 20年経っても、グランプリに選ばれた瞬間のことは鮮明に覚えています。というのも、自分が選ばれるなんて絶対にないと思っていたからなんです。

 私が受けた年のテーマが「美・笑・女(びしょうじょ)」。「笑」の文字が入っていることが示してもいるように、女優さんとか歌手ではなく、バラエティーで生きるタレントを生み出す。それがコンセプトでした。

 もともと、私は放送作家になりたかったんです。どうやったらなれるのかを調べる中で、スカウトキャラバンの審査員に著名な放送作家さんたちが入ってらっしゃることを知り「ここに出れば会えるかも」という思いから応募したんです。

 そんなトリッキーな動機で応募してますから(笑)、最初からグランプリを取るという発想すらなかったんです。ただ、いろいろな流れが重なって、いつの間にか決勝10組まで残っていました。それでも自分がグランプリなんて全く考えてなかったんですけど、呼ばれたのは自分の名前だったんです。

 今でもね、その時の映像を見たら小さい声で「ヤバい、ヤバい…」ってつぶやいてるんですよ。大変なことになってしまったと…。青天の霹靂では足りないというか、思ってもみなかったことから始まった芸能生活だったんです。

自分の力はゼロ

 そういうコンセプトで選ばれたので、入ってすぐに「ココリコミラクルタイプ」(フジテレビ)、「大改造!!劇的ビフォーアフター」(ABCテレビ)に出演することになりました。

 全く経験のない16歳の高校生がプロ中のプロの方々といきなり同じグラウンドに立つ。メジャーリーグからのスタートというか、バラエティーの最前線から芸歴が始まったんです。

 他にも日々たくさんお仕事をいただいて、休みなく、毎日複数のお仕事を掛け持ちしながら働いていました。

 そうやってたくさんお仕事をさせてもらったのが16歳から20歳頃までだったんですけど、今思うと、その頃、私が仕事ができていた理由は3つだったなと。

 マネージャーさんの力。グランプリという看板。10代であるということ。その3つだけです。自分の力、これはゼロでした。

 もちろん、お仕事で手を抜くなんてことはないですし、必死にやるんです。そして、これは本当にありがたいことだったんですけど、当時のマネージャーさんや私を支えてくださるチームの皆さんは本当に厳しい方々でした。基本的に誉められることはないし、毎回厳しいダメ出しをされる。

 なので「なんとか、この人たちから誉められたい」。10代の自分なりに一生懸命考えて、サボってるなんて感覚はないんですけど、先を見越す感覚が一切なかったんです。将来のことを何も考えてなかった。

 毎日大きなお仕事があって、何て言うんでしょうね…、どこかで、でも、確かに、無条件にずっとそれが続くと思っていたんです。

 毎日のようにマネージャーさんから「この仕事は何で入ってると思う?これはみんなが頑張って取ってきたからだ。その意味をしっかり考えないと」と言ってもらっていたものの、お仕事は次々に入ってくる。

 その状況に甘えるわけじゃないんですけど、マネージャーさんたちの言葉の真意というか、奥底までは分かってなかったのが事実でした。

 …あとやっぱり調子に乗っていた。それは否定できないと思います。仕事がある。しかも、大きな仕事がある。毎日忙しい。その中で物事をシビアに考えない。その緩みみたいなものもあったと思います。

必要とされていない

 ただ、20歳を過ぎて21歳になる頃から状況が変わりました。ものすごく分かりやすい話で、明らかに仕事が減ってきたんです。初めて「ヤバい」と思いました。

 そこで気づいたのが「私って必要とされてへん人なんや」ということでした。

 そうなると、さすがに逆算というか「なぜ必要とされてないのか」ということを考えるようになりました。

 「必要じゃない」ということは「求められるスキルがない」ということ。なぜ「スキルがない」のか。それは「ここまでの5年、あまり深く考えてこなかったから」。そこで初めて心の底から「これは大変なことになってしまった」と思ったんです。

 それまで事務所が土を耕してタネをまいてくれていたのに、私が水や肥料をあげずにきてしまった。何もできないまま5年が経ち、ゼロに近づいている。

 そこから事務所の人に言って、演技レッスンを受けさせてもらいました。それまでは、あくまでもアイドルでもなく、女優でもなく、バラエティータレントとして活動してきたのでレッスンとは無縁の生活だったんですけど、とにかく何かを身につけないといけない。その思いから、デビューしたての子たちと一緒にレッスンを受けることになりました。

 そんな中、たまたま一枚のメモが出てきたんです。17歳の頃、ものすごく仕事が忙しい時期で、頭がパンクしそうになった時に書いたものでした。

 忙しすぎてグチャグチャになった思いを整理する目的で、17歳から5年後の22歳までにやってみたい仕事をリストアップする。そのために書いたメモ書きでした。

 「『徹子の部屋』に出る」「『笑っていいとも!』のレギュラーになる」「自分のラジオ番組を持つ」「自分が主演の作品に出る」。さすがに日々大きな仕事をしている時なので、さらに大きなことばっかり書いてありました(笑)。

 そして「この中の一つでも22歳までに実現できたら、この仕事を続ける」と書き添えてあったんです。

 その一文を見た時に、ハッとしたんです。「『22歳までに』って、もう、あと1年しかないやん」と。

 調子のいい時の自分が書いたものとはいえ、こんなハードルを今の自分が越えられるわけがない。となると、もう、辞めるしかないのか。

 そこでマネージャーさんに伝えたんです。それまでは「辞める」なんて言ったこともなかったんですけど、真正面から伝えました。メモの話もして「残り1年でメモを実現することは私には無理です。だから、辞めようと思っています」と。

 辞めるなら就職活動もしないといけない。でも、マネージャーさんは慰留もしてくださる。そんな悶々とした状況で時間が過ぎていき、もう踏ん切りをつけようとマネージャーさんに「時間を取ってください」と申し出たんです。

 日時を決めて会うことになったんですけど、そこでマネージャーさんから「明日、一つオーディションの話が来た。とにかく、これだけ受けてみないか」と言われたんです。

 聞いてみたらミュージカル?のオーディションでした。私なんて歌も歌えない。演技レッスンも始めたばかり。踊れない。標準語もしゃべれない。どう考えてミュージカルなんて無理に決まっています。

 でも、よりによって、明日あるというのは何かのめぐり合わせかもしれないし、とにかく受けるだけ受けてみようかと思って行くことにしたんです。

 オーディションでも「レ・ミゼラブル」の曲とかではなく、欧陽菲菲さんの「雨の御堂筋」を歌いました。審査をする方々もさすがに苦笑いされてましたけど(笑)、とにかく終えて帰ったんです。

 そこから1週間くらいですかね。大阪の朝日放送で番組収録を終えて控室に戻ったら、マネージャーさんが泣いてるんです。男の人なんですけど、周りもはばからず泣いてるんです。

 これは身内にご不幸があったのかなとも思って、気を遣いながら尋ねてみたら「オーディション、受かった!」と。

 先日のオーディションはミュージカル「アルプスの少女ハイジ」のもので、主役のハイジ役を選ぶ場だったんです。驚いたなんてもんじゃないくらい驚きましたけど、そこで、あのメモを思い出したんです。

 「自分が主演の作品に出る」

 神様がくださった最後のチャンスだと思いました。そこからは、もう「辞めるのをやめよう」と思ったんです。

「ホリプロの不良債権」

 そして、素直に人に相談するようにもなりました。それまではなまじ仕事をたくさんさせてもらってもいたことによるプライドが邪魔して、相談もできなかったんです。でも、そこからは共演した芸人さんとかにストレートに悩みを打ち明けるようにもなっていきました。

 その頃、たまたまお仕事でお会いしたゆってぃさんが堀越高校の先輩だとうかがい、親近感もあって初対面だったにもかかわらず相談させてもらったんです。

 そこで話したのが、実は自分の中で大きなコンプレックスになっていたスカウトキャラバンへの思いでした。

 私の1年前のスカウトキャラバンから輩出されたのが綾瀬はるかさん。1年あとが石原さとみちゃん。すごい二人に挟まれているのに自分は…という思い。

 毎年スカウトキャラバンの時期になるとスポーツ紙などに記事が大きく出て、そこにある“過去の主なグランプリ受賞者”という表に自分の名前がない悔しさ。

 ずっと抱えてきた大きな悩みをゆってぃさんに伝えたんです。私としては思い切った告白だったんですけど、それを聞いたゆってぃさんは爆笑してるんです。

 「めちゃくちゃ面白いよ!その話、なんでネタにしないの?」

 衝撃を受けました。「これは笑えるものなんだ」と。ただ、私はまだ「笑えるもの」ということへの疑念が残っていたので、さらにゆってぃさんが「一回、それをお客さんの前で言ってごらんよ」とご自身のライブに呼んでくださったんです。

 そして、実際にお客さんの前で話したら、信じられないくらいの大爆笑。そこまでやってくださったゆってぃさんの気遣いもありがたいですし、そこで答え合わせができたというか、自分の中で何かが吹っ切れたんですよね。

 そこからプライドなんてものは一切取っ払って「どうも!ホリプロの不良債権です!」とか、綾瀬はるかさんと石原さとみちゃんに挟まれた「世界一の狭間です」ということも言えるようになっていきました。

 そうすると、たむらけんじさんとかいろいろな芸人さんもかわいがってくださるようになり、そこからまた新たなお仕事の楽しさを感じていきました。

30年に向けて

 今年で20年という節目を意識した時に、次の30年、40年という節目を迎えるためにはどうしたらいいのか。それを今一度強く考えるようになり、YouTubeやポッドキャストでの番組を始めました。

 この先、しっかりと求められる自分でお仕事を続けたい。そして、できればですけど、デビューはテレビのバラエティー番組だったので、いつか原点に戻れたらなとは思っています。

 ラジオがイヤとか、他の仕事はやらないということではなく、もともと自分はテレビで、もっというと、バラエティーで活躍すべく生まれた存在。だったら、時間はかかったとしても、いつか、今度は自分の力でしっかりとその場に立ちたい。そう思うんです。

 そして、スカウトキャラバンの“過去の主なグランプリ受賞者”の表にも名前が出るようになったらうれしいです(笑)。

 …ただね、本当にリアルな話、私がこうやってネタにするようになって、スポーツ紙の人が気を使ってくださるのか、ホリプロが気を利かしてくれているのか、ちょくちょく私の名前が表に載るようになってきたんです。気遣いなのかもしれませんけど、これはね、美味しくはないなと(笑)。

 でも、改めて資料を見てみて再認識したのは、私は2001年のグランプリ。つまり21世紀最初のグランプリでもあるんです。

 当時のポスターを見ても、いかに皆さんが期待をしてくださっていたか、その思いがにじみ出るような作りにしてくださっていますし、そこはしっかりとプライドを持って頑張らないといけない。その思いもまた20年の節目で噛みしめています。

 …ただ、ただ、表には名前がない方が面白いんですけどね(笑)。

(撮影・中西正男)

■浜口順子(はまぐち・じゅんこ)

1985年6月24日生まれ。大阪府出身。ホリプロ所属。2001年、ホリプロタレントスカウトキャラバンで4万3325人の応募者の中からグランプリを獲得。デビュー当時のキャッチフレーズは「美・笑・女」(びしょうじょ)。デビュー直後からフジテレビ「ココリコミラクルタイプ」、ABCテレビ「大改造!!劇的ビフォーアフター」などに出演。16年、3歳上の一般男性と結婚する。20年、YouTubeチャンネル「はまじゅんカタログ」を開設。今年9月、ポッドキャストで「アラフォーからの教養実習~コメンテーターへの道!~」を始める。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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