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越境大気汚染の状況変化か?

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(写真:アフロ)

2019年5月23日に、福岡市・北九州市など福岡県の広い範囲で光化学オキシダント注意報が発令されました。福岡市や北九州市などでは3年ぶりの注意報発令です。その前日には、長崎・福江島で8年ぶりに光化学オキシダント注意報が発令されました。

追記:宮崎県では観測史上初めて光化学オキシダント注意報が発令されました。

光化学オキシダントとは?

大気中の窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などに、太陽の光(紫外線)が当たると、化学反応を起こして光化学オキシダントが生成されます。光化学オキシダントには、いくつかの物質がありますが、主な組成はオゾンです。光化学オキシダント濃度の高い空気を吸ったり触れてたりすると、健康に悪影響を及ぼします。また、オゾンは温室効果ガスでもあるので、健康影響も地球温暖化ももたらす厄介な物質です。

光化学オキシダント濃度が高くなった原因は?

九州の離島でも光化学オキシダント注意報が発令されたことからも推測されるように、中国大陸にあった空気が日本へ流れてくる越境大気汚染が起こりやすい気圧配置であったことが主な要因です。以前の解説記事「PM2.5濃度の急激な変化の要因」にある越境飛来のパターンのうち、今回は「移動性高気圧型」です。日本の太平洋沖に中心を持つ移動性高気圧がゆっくり東へ移動する際に、大気汚染物質を引き連れてきたと考えられます。その上、高気圧に覆われているので、雲が少なく紫外線が入りやすい状況にあること、また、日中の気温が5月にしては非常に高いという条件が重なって、光化学オキシダント濃度が高まりました。

追記:この気象条件はあさってまで続く予想なので、明日・あさっても光化学オキシダントが高くなる可能性が高いです。

なお、首都圏や関西地方では、自ら排出する大気汚染物質を主な原因として、夏に光化学オキシダント注意報がほぼ毎年発令されています。越境大気汚染を要因とする九州地方とは季節が異なります。

越境大気汚染の状況変化か?

九州地方で光化学オキシダント注意報が発令される場合は、従来はPM2.5の濃度もかなり高くなることが通例でした。つまり、光化学オキシダント関連ガスもPM2.5も一緒に飛来してきます。しかし、今回は、いつもよりはPM2.5濃度も高いのですが、それほど極端には上昇せず、光化学オキシダント濃度のみ非常に高くなりました。その原因は今後の詳細な研究が必要ですが、1つは、今回は中国・華北地方ではなく、主に上海周辺の華東地方からの空気が流れてきたようであることが挙げられます。もう1つは、中国でのPM2.5対策により、PM2.5関連排出量の削減が進んでいる一方、光化学オキシダントの前駆気体である窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)の削減対策はまだ途上であることが考えられます。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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