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仏壇の「サブスク」「DX」。視点を変えて価値の創造、再発見に挑む

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
こちらはミラーサイネージのDX仏壇 写真提供:メモリアルデザイン

「仏壇は不要。心の中で手を合わせていれば十分」という声をよく耳にするようになった。しかし、実際自分が大切な人を亡くした立場になった時、「何もないのは寂しい」と写真を飾ったり、花を飾ったりする人は少なくない。

「先代から伝わる大型の仏壇は処分した」という人でも、インテリアに合う小型の仏壇に買い替えたり、リビングの棚に香炉、ろうそく立、花立など最小限の仏具だけ置いて手を合わせている人もいるだろう。分骨した遺骨を納めるネックレスやミニ骨壺などの手元供養品のラインナップも年々増え、無意識の中で「あの世」の存在は自然と現代社会に受け入れられている。

故人や先祖に対する根本的なマインドや神仏に対する崇敬は、形や手段は変わっても、基本的には昔も今も大きく変わらないように思う。

「あの世」へアプローチする入口やきっかけとなるアイテムのひとつが仏壇にあたるのだろうが、業界としていまひとつ元気がない。

仏壇業界では、さまざまなアプローチ方法を模索しているが、そのいくつかを紹介する。

「所有」から「使用」を提案する仏壇サブスク

「仏壇は欲しいけど、私の代で十分かな」

といった声に応えて、仏壇のサブスクを考案したのが仏壇の製造・卸を手掛ける静岡の丸玄工芸。

「仏壇は買い替えるものではなく、良いものを購入して次世代へ引き継ぐ」という考え方とは逆の発想で、必要な期間だけレンタルするという仕組みである。仏壇に必要な仏具が付いて毎月の支払い額は2500円(税別)。担当の志村氏は

「こちらの仏壇は小型タイプなので、小スペースで設置可能。更新時には買取や商品変更も選択可能にしている」と仏壇購入のハードルを下げて提案をしている。

そもそもサブスクリプションのようなシステムは、新聞や雑誌の定期購読や交通機関の定期券、月極駐車場など、「使用料を支払うことで、一定期間だけ製品やサービスを利用できる」ビジネスモデルで、もともと身近にあったもの。近年の定額サービスは、「所有」するものが当たり前と考えられていたものを、あえて「使用」するという価値観の変化がもたらしたサービスとなる点がこれまでとは異なる。車や洋服、ブランド品など次々とサブスク型モデルが登場し、今や3000種類以上もあるとか。

お試しで気軽に使えたり、費用面でお得感があるというメリットのほかに、車やブランド品などを「持っている」ことよりも「使っている」ことに価値を感じる人が増えたことも、サブスクが急速に普及した要因と言われている。

販売側のメリットも注目したい。販売だと商品を納品すると、メンテナンスや小物類の販売が生じない限り、基本的には店と顧客との関係は薄くなるが、サブスクなら顧客との関係が継続するというメリットがある。仏壇は、モノであってモノではない。販売がゴールではなく、サブスクを通じていかに心に寄りそう取り組みができるかという点に着目したい。

ミラーサイネージで仏壇が出現「DX仏壇」

他の業界と比較してIT化が遅れているといわれている葬儀業界周辺でも、今や集客の柱はインターネットと口を揃える業者は多い。とはいえ現場でのIT化は、せいぜい一部の業者が遺影をモニターしたり、デジタルサイネージを取り入れたりする程度で、大きな変化は見られなかったように思う。しかしコロナ禍で、香典や供花の決済サービスのIT化が注目されるようになった。ウィズコロナ時代の法要の形として、寺院でもオンライン法要を提案し、自宅や遠方から法要に参列できる取り組みも広がっている。

では、仏壇そのものはデジタル化できるのだろうか。

実は、液晶パネルを取り入れた仏壇の登場はすでに10年以上前に遡る。

液晶パネルをはめ込んだ専用の仏壇から位牌や故人の写真、メッセージなどが流れたり、プロフィールが表示されるような仏壇だ。タブレットPCそのものが仏壇として機能するタイプもある。しかし時期尚早なのか、バーチャルな「あの世」をバーチャルで表現することに無理があるのか、正直どれも注目度は低い。

そこにあえて挑戦するのは、ミラーガラスとモニターが一体化したミラーサイネージを活用した「DX仏壇」を提案するメモリアルデザインの小林正史氏。

画面上に映し出された仏壇の中には、本尊、写真、位牌などを自由にレイアウトできる。画面上でロウソクに火を灯す作業をしたり、別売りのデジタル香炉を設置すれば、香りを放つこともできる仕組みだ。

ミラーサイネージは壁に直接取り付けることができるため、省スペース設置が可能。ひとつのハードウェアに、テレビ画面と「DX仏壇」を並べることもできるのである。

群馬県で石材業者を別法人で営んでいる同社では、顧客ニーズの多様化に合わせて、デザイン墓、手元供養品などを揃えてきた。その一環で開発されたのがこの「DX仏壇」だ。

「実家の仏壇、アルバムや動画、家系図などもこの一台に集約できる。祈りの形が変化している中で、家族が集まるリビングを心温まる空間にしたい」と小林氏は期待を膨らませる。

デジタルと実店舗を融合させて購買につなげる

仏壇店というと、どこか敷居が高くて入りにくいイメージがある。

店舗により足を運びやすくする仕組みをDXで実現したのが浅草の老舗仏壇店である三善堂である。

三善堂では、店内を撮影し、ネット上で店内を自由に見渡すことができるバーチャルサービスをはじめた。

複数の写真をつなぎ合わせて360パノラマビューにしているため、気になる場所をクリックして移動することが可能。店内をくまなくバーチャルツアーできるコンテンツとなっている。店内ビューで映し出された仏壇や仏具などにはマークが入っていて、そこをクリックすると詳しい説明を見ることができたり、物によっては通販も可能だ。

「どうしたら思いを届けることができるか試行錯誤し、来店客増を構築するためにデジタル店舗を開設した」と三善堂の諸田徳太郎氏。

他の物販と同様、仏壇仏具も通販システムの構築は20年ほど前からみられるが、仏壇の場合、ネットだけで購入する人の割合はそう多くない。日々思いを馳せる空間であるからこそ、実物を見て感じとりたいという商品の特性がうかがえる。「数ある仏壇店のホームページを比較し、店舗の画像や商品のラインナップを見て、弊社に足を運んでくれる人が増えた」と諸田氏。「自分たちの仕事を見直すきっかけにもなった」と語る。

「DX」は単に技術を駆使して合理化や効率化を促すだけが目的ではない。「デジタル技術が人々の生活を、あらゆる面でより良い方向に変化させる」という考え方を基本とする概念で、さまざまな業種・業界が取り組んでいるが、DX推進が心を豊かにするための新たな価値の創造につながるか、供養、祈り、弔い、といった視点から今後も注目してみたい。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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