金融政策の正常化と引き締めは分けて考えるべきでは
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30日の田村審議委員に続いて、31日には中村豊明審議委員(日立製作所出身)による岐阜県金融経済懇談会における講演が行われた。中村審議委員といえば7月28日の金融政策決定会合で、「長短金利操作の運用」に関して反対票を投じていた。
その理由は「長短金利操作の運用の柔軟化については賛成であるが、法人企業統計等で企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで行う方が望ましいとして反対した。」と公表文にあった。反対票が出たことそのものは良いことと思ったが、理由はそれなのかと少し落胆した。この理由からもみえるように、中村委員は慎重派に属し、7月の会合では長期金利コントロールの柔軟化を決定したものの、慎重派として釘を刺した格好か。
その中村審議委員は講演で物価に関して、次のようにコメントしていた。
「現状の物価上昇はまだ輸入コストプッシュインフレの色彩が強いため、販売価格の上昇が賃金上昇に繋がる前に金融引き締めに転換すれば、需要が抑制され、企業の「稼ぐ力」が再び低下しかねません。」
金融政策の正常化が果たして金融引き締めといえるのかという疑問がある。日銀は長期金利コントロールの上限を1%にしても金融引き締めとはしていないし、もしマイナス金利を撤廃しても、日銀の当預の一部だけに付くマイナスがなくなるだけで、金融市場への実質的な影響はほとんどないはず。
中村委員は金融政策の正常化も引き締めとみているようだが、普通の金融緩和に戻すだけの話ではないのか。どうして緩和方向にブレーキを掛けたくないのかが良くわからない。
「人々の成長期待も再び低下し、回復に多大なコストと時間を要することとなりますので、金融政策の修正には、丁寧な状況把握と慎重な判断が必要です。」
その前に日銀は異常な緩和を継続させたいがために、債券市場の機能を低下させたが、人的な問題や経験知などを含めて、市場機能の回復には多大なコストと時間を要するのだが、この責任はどう取るというのであろうか。
「2023年度の政策委員の物価見通しの中央値が+1.8%から+2.5%へ大きく上方修正される等、経済・物価を巡る不確実性が極めて高いことから、イールドカーブ・コントロールの枠組みの中で運用を柔軟化しましたが、現状では、賃金上昇を伴う2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っておらず、金融引き締めへの転換にはまだ時間が必要です。」
引き締め展開と正常化は分けて考えるべきで、緩和にブレーキを掛けることにどうしてそれほど慎重になっているのか。公表文の最後の文面をまず変えない限り、日銀は金融政策の柔軟性や機動性は取り戻せない。