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<ガンバ大阪・定期便97>古巣戦でホーム初ゴール。山田康太の今。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
加入1年目。攻守に汗をかきながら前線を加速させている。 写真提供️/ガンバ大阪

■収穫と課題を得た、古巣戦。ホームゲームでの初ゴール。

 山田康太にとっては古巣戦となった、J1リーグ第18節・柏レイソル戦。試合前は特に肩に力が入っている様子もなく、ただただ、古巣への感謝の思いをぶつけて楽しみたいと話していた。

「柏はJ2リーグでの時間が続いていた僕にもう一度J1リーグで戦うチャンスをくれたチーム。在籍は1年と短かったですが、試合に出してもらった後半戦は特に、天皇杯での決勝進出を含めてたくさんの貴重な経験をさせてもらいました。細谷真大ら、今でも交流のある仲間たちとの出会いもあって、本当に特別な時間だったと思っています。だからこそ、今節の古巣戦は柏を負かしたいというより、かつての仲間との対戦が純粋に楽しみという気持ちの方が大きいです。お世話になった方たちに、自分がガンバで頑張っている姿を見せたいという思いもあります。その気持ちをまっすぐにプレーにぶつけて、自分らしく戦います」

 ところが、いざパナソニックスタジアム吹田に足を踏み入れてみたら、ウォーミングアップの時から特別な感情が湧き上がってきたという。

「すごく楽しかったんですけど、いざピッチに立ってみると(アウェイのゴール裏に)黄色いサポーターがいて、元チームメイトや一緒に仕事をしたスタッフとも会って、初めてそこで『負けたくない』と思ったというか。それはちょっと自分でも不思議な感覚でした」

 J1リーグでは7試合ぶりの先発出場に期する思いもあったのかもしれない。

 事実、どんな時も常に「自分の結果より、チームが勝つのが一番嬉しい」と話してきた山田は第11節・アビスパ福岡戦以降、戦列を離れていた際も、また復帰後、途中出場が続いていた時も、チームが負けなしの戦いを続けていたことを喜んでいたが、一方で、仲間の姿に触発されてもいた。

「チームメイトが活躍したり、結果を出しているのは素直に嬉しい。スタンドから試合を観ていた時も自分のことのように喜んでいました。それは他のメンバー外の選手も同じで、今は誰もがチームが勝つことに気持ちを注げているし、目の前の試合が終われば、また次に向けて、練習から頑張ろうというサイクルにもなれている。もちろん、同じポジションの選手の活躍を全く気にしていないのかといえば嘘になります。でもピッチに戻れさえすれば自分もやれると思っているので。どちらかというと、みんな頑張ってるな〜って思うことを、自分の力にしている感覚です」

 もちろん、青く染まるガンバサポーターを前にして、奮い立たないはずもなかった。

「復帰してからアウェイ戦が続いていたので、先週の天皇杯2回戦・福島ユナイテッドFC戦は個人的には久しぶりのパナスタでの試合だったんですけど、リーグ戦に比べて観客数は少なかったものの、やっぱりここはいいな、って思ったし、改めて『ホームでは負けない空気』を感じて、すごく心強かった。ガンバサポーターはアウェイ戦も毎試合、たくさんの方が足を運んでくれるのでそれもすごく力になっているけど、パナスタはやっぱり特別なスタジアム。だからこそ、連勝とか順位を気にするというよりは、まずはファン、サポーターの皆さんのために勝利を届けることに集中しようと思っていました」

 そうした胸に渦巻くいろんな感情に背中を押されたことも、古巣戦で決めた、パナスタでの初ゴールにつながったのだろう。

 宇佐美貴史のゴールで1点のリードを奪って迎えた26分。やや距離のある宇佐美のFKを相手DFがクリア。そのボールに反応した鈴木徳真が「決める気満々で」ミドルシュートを放った瞬間、山田は前方向に走り込む。その一連の動きの中でウェルトンの左足を経由したボールが山田に渡り、右足でゴールを突き刺した。

いつもなら徳真くん(鈴木)がシュートを打つ時に見ているだけになっていたというか。足が止まってしまいそうになるような場面でしたけど、ここ最近、ゴール前に走り込んだら何かが起きるかもな、という感覚を持っていた中でうまく反応できた。古巣を相手に、もっているな、とも思う自分もいるし、ああいうところで冷静になれている感覚もあって、うまくそれがマッチしたのかなと思います」

 思えば、移籍後初ゴールを決めた第16節・FC東京戦は、途中出場からわずか30秒で、ウェルトンから送り込まれたボールを決勝ゴールに繋げた山田だったが、VAR判定に時間がかかり、かつ、ゴールシーンより前の、黒川圭介のプレーから遡ってチェックが入ったこともあって「取り消しになることも覚悟していた」と本人。

「圭介くん(黒川)のプレーをどう見られるかは全然分からなかったけど、自分のシュートシーンについては、ネタ(ラヴィ)からウェルトンにボールが入った時に、ウェルトンが少しオフサイドラインを気にして、少し戻ってから出ていくのが見えていたので。もしかして引っ掛かっていた?! と思いながら(判定を)待っていたら大丈夫だったから、みんなありがとう! って感じでした。もし圭介くんのプレーでファウルが取られてゴールが取り消されていたら、思いっきり圭介くんにツッコむつもりだったけど、その必要はなかった(笑)!(東京戦後コメント)」

 だが、柏戦でのゴールネットを揺らした後は、その時よりも確信をもってVAR判定を待っていた。

「自分の感覚としては(オフサイドは)ないんじゃないかって思っていました。ただ、主審が『山田くん、怪しいかも』って言うし、『ハンドも見るから』って言うから、いやいやいや、と(笑)。古巣戦だし、ゴールにしてよって思いながら待っていたら、ゴールになってよかったです」

 もっともそのゴールシーン以外については反省を口に。

「個人のパフォーマンスは高いものじゃなかった。特に自分がボールを持った時のオンのプレーで相手に向かっていくということもできているようで、できていなかった。もっとキレだったりを出していかなくちゃいけない」

 特に押し込まれる時間が続いた後半の戦い方については、チームとしての連動についても課題を挙げた。

「後半に入って、最終ラインとボランチのところでラインが上がらなくなったというか。相手のFWが落ちてきても、その選手を簡単に離してしまって前を向かれて(攻撃の)起点を作られてしまうなど、チーム全体が前を向いてトライができなくなることが増え、ずっと押し込まれて低い位置でプレーすることになってしまった。その状況を覆すためにも、どこかでチャレンジして、もう一度自分たちの時間を取り返さなきゃいけなかったのかな、と思っています。ただ、それについては後ろの選手には後ろの考え、見え方があったはずで、前の選手の言い分だけが正解ではないので、もう一度、チームとしてどうすべきだったのかを擦り合わせなければいけないと思っています」

今年の3月には入籍と第一子誕生を発表。仲の良いチームメイト、今野息吹によれば「僕にも優しいですけど、家に行ったら奥さんにも子供にも、犬にも優しかった」そうだ。 写真提供️/ガンバ大阪
今年の3月には入籍と第一子誕生を発表。仲の良いチームメイト、今野息吹によれば「僕にも優しいですけど、家に行ったら奥さんにも子供にも、犬にも優しかった」そうだ。 写真提供️/ガンバ大阪

■臀部痛に苦しみながら、取り戻しつつあるキレと感覚。

 開幕戦から驚異的な運動量とキレ味鋭いプレーで、存在感を示していた山田だったが、第6節・京都サンガF.C.戦で臀部を痛め、戦列を離れた。その後、一旦は復帰したものの状態が芳しくなく福岡戦以降は、慎重に調整を続けてきたという。

「少し厄介な臀部のケガで…今もまだ、ボールを受ける体勢や、対人のところも、当たり方によっては激痛が走ることもたまにあります。そういう意味では、完全に痛みが抜けたわけではないけど、離脱して治す種類のケガでもないというか。そうなると、また体を起こす作業が必要になってしまうのも嫌だったので、メニューによっては少し強度を調整しながらプレーを続けてきました。また、実は1度目に離脱した時は、柏時代から抱えていた足首の痛みも少し出ていて。ガンバにきてからテーピングは外してプレーできるようにはなっていたんですけど、少しスッキリしない感じもあったんです。もちろん、試合に出るとなればそれも忘れていたつもりだったんですけど、踏み込む角度によっては足首の内側が伸びて痛っ! ってなっていたせいか、自分でも知らず知らずのうちにプレーに制限がかかっていたところもあった気もする。でも、臀部痛で調整している間に、足首の痛み自体はすごく良くなったので。あとは、臀部痛とうまく付き合いながら、本来のキレを取り戻していけたらと思っています」

 その言葉をスムーズに表現できたのが約1ヶ月ぶりのJ1リーグとなったFC東京戦だ。離脱している間は、スタンドから試合を観て「こういう部分はもっと貢献できそうだな」「こういう動きをしたら後ろの選手は助かるかもな」とイメージを膨らませていた中で、短時間の出場ながらいい感触を掴めていた。

「以前なら、思い切って(足を)振れなかったところでも、思い切り打てるようになっている。それも、ゴールにつながった理由かも」

 さらにいえば、それらを復帰後初スタメンとなった天皇杯2回戦で、長い時間を通して確認できたことも追い風になった。

「正直、強度のところはまだ100%は出せない感覚はありつつも、リハビリ期間中に描いていたことは頭の中で整理がついた上でピッチに入れたせいか、強度の足りなさを、動き方の工夫で補えているような感覚はありました。実際、福島戦も、ボールを持った時に見る場所、視界の取り方をはじめ、チームとしてボールを動かす中での効果的な役割というか、ダニ(ポヤトス監督)から求められている、タイミングを見て攻撃をグッと前に運んでいくようなプレーも、ステージが下のチームが相手だったとはいえ、意外とすんなり出せた気がする。試合後のリバウンドがなかったのも自分にとっては大きかったです」

 その『効果的な役割』ということでいうと、福島戦に続き先発を預かった今回の柏戦も、前半は特にその狙いを感じるプレーも多く見られた。試合前、柏の守備を想像した上で「中盤の優位性を作った上でのひと工夫が必要」だと話していた通りに、だ。実際、ポジションを下げながらボランチ2枚と連動してボールを動かし、攻撃を作る姿が目を惹いた。

「前に立つというよりダワンと徳真くん(鈴木)といい距離感を保ちながら、相手のボランチ2枚に対して常に数的優位を作り、テンポよくボールを出し入れして1つずつラインを超えていこうというのは、チームとしての狙いの1つでした。ただ、結果的にチャンスになる時はサイドに蹴って、そこから仕掛けて、というのが多くなり、そこまで表現できなかったのかな、と。もちろん、今のガンバはウイングにスピードのある選手がいるからそれも1つの形だと思っていますが、もう少し自分たちからしっかり崩して、前進していきたかったという反省も残りました。また、自分の判断やプレーの質も、もっと上げられるはずなので、そこは引き続きトライを続けたいです」

 そんなふうに、常にチームの『コマ』としての役割を意識しているのも、山田の持ち味の1つだと言える。彼に話を聞くたびに、自分のゴール以上に、個人に課せられたタスク、その連動がどのように表現できたのかに目を向けているのも印象的だ。そして、冒頭にも書いた通り、それがチームとしての『勝利』につながったかどうかが、彼にとっては最も大事な判断基準でもある。

「序盤、試合に出ていた時から、周りからはいつゴールを決めるんだ、的な声も聞こえてきましたけど(笑)、ゴールを決めていないこと自体には焦りはなかったです。僕のポジションとか役割的なことを考えても、自分が決めることよりチームとして点を取るとか、チームとして勝つことに面白さとか、喜びを感じていたので、ぜんぜん気にしてなかった。もちろん、決めたら決めたで嬉しいし、ホッとした気持ちもあるんだけど(笑)。でもそれも、チームが勝ったからこその喜びというか。実際、自分が何点決めようと、チームが勝てなかったら、ぜんぜん嬉しくないですしね。みんなで理想的にボールを動かして、前に進んでいくことが僕にとっての楽しさでもあるし、ガンバには一緒にそれが楽しめるクオリティの選手が揃っているので、そこをこれからもみんなで追求していきたいです」

柏戦後、「ゴールもさることながら、チームが勝てて嬉しい」と話した山田は、宇佐美とともにガンバクラップの先頭に立った。 写真提供/ガンバ大阪
柏戦後、「ゴールもさることながら、チームが勝てて嬉しい」と話した山田は、宇佐美とともにガンバクラップの先頭に立った。 写真提供/ガンバ大阪

 そういえば、先に書いた天皇杯2回戦では公式戦では初めて、イッサム・ジェバリと縦関係でプレーし、好連携を見せていた山田。試合中も再三にわたってジェバリにボールを送り込む姿が印象的だったが、そこにはある『想い』があったという。

「福島戦前に練習試合をした時も、一緒に組んだんですけど、ジェバリはストライカータイプの選手なので。今年は少し出番が減っている中で、少しモヤモヤしている気もしたから、その時の練習試合も、普段の練習でも、ジェバリと同じチームでプレーするときはとにかく『俺はジェバリを活躍させたいんだ!』とか『俺がジェバリにアシストする』と公言して、しつこいくらいボールを送り込んでいたんです。ジェバリが少しボールを持ちすぎてパスを出さないことを周りに指摘されても、僕だけはジェバリを褒め倒して、いいぞジェバリ、打てばいいぞと、盛り上げていました(笑)。その上での福島戦だったし、なんとか手助けというか、いいボールを送り込んでジェバリに気持ちよくプレーしてもらいたいと思っていました。もちろん、何でもかんでも無理に出していたわけではなく、彼がいいポジションにいたから出していたんですけど。今は少し出番が少ないけど、後半戦を戦っていく上では絶対にジェバリの力が必要になってくる。そういう意味では、福島戦でジェバリがゴールを決められたのはすごく嬉しかったです。きっと彼もここからよりギアが上がっていくと思います。…ま、僕のアシストではなかったんだけど(笑)」

 何よりもチームの勝利を第一に考える、山田らしいエピソード。ここから戦う、ヴィッセル神戸、鹿島アントラーズ、FC町田ゼルビアという上位チームとの3連戦に向けても、改めてチームとしての戦いを強調した。

相手がどうこうというより、自分たちがやるべきことをしっかりやれれば勝てるという感覚はある。勝つためにみんなでハードワークしたいと思います」

 そんな話をしている最中も、スタジアムを後にする柏の選手やスタッフが、次から次へと山田のもとに歩み寄り、声を掛けて立ち去っていく。その姿にも、山田が「特別な時間」と振り返った、柏で過ごした1年が集約されていた。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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